カプコンが2025年5月23日にPS4/Xbox One/Nintendo Switch/Steamで発売を予定しているリマスター版「鬼武者2」。プロデューサーの田中浩介氏、ディレクターの江城元秀氏へのインタビューをお届けする。
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SNSでの盛り上がりは開発陣にも伝わっていた
――23年前に発売された「鬼武者2」ですが、本作のHDリマスターを開発することになった経緯を教えてください。
田中氏:カプコンとしては、過去の良い作品もしっかり現世代機で色々な方にプレイしていただきたいという考えがある中で、常に「鬼武者2」のリスター版の計画も社内上であったのですが、環境を整える準備に時間がかかっていたんです。
ですが、先日発表させていただいた完全新作の「鬼武者 Way of the Sword - Onimusha -」の発表をきっかけに、改めてしっかり「鬼武者」シリーズ全体を盛り上げていこうとなりました。
――「鬼武者2」のリマスター版の制作は、実際にはいつ頃から動いていたのでしょう。
田中氏:2年前くらいですね。計画段階としてはもっと前でしたが、本格的に始動したのはその頃だったと記憶しています。
――ということは、初代「鬼武者」のリマスター版が出た時点では、まだ「鬼武者2」のリマスター版の予定はなかったと。
田中氏:私はちょうどその頃にプロデューサーに転向したばかりということもあって、当時の状況はわからないのですが、「鬼武者2」は人気のある作品なので、こちらもやりたいという話はあったと聞いています。
――「鬼武者2」人気と言えば、リマスターの発表時、SNSなどでもすごい盛り上がりましたけれど、ご覧になりましたか?
田中氏:はい、もちろん拝見しておりました。皆様からとても好意的なお声をいただいて、嬉しかったです。X(旧Twitter)でトレンド入りしたのをスタッフ皆で見ていて、全員で喜びました。
「鬼武者2」という単語以外にも、「ゴーガンダンテス(※敵の幻魔)」という関連ワードもトレンド入りしたので、ゴーガンダンテスもPVに入れてよかったという話をしたりもしました。
――「デッドライジング」などはリメイクに近いようなリマスターになりましたが、「鬼武者2」は原作を忠実にリマスター化していますよね。その理由をお伺いしても良いですか?
江城氏:「鬼武者2」は、オリジナル版が本当に良くできていたというのが、一番の理由ですね。
なので、原作を忠実に再現しつつもグラフィックの高解像度化ですとか、少し触りやすく現代にフィットするようにアナログスティック対応をしたりですとか、そういったあたりをベースに、しっかり原作の良さを皆様に伝えたいっていうところがあったので、プロジェクトのスタート段階からそういう方針になっていました。
――江城さんはオリジナル版の「鬼武者2」で初のディレクターを務められましたが、ディレクターというお仕事で大変だったところはありますか?
江城氏:ディレクターというのは、とにかく「決める」ことが多い仕事なんですけれど、なかなか決める基準を見極めるのが難しかったですね。
遊んでくれる方の思いも見ながら決めていかなきゃいけなくて、物を「決める」ということに関しては、初めてのディレクションではとても悩みました。
当時は、一緒にやってくれていたメインプランナーとご飯に行った時に相談してみたり、色々試行錯誤しつつ、ディレクションのスタイルを確立していきましたね。
――プレッシャーとかはありましたか?
江城氏:そうですね。「鬼武者」は初代の発売前から既に「鬼武者2」の開発が始まっていたんですが、初代「鬼武者」もいざ販売されてみたらすごくヒットしたので、やはりユーザーさんからの期待も大きいんだなとプレッシャーはありました。
――改めてこのリマスターで「鬼武者2」に触れてみて、当時のお仕事は何点ぐらいだったと思いますか?
江城氏:うーん(笑)。僕の仕事が何点というよりも、関わってくれたスタッフみんなの努力のおかげで「鬼武者2」は本当にヒットしたので、全員の仕事に対して満点、という感じですかね。
――田中さんにお伺いしたいのですが、「鬼武者2」という超ヒットタイトルのリマスターを手掛けることになった時のお気持ちはいかがだったのでしょう。
田中氏:「鬼武者2」は、僕は当時ひとりのユーザーとして学生時代にプレイしていたので、これを当時のディレクターである江城と一緒にリマスターするということだったので、もう奇跡のような出来事というか……かなり嬉しかったです。

松田優作さんの起用や、雨宮慶太さんのキャラクターデザイン、杉村氏とのシナリオの制作過程に迫る
――リマスターの発表時、松田優作さんの続投にとても安心したのですが、改めて本作で松田優作さんを採用された経緯を教えていただきたいです。
江城氏:23年前の開発当時、シナリオを担当されたフラグシップさんの杉村升先生と一緒に打ち合わせしていた時に、杉村先生からも「次の主人公はどうするの?」と聞かれて、「まだ決まっていないんですけれど」という話をした際、打ち合わせに同席されていた映像監督さんから「亡くなった俳優さんを3Dにできるの?」という話をされたんです。
なので、「動画とか資料があれば3Dモデルを起こすことは可能です」という話をしたところ、映像監督さんが、「よければ松田優作さんが所属されていたオフィス作さんに繋げるよ」とおっしゃっていただきまして、連絡をさせていただいたところ、ご快諾いただけました。
――もう亡くなった方を主役にするにあたって、当時のエピソードは何かありますか?
江城氏:当然ながら、過去の写真とか当時の映像の資料などを見て3Dモデラーが作っていくのですが、最終的にCGモデルがほぼほぼ完成段階までできた時、微調整に優作さんの奥様の松田美由紀さんが大阪の開発ビルまでいらっしゃってくださりました。美由紀さんが直接3Dモデルの画面を見ながら細かな調整をしていったことで、より優作さんらしい空気を出すことができたと思います。

――キャラクターデザインには、特撮方面に強い雨宮慶太さんを起用されていますが、その経緯を教えていただけますか?
江城氏:雨宮さんに関しても、当時まだシナリオしか進んでいない段階の頃に、「雨宮慶太さんとコネクションがあるんだけど、話してみないか」という流れでご紹介いただいて、雨宮さんと僕と杉村先生との打ち合わせの中で、「お願いできませんか」というお話をしたところ、ご快諾いただきました。
――幻魔のデザインは特に雨宮さんの特色がよく出ていると思いますが、それをCGに起こすにあたって、雨宮さんの持ち味を活かすべく工夫した点や苦労した点はありますか?
江城氏:オリジナル版当時、アートやモデリング担当の人間たちはすごく苦労したと思うんですけれども、特にテクスチャーへの書き込みです。雨宮さんはかなり細かく書き込みされるので、それを当時テクスチャーとしてスタッフがかなり頑張って作ってくれました。
ただ、当時はどうしても解像度の問題とかブラウン管テレビ主流の時代でしたので、その辺りが最大限に活かしきれなかった部分もあったのですが、今回のリマスターで当時の彼らの細かな書き込みも含めて再現されてるので、そこは結構大きなポイントになったんじゃないかなと思います。

――「鬼武者2」のリマスターで「ここは注目してもらいたい」というポイントは他にもありますか?
江城氏:背景に関しても、今回HD化によってかなり細かいところまで書き込んでいたりします。より滑らかになって、現代のプレイヤーさんが見ても美しいとか綺麗だなと思ってもらえるようになっているんじゃないかと思います。
あとはカットシーンでのキャラクターの動き、フェイシャルの動き、目の動きとかまで含めて、当時の担当者が細かくこだわってつけているんで、その辺りも見てもらえると非常に嬉しいですね。
――「鬼武者2」は前作の初代「鬼武者」と比べるとすごくドラマチックなストーリーになっていましたが、ストーリーの傾向を初代と大きく変えた理由はあるのでしょうか?
江城氏:ストーリーに関しては、一作目も杉村先生が書かれていますが、「鬼武者2」で最初にシナリオの打ち合わせをした時に、ドラマチックなものにしたいという僕の思いと、杉村先生の思いが一致したんですよね。
十兵衛とオユウの関係にしても、大人のドラマチックな展開にしたり、当時はなかなか珍しいテーマだった親子の関係であるとか、そういう部分も描いていきたいということで、そういう形のドラマになっています。
それもあって、フェイシャルの作り込みにも、このストーリーを表現するために細かくつけてもらうよう、オーダーしました。
――敵が蘇った織田信長であるというのは序盤から判明していますが、ストーリー周りはどのように出来上がっていったんでしょう。
江城氏:プロットを開発側で確認しながら、ゲームシステムとのバランスを取りつつ、「ここはもうちょっとこういう形の展開にしてほしい」とこちらから杉村先生にオーダーすることもあれば、先生から「だったらこういう形の展開の方が、よりドラマチックになるんじゃないか」みたいなご提案もいただきつつ、作り上げていきました。
杉村先生はゲームのことも非常によくわかっていらっしゃった方なんで、そこはお互いに意見を出しつつ、構築していった感じです。
――ゴーガンダンテスとか敵の幻魔もすごい個性的ですよね。
江城氏:敵の幻魔に関しても「鬼武者2」を作るにあたって、ゲームをもっと個性的に作りたいという思いが当時の僕にもありましたし、あと特に映像作品とか作られてる方たちとご一緒するなかで、敵にももっと人間臭かったりとかそれぞれに性格があって、その性格に基づいていろんな喋り方があったりするようにしていきたいというご提案をいただいたんです。
ゴーガンダンテスなどの幻魔は、ご提案いただいたキャラクターをほぼそのまま採用しています。

―― 「鬼武者2」の幻魔たちはユニークですし、初代「鬼武者」と比べて明るい町もあったりして、ホラー色は薄目になったように感じましたが、どういった流れでこうなったんでしょうか?
江城氏:初代「鬼武者」とは全く違う方向でやりたい、と思っていたわけではないのですが、あの世界をもっと広げていこうとした時に、キャラクターを増やしていきたいという気持ちがあったり、「鬼武者2」を作るにあたってやっぱり町やそこを行き来する人々を表現したかったり、という気持ちがありました。
そこに主人公の十兵衛がいて、いろんな交流をしていったり、システム面、ボリューム面を考慮した結果として、ホラー色は薄目になったという感じです。
――キャラクターに何か物をあげたらお返しのアイテムをもらえたり、というシステムとか良かったですよね。
江城氏:システム面として色々広げていった結果のシステムですが、あれは極力削りたくなくて実装しました。当時としては相当なボリュームのゲームだったので、開発チームに非常に負担をかけて負担をかけてしまいましたね。
――こういうアクションゲームで、アイテムを仲間にあげて好感度を上げて、それで展開が変わるというのは斬新でした。
江城氏:あげるアイテムのバリエーションがないとつまらなくなるので、たくさん用意しないといけなかったですし、リアクションのセリフのバリエーションとかもつけていると、もうどんどんどんどんボリュームが大きくなっていってしまって……。でもスタッフも「これは面白い」と言ってくれて、かなり頑張って実装してくれたおかげで実現できました。
それが結果的に非常に多くのファンの方に受け入れていただけたので、喜ばしいことだと思います。
――リアクションは、本当に細かくて面白いですよね。例えば、もらったものをそのまま渡してみたら、「それ、俺があげたやつじゃないか。ふざけんな」みたいな、しっかり細かなリアクションが用意されていたりですとか。
江城氏:細かいところですと、あえて好感度をゲージとかにして表示するのではなくて、リアクションという形で返すことで想像してもらいたい、と遊びを表現したかったんです。
リアルで人に対して何か贈り物を上げても、デジタルで表示されたりしないですし、数値として「ここまで上げたら分岐する」という風にしたくなくて、あえてこういう形にしました。
――ちなみにアイテムを渡す場所やタイミングや、特定の品物の後に渡すことでも絆値が変化するなど、かなり細かく設定されていましたよね。リマスター版でも基本的にはオリジナル版と変わらないのでしょうか?
江城氏:そこはまったく変えていないです。オリジナル版のままですね。

アクションはより細かく手を入れて、より遊びやすくなった
――アクション面の手触りも当時のものより良くなっていたり、移動がスムーズになっているというのは触らせていただいた時に感じたのですが、他にどういったところに手が加えられているのでしょうか?
江城氏:一閃のタイミングとかゲームの根幹に関わる部分は変えていないんですけれど、ゲーム的にカットの切り替えを行うタイトルなので、カット切り替えのタイミングによって見づらい部分を調整したりだとか、武器を簡易操作で切り替えられたりだとか、いわゆるプレイアビリティの向上をしています。
あとは細かなところですが、アナログスティックの移動加減とかは、何度も触って調整をかけていきましたね。
――改めて二十数年ぶりにプレイしましたが、「当時からこんな歯ごたえありましたっけ?」というような難易度ですよね。一閃のタイミングもですが、雑魚敵とかも結構手強いと感じました。
江城氏:そうですね、基本的に敵の強さとかはあえて当時のままなのですが、プレイしてちょっとここは理不尽だなというところに関しては回復アイテムを足したりはしていて、細かな部分で変えているところはあります。ただやりすぎるとバランスが崩れちゃうので、何度もプレイしながら調整は入れました。
――なるほど。敵の強さは変えず、回復アイテムで調整をいれているんですね。
江城氏:はい。あとは例えば、仲間が回復アイテムをくれたりとかもしますので、仲間とのコミュニケーションなどは積極的にやってもらえるといいかもしれませんね。今改めて、二十数年という期間を経てちょっと気になる部分は、より遊びやすくなるようなバランスを心がけています。
――今回、追加された高難易度の「修羅」は、一撃でも食らったらゲームオーバーというすごいゲームバランスですが、何故入れることになったのでしょう?
江城氏:「修羅」は、全ユーザーさんが対象というよりもより、腕に自信がある方とか、アクションゲームがすごく得意な方に向けた超高難易度モードになりますが、一撃で死んでしまうので、クリアする時の達成感であるとか、クリアできたことを人に自慢したくなるような要素です。ある種、「開発からの挑戦」みたいなものを、こういう形で実装することになりました。
――「開発からの挑戦」ということですが、開発部内では皆さん「修羅」を普通にクリアできるのでしょうか?
江城氏:いえいえ。開発チームでも、「修羅」モードは誰か1人クリアできればOK、くらいのレベルですね(笑)。だから本当に腕に覚えのあるユーザーさんは、是非挑戦してもらいたいなと思います。セーブも途中でできますので、こまめにセーブしながらじっくり攻めることもできるし、例えばタイムアタック的にノーセーブノーダメージで行くこともできるように作っていますので、色々チャレンジしてもらえたらと思います。
――オリジナル版の時は、武器は「とりあえず舞雷刀を強化しておこう」という感じでしたけれども、今回もやはり舞雷刀が一番扱いやすいのでしょうか?
江城氏:武器の使いやすさ自体はユーザーさんの好みでもあるとは思うんですけれど、 舞雷刀は一番最初に手に入る武器ということもあって、使い勝手はいいと思います。

――江城さんのお気に入りの武器とかはありますか?
江城氏:僕は後半の方で手に入る、「土荒鎚」とかが好きですね。地面をドーンと叩いて広範囲ダメージを与えられる武器で、豪快なので使っていて気持ちよくなれるんです。
――今回23年ぶりのリマスター版ということもあって、「鬼武者」シリーズを今回初めてプレイする人もいると思いますが、どのようなユーザーに強くプレイしてもらいたいとかありますか?
田中氏:23年前のオリジナル版をプレイした方にはもちろんのこと、「鬼武者」シリーズ全くやっていない方にもお勧めできる、すごく洗練されたアクションゲームだと思いますので、アクション好きの方にぜひプレイしてほしいですね。
江城氏:「鬼武者」の時代のゲームは、自分で学んで自分で気づいて……というところの良さがあるように思いますが、リマスターではそういう部分もそのまま丁寧に描いていますので、きっと面白い体験になるのかなと思います。遊んだことのない方には、そういうところにも注目してほしいです。
――「鬼武者3」のリマスター版の展開とかは考えていらっしゃるのでしょうか。
田中氏:「鬼武者」シリーズ全体をしっかり盛り上げていきたいという思いはあるのですが、まずはこの「鬼武者2」のリマスターと、先日アナウンスした完全新作の「鬼武者 Way of the Sword - Onimusha -」に注力していければと思います。
――では、今回初めて「鬼武者」シリーズをプレイする人も多くいると思いますので初めての方と、そしてリマスターを楽しみにしているファンの方、それぞれに向けて一言ずつお願いいたします。
江城氏:「鬼武者2」は、僕が初めてディレクションさせてもらった非常に思い入れ深いタイトルです。今回改めてオリジナル版をプレイして、気になる部分はより遊びやすくしたり、僕自身の手で細かい調整をしていますので、前作の初代「鬼武者」をプレイされている方はもちろん、今回初めて「鬼武者」を手に取ってもらう方にまで、たくさん遊んでもらえたら嬉しいです。
田中氏:「鬼武者2」は、先程も申し上げた通り、アクションゲームとして洗練されているゲームですので、アクションゲームが好きな方はもちろんのこと、難易度も変えられますのでアクションゲームは苦手だけどやってみたい、という方にまで幅広くプレイしていただきたいと思います。
当時「鬼武者2」のファンだった方にも、できる限り当時そのままの雰囲気を大事にリマスターしている作品になりますので、安心して当時の思い出と共にプレイしていただきたいなと思います。
――ありがとうございました。

(C)CAPCOM
※画面は開発中のものです。
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