フロントウイングとブシロードより2024年7月25日に発売されたPC向けビジュアルノベル「リルヤとナツカの純白な嘘」。同作の制作に関わるスタッフへのインタビューをお届けする。
車椅子に乗る盲目の少女であるリルヤ・メリと彼女の家に住み込みで働く空木夏夏が日常の謎に挑んでいく本作は、ミステリー好きや百合好きを中心に早くも高い評価を受けている。
ここではシナリオの浅生詠さんとイラストの切符さんのインタビューをお届け。本作の制作秘話を語ってもらったので、ぜひチェックしてみて欲しい。なお、ほぼ本編のネタバレは無いのでゲームプレイ前に読んでも問題ないが、なにも情報を入れずに楽しみたい人は注意して欲しい。

浅生詠さんインタビュー
――どのような経緯でフロントウイングさんから浅生さんに企画の相談が来たのでしょうか?
フロントウイングに所属になったあとでしたので、「リルヤとナツカの純白な嘘」の企画は自分から出しました。別の企画のブラッシュアップをしているとき、あれこれ調べたり見ている合間にふとアイディアを思いつき、それをそのまま当時の上司に見せて、この線でやってみようとなって、そこから企画書が通るまでかなりスムーズだったと記憶しています。
――本作は安楽椅子探偵のリルヤと助手の夏夏が活躍するストーリーですが、これは浅生さんの発案によるものでしょうか。女性キャラクターのダブル主人公や安楽椅子探偵が題材になったきっかけなどを教えてください。
自分からの発案です。最初に上司に提出したログラインが、「目が見えず足も動かない天才絵描きが、助手を目と足代わりにして、素晴らしい絵を描く話」で、絶対に女性ふたり組の話にしたいと主張したので、最初のアイディアがほぼ全て生かされている形です。ダブル主人公にしたかったのは、元々少女たちの物語が好きだったのと、当時はまっていたアニメが少女ふたり組のバディものだったからです。
――本作はミステリー作品ですが、浅生さん自身はミステリー作品がお好きなのでしょうか? 思い出のある作品や、本作を制作するうえで参考にした作品などがあれば教えてください。
ミステリは好きですね。小さい頃からホームズやアガサ先生のいわゆる名作古典はポツポツ読んでたのですが、明確にハマったのは大学に入ってからです。「魍魎の匣っていうすごい本があるぞ」と、同じサークルの知人に教えてもらったのをよく覚えています。
そこから講談社ノベルズを中心に読みはじめました。このミスにもすごくお世話になりました。ただ読みながら推理はほぼしないで、最後の散らばったピースがババババッとはまっていくある種の爽快感が目当てで読んでいるので、読み手としては邪道ですね。
思い出……というか、思い入れのある作品は沢山ありますが、“日常の謎”ものだとやはり北村薫先生の「円紫さんと私」シリーズですね。他には北森鴻先生の「香菜里屋」シリーズ、坂木司先生の「和菓子のアン」シリーズも好きです。
好きな探偵はブラウン神父と、泡坂妻夫先生の亜愛一郎です。衝撃を受けたのは、「夏と冬の奏鳴曲」「異邦の騎士」「葉桜の季節に君を想うということ」「楽園とは探偵の不在なり」でしょうか。最近だと、山田風太郎先生の推理ものがすごく面白くて読んでいます。海外では北欧ミステリがけっこう好きですね。映画の特捜部シリーズが好きでした。小説だと「湿地」がすごかったです。
ゲームでは「雨格子の館」シリーズ、「ウィッシュルーム」が好きでした。最近だとようやくプレイできた「レイジングループ」が凄まじかったですね。他には人におすすめをしてもらってインディーズゲームをちょこちょこプレイしています。「シロナガス島の帰還」や「リーガルダンジョン」がとても面白かったです。
強く影響を受けた作品はありますが、一応秘密ということで。けっこうわかりやすいと思ってますので、プレイしていてこれだ! とわかったらぜひ伝えてください。
――本作は日常のなかにある謎を解き明かしていく作品になっているため、プレイヤーを飽きさせないようにする工夫が必要だったのではないかと思います。どのような部分でユーザーの興味を引こうと思いましたか?
これまでの自分の作品は、前半はたっぷりアダルトシーンを入れたいこともあり、構成上どうしても後半や終盤に物語の比重が置かれる話になってました。が、今回は物語がメインですので、最初から話がドンドン展開するように心がけました。章が進むにつれてボリュームを段階的に大きくし、テーマも少しずつ重くすることで、右上がりに面白くなっていくように設計したつもりですが…意図した通りになっていると良いですね。
――目の見えないリルヤのために、夏夏が状況を言葉で伝えるというのが本作の重要なポイントですが、夏夏の言葉の表現で気を使った部分や注目して欲しいところはどこですか?
言葉の表現は、夏夏の主観や感情に重きを置くように気を使いました。注目ポイントは、質問の意図からすこしズレますが、そんな言葉に血肉を与えてくださった伊駒ゆりえさんの演技ですね。聞いたとき、夏夏の言葉に色が宿ったと感激しました。

――本作は地の文が少なく、ほとんど会話文で進んでいきますが、こういうスタイルにした意図を教えてください。
リルヤが目が見えないキャラですので、リルヤが夏夏から言葉を受け取り生かすその状況を十分に表現するために、耳で聞ける会話文をメインにしました。それとオートで流しっぱなしにして、気が向いたときにくり返し聞ける作品にしたいという意図もありました。
――女性キャラクターしか登場しないということで、本作に百合的な要素を期待しているユーザーも多いと思いますが、女性キャラクターだけのシナリオを書くにあたり気を付けたポイントはありますか?
自分が女性キャラメインの物語を読むときには、絶対に登場人物全員が女性のほうが嬉しいので、名前ありのキャラだけではなく、モブを含めて全員女性にしました。そこまでしなくてもいいのでは? とやんわり助言もいただいたのですが、絶対に全員女性にしたい! させてくれ! と、強く主張しました。
それから、周囲の女性の方々に色々とアドバイスをいただきました。現実的な舞台なこともあり、各キャラの洋服や化粧品のブランド、好きな料理やお菓子、部屋や家具のコーディネートもですが、現実の女性の心理なども教えていただいた上で、フィクションとしての枠組みの中で女性キャラがどのように生きるかを考えて、取捨選択をしました。衣装のデザインは切符先生にほぼお任せでしたが、フィクションでありながらも現実的なラインを保っており、リルナツの世界観に非常にマッチしてとても有り難ったです。

――各キャラクターについて、どのように生まれたキャラクターなのか教えてください。秘められたテーマや、ゲーム内では描かれない設定などもあれば教えてください。
リルヤ・メリ
最初は別の名前だったのですが、テーマが固まったところで名前を変えました。最初は「偏屈で、人嫌いで、気まぐれで、怒りっぽい」キャラだったのですが、詳細プロットを書いているうちに、クールでありながらも王女らしい鷹揚さとやや茶目っ気のあるキャラになっていきました。今の性格のバランスになって正解でした。
リルヤの住居はビルの最上階の二階分をぶち抜き、ワンフロアに改装して住んでいます。実は、トイレや風呂やベッドサイドに、声で反応する移乗用ロボットアームがあります。リルヤは、使用者目線のアイディアからこれで特許を取得し、近々介護用品の会社を設立する予定です。"
空木夏夏
絶妙なキラキラネームというのが名前の由来です。ものすごく力持ちなので、実はリルヤを車椅子ごと運べます。リルヤの家に住み込みで働くまでは超絶貧乏暮らしだったので、寒い時期は下宿の部屋の中でもテントを張って暮らしていました。
好き嫌いは一切ありません。「え、好物ですか? そうですね……生でなければ……あと虫でなければ……」という感じですが、たぶん虫料理も美味しく調理されていれば食べます。食べ物に貴賤なし。
春日衣優
普通の優しげなお姉さん。実は設定を作る際、普通のお姉さんの“普通”とは何かに悩んだキャラでした。色々なアドバイスをいただいて、フルタイムで働く会社員で、SNSもほどほどに使い、流行り物もほどほどに取り入れ、旅行もするし、お酒もほどほどに嗜む、大人ではあるけどまだまだ悩み多き二十代のお姉さんというキャラになりました。
安くて可愛い雑貨を集めて可愛いお部屋にするのが好きで、節約したいな~と思いつつ、ついかわいい小物やおいしそうなコンビニスイーツを買っちゃうタイプですね。
実家は四人家族で、ふたり姉妹の妹。家族仲は非常に円満。近所に祖父母も住んでいるし、親戚も多い。地元では昔から知られたお店を営んでおり、姉が跡を継いだので、割と何でもしていいよと言われている愛ある放任状態の娘です。
――プロローグ以降に登場するキャラクターやストーリー展開について、ネタバレにならない程度に魅力や注目ポイントを教えてください。
リルナツは、盲目の画家のリルヤとその目と足の代わりになって働く助手の夏夏がふたりで協力して絵を描いていく話ですが、プロローグ以降も謎めいた内容の依頼がふたりの元に舞い込みます。各章の依頼の絵を完成させていくなかでのふたりの関係性の変化や、お互いに向けられる想いの強さに注目していただけると有り難いです。
それともう一つ、注目してもらいたいものに「サブタイトル」があります。他の作品でもよく見かけますが、リルナツにもセーブ用にサブタイトルを付けてあります。書いているうちに段々と興が乗ってきて、そのシーンのテーマや雰囲気にあわせて色々と遊んでいるんですね。なので、気が向いたらセーブしまくって、サブタイトルを見てみてください。
――浅生さんがとくに気に入っているキャラクターや注目して欲しいキャラクターがいたら教えてください。
やはりリルヤと夏夏のふたりですね! 静と動が際立つ凸凹コンビは、ずっと書きたかったので感無量です。ふたりの強い絆や信頼、お互いを大事に思う気持ち、無意識なイチャイチャを、はいはいごちそうさまと思いながら眺めていただきたいです。
――ファンにひとことお願いします。
これまでの自分の作品を知っている方は、浅生詠が全年齢作品を出すということで驚かれたり戸惑われた方も多いと思います。自分もこの作品をどのように説明するか悩んだ時期がありました。そんなとき、とある方に「内容を説明するときにあまり全年齢を強調しすぎる必要はないかもしれない。リルナツもこれまで浅生詠が書いてきた内容から決して乖離するものではなく、十分に“18禁的”要素を内包する」と言われ、確かにそうだと頷きました。わかりやすい凄惨なシーンはありません。それでも、リルナツはこれまで培ってきた全てを込めた作品です。「リルヤとナツカの純白な嘘」どうぞよろしくお願いいたします。
切符さんインタビュー
――フロントウイングさんから依頼が来たときと、ストーリーを読んだときの感想をお聞かせください。
日頃から美術館へ行ったり好きな絵画の元になった土地へ足を運んだりと、絵画がとても好きでよくモチーフや質感を取り入れておりました。なので、“絵を描くこと”が軸にある作品に携われたことが純粋にとても光栄に感じました。
それと同時に、ストーリーを読み進めて行くとリルヤや夏夏を始めとしたキャラクター達が持つ「絵」に対する視点・思い・絵に対する価値に触れることで、では私自身はどう向き合いたいのか? どの感情を動かしたいのか? を一人のイラストレーターとして、とても考えさせられました。
――切符さんは百合を題材にした作品に多数参加されていますが、そんな切符さんから見て本作はいかがでしたか? リルヤと夏夏の関係の感想などお聞かせください。
リルヤと夏夏はお互いが光と氷のような関係だと感じています。心の奥底にある氷を唯一溶せかる存在であり、透明で一番美しい純粋な部分を照らし浮かび出せてくれる……そんな透明で眩い関係だと思います。"
――全体のキャラクターのデザインの方向性やカラーの色見などはフロントウイングさんから指定がありましたか? 切符さんのほうで本作全体のイメージで意識したものがあれば教えてください"
キャラクターは髪の長さや身長など土台となる部分の指定はありましたが、ありがたいことにとても自由にデザインさせていただけました。それぞれの章で異なるテーマ・関係性があるので、そこからインスピレーションを受けてデザインしています。全てプレイした後に改めてキャラクターのデザインを見返すと面白いかもしれません。
キービジュアルや全体を通してのイメージについては、お話がとても繊細かつどこか白昼夢のようなふわふわとした心地良さがあったので、いつか夢で見たことがあるような、どこか幻想的で柔らかいアトモスフィアを大切にしています。
――各キャラクターのデザインの注目ポイントや、初期デザインから変わった部分などがありましたら教えてください。
リルヤ・メリ

リルヤは名前に百合が入っているので、メインモチーフとして分かりやすく取り入れています。また、夏夏がリルヤのことを度々“妖精のような~”と表現しているので、淡く儚げだけれどしっかりとした芯と強さのあるバランスを意識しました。
初期は今よりも大人びたデザインで差し色に黒などを入れていましたが、メリハリをつけるよりも柔らかと儚さを大切にしたいと思い、今の色合いに仕上がりました。
空木夏夏

太陽のように眩しく明るい存在の夏夏は、向日葵を意識したデザインになっています。初稿ではパーカーやパンツの色などを全て緑系にしましたが、内面に比べて大人しすぎるため黄色をキーカラーに置いて配色し直しました。また、夏夏の洋服デザインや靴のチョイスについてはきちんとした理由があるので、どこかで話せる機会があれば良いなと思います。
春日衣優

優は作中で最も私たち現代人に近い場所にいる存在だなと感じたので、美味しいお菓子や可愛いものと恋愛話が好きで、ロマンチックなものに憧れる……会社やお友達など、身近にいそうなキャラクターを目指しました。
また、青空や青いリボンの制服が出てくるので、彼女が好みそうな優しい水色のシフォン素材のワンピ―スやピンクのネイル、パートナーの影響を受けたアクセサリーなどもポイントです。
――プロローグ以降に登場するキャラクターも含めて、切符さんがとくにお気に入りのキャラクターを教えてください。
どの子も性格やそのキャラクターの趣味嗜好に沿ったデザインにしているので、それぞれのバックグラウンドやこの洋服を纏ってどんな生活をしているのかを大切にしています。その中でも羽ヶ崎姉妹たちは作中の中でも一番若い年齢というのもあり、まだ少女でいたい夢見がちな若者というのを裏テーマにしているので、特にお気に入りです。

――キャラクターの表情パターンのなかでとくにお気に入りの表情があれば教えてください。
キャラクターの個性に合わせて、それぞれ笑うと少しだけ印象が変わるように描いているので、是非通常時と見比べて欲しいポイントです。
――イベントCGに関して、とくに気に入っているものがあれば、教えてください。
どれも表現を試行錯誤したのでお気に入りは沢山あるのですが、ワルツのシーン、そして最後の一枚が特にお気に入りです。話せる範囲になりますが、ワルツは章のキーカラーをふんだんに使っているので華やかだけれどノスタルジックさも感じられる、良い一枚だと思います。
――ファンにひとことお願いします。
シナリオの浅生詠先生の美しく愛に溢れた物語に是非目と耳と心で浸って、柔らかなこの作品が誰かの大切な思い出になれたら、幸いです。
(C)Frontwing
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