スクウェア・エニックスからPS4/Nintendo Switch版が2021年10月28日、PC(Steam)版が2021年10月29日に発売された、ダウンロード専用タイトル「Voice of Cards ドラゴンの島」(以下、「ドラシマ」)のプレイレビューをお届けする。
本作は、クリエイティブディレクターをヨコオタロウ氏が、音楽制作には岡部啓一氏が、そしてキャラクターデザインには藤坂公彦氏と、「ドラッグ オン ドラグーン」や「ニーア」シリーズを産んだクリエイターらが参加している。
本稿は、出来る限りネタバレに触れないレビューとなっているが、本作の特徴のひとつとも言えるインパクトの強いテキストに触れないわけにもいかないため、できるだけ新鮮な気持ちでプレイしたい人は注意してほしい。
テーブルトークRPGというものを知っていますか?
本作は、テーブルトークRPG(TRPG)と呼ばれるアナログゲーム風のゲームとなっている。とは言っても、実際にTRPGを遊んだことがない人や、実はTRPGというものがよくわからない、という人も多いだろう。
TRPGとは、テーブルを囲み会話をしながら遊ぶ、ロールプレイングゲームのことを言う。一般的にアナログで行われることが多いが、最近はオンラインで行われるセッションも増えてきた。
TRPGの最大の特徴は、ゲームマスター(GM)という、ゲームの進行役がいること。そして他の参加者はプレイヤーとして参加する。シナリオによって異なることもあるが、多くのTRPGではGMがシナリオや現在の状況をプレイヤーに伝え、プレイヤーの要望を聞いて、場合によってはプレイヤーやGMがダイスを振り、ダイスの目次第で行動が決定する、というようなこともある。
簡単に言うと、「AとBの分かれ道がある、どちらに進みますか?」というGMのセリフに対して、プレイヤーがただ「Aに進む!」というだけで物語が進行する場合もあれば、「AとBの分かれ道がある。プレイヤーはダイスを振り、ダイスの目が1~7ならばAに、ダイスの目が8~10ならばBに進む」(※10面ダイスの使用を想定)といった進行もある。
TRPGの場合、事前に作成しておいたキャラクターシートに則ってプレイヤーからも様々なイベントを起こせるのだが、本作はあくまで「TRPG風のゲーム」であるため、そこの詳細は割愛する。
TRPG風な本作では、シナリオ、舞台、GM、プレイヤー、という、TRPGでとにかく大変な準備段階の部分は既に揃えられている。そのため、ゲームの手触りはベーシックなコマンド型のRPGなので、特に難しいことはない。
本来であればカットシーンとして作られるような場面も、大体はGMの朗読のみで進行する。キャラクターのセリフも、GMが語る。プレイヤーである“君”のセリフはもちろんのこと、女性のキャラクターのセリフまで全てGMが読み上げる。
本作でGMを務める安元洋貴さんの立ち位置は、実に面白い。安元さんは本作に於いてあくまで“GM”であり、キャラクターに命を吹き込むというよりは、淡々とシナリオを読み上げている存在だ。時に感情らしきものも伺えるのだが、それはキャラクターの魂ではなく、GMとしての人間的な感情に近い。
もちろん、これはあらかじめ収録された予定調和なボイスではあるが、このさりげない演出が実際にテーブルを囲んでいるような気持ちにさせてくれる。
このようにGMが読み上げていくシナリオに沿い、ゲームは進んでいく。キャラクターもカードとなって登場するが、マップもカードで描かれており、全編においてアナログ感が前面に押し出されている。
“TRPG風”ではあるが、“動くゲームブック”とも呼べるゲームだろう。
スキルカードを選んで、強敵との闘いを勝ち抜こう
バトルもあらかじめセットしておいたスキルカード4枚の中から、どれかカードを1枚選ぶだけ、というシンプルな内容。つまりは見た目こそカードであるものの、コマンドバトルと同様だ。
カードによっては、「ダイスで出た目のダメージを与える」「ダイスで出た目によって状態異常を付与する」といったものがある。また、画面左上には自ターンの行動ごとに「ジェム」と呼ばれるクリスタルが貯まっていくので、カード次第ではジェムを消費しなければ使えないものもある。
ジェムを消費しないで出せるカードもあるため、ジェムの残数を考えながら誰に何のカードを使わせたいかを考え、ダイスの目によるランダムさも交えつつ、バトルを勝ち抜いていく必要がある。
レベルが上がっていくといずれのキャラクターも多くのスキルを修得していくが、装備できるのはそのうちの4つ。所持スキルを全てジェム消費するスキルで埋めてしまうと、いざという時に何も行動を選べないこともあるため、バトルに出すメンバーとスキルの構成はとても重要だ。
パーティの盾役となるような主人公、巨体を活かした物理攻撃が得意なメルブール、属性攻撃が得意な魔法使いのクロエ、状態異常が得意な弓使いのリディ、バフと回復が得意なマッチョ・ブルーノ。この中からバトルに出せるのは3名だ。圧倒的な攻撃力で「殺られる前に殺れ」というパーティも組めなくもないが、本作では持ち物の所持上限数なども決まっているため、あまり有効ではない。
金銭的な猶予もあまりないため、回復はできればバトルの間にスキルカードで行っておきたい。回復スキルを持つキャラは数名いるが、その中から誰にどのようなスキルを持たせて、どのようにパーティを組んで、どう攻撃していくのが良いのか……その模索こそが本作の一番中心とも言える部分だろう。
ボスはもちろんのこと、雑魚相手でも状態異常などを喰らうと一瞬で死にやすい。
だからと言って難易度が高いのかというとそういうわけではなく、あくまで「きちんと戦略を持ってパーティとスキルを組もう」という点と、「ジェムの消費数に気を付けよう」という2点を意識していれば、全滅を喰らうようなことは滅多にないはずだ。むしろ頻繁に全滅をしてしまうような場合は、この2点に問題があるとも言える。
例えばどうしても外したくないキャラクターがいる場合は、そのキャラクターをどうやったら活かせるかを考えて他の2名と、スキル構成を考えれば良い。
……というこのバランス感は、実に楽しい。ひとりだけ異様に強いキャラクターがいて、そのキャラクターが延々と強スキルを連打していれば終わるバトルならば、味気がない。もちろん最終的に「自分が組み上げた必勝に近いスキル回し」というのは少なからず存在するのだが、それもプレイヤーによって様々な戦術があることだろう。
マップの広さに対してエンカウント率は高めだが、ゲーム全体のバランスとしては極端にバトルに偏った印象はあまり受けない。「こういうゲームだと、バトルはこのくらいだろうな」という温度感だ。
ただ、その温度感はファミコン(FC)やSFC時代のタイトルに近くもある。「この移動速度と広さなら、このエンカウント率が最適」というバランスは、確実に存在する。例えば過去のFCタイトルの移植版で移動速度を倍速にできるようにしたところ、少し歩いただけですぐエンカウントしてしまうように感じるようになった、というのが、それと同じだ。今後アップデートでゲームスピードが上がる対応がされるとの話もあるが、それによってより一層「すぐバトルになる」という気持ちになってしまわないか、少し心配だ。
『#VoiceOfCards ドラゴンの島』では、発売後にスピードを上げてプレイできるオプション追加のアップデートを検討しております。アップデートの時期は未定です。また一部スピードがあがらない箇所もあり、体験版『Voice of Cards ドラゴンの島 Demo』での対応予定はありませんので、ご了承ください。
— Voice of Cards ドラゴンの島 (@VOICEOFCARDS) October 27, 2021
ただ、体験版などを遊んでみた人が「どうしても速度感が気になる」というならば、このアップデートの対応がされてからプレイしてみるのも良いだろう。
キャラクターはいずれも個性に溢れてる!
本作のストーリーは「民を苦しめるドラゴンを討伐してこい」というシンプルなものだが(ドラゴンを倒して終わるのかはぜひプレイヤー自身の目で確かめてほしいところ)、マップやイベントもカード、ストーリーはGMの語りのみ、物語を彩る美しいBGM……と、ほぼこの3つの要素で構成されている。だからこそ、藤坂氏が描くキャラクターたちのカードの美しさも際立っている。
旅の目的そのものはシンプルだが、合間に挟まれる様々なエピソードに思わず笑いがこぼれたり、驚きの声が上がったりするといった、“テキストを読んで楽しませる”要素が非常に濃い。
以下はリディの家が火事になったあとのイベントのヒトコマだが、「オーヤ」という名前ももちろんのこと、「火災保険……あるんだ……」というような、じわじわとした笑いがこみ上げてくる。
登場人物は5人のキャラクターは、いずれも強烈な個性がある。
例えば、主人公である君は魔獣であるメルブールの溺愛ぶりもそうだが、とにかく金にがめつい。そもそも主人公がドラゴン討伐に名乗りを上げたのも「賞金が欲しいから」というそれだけであり、仲間が増えそうになるたびに「賞金の取り分が減りそうだから嫌だ」と零すほど、金に執着している。
クロエは魔獣が大嫌いで、メルブールを連れている主人公に嫌悪感を露わにするものの、それでも自身の心に折り合いをつけてドラゴン退治の旅に同行することとなる。
リディは迷いの森で出会うが、致命的に(様々な方面で)残念な少女だ。弓使いでデバッファーに近い役割ながら、実は攻撃力そのものも非常に優秀。
そして最後に仲間になるブルーノは、ムキムキなマッチョでありつつ、職業はなんと栄養士。「これがパワーの力だ」というセリフを連発するが、力ではリディが圧倒的に強く、実はバッファー及びヒーラーに近い役割というのも面白い。
特にブルーノなどは個性が爆発しすぎてどこへ向かうのかもわからないようなキャラクターとなっているが、実は主人公の君を含め、シナリオ上でのセリフはそこまで多くはない。だからこそ、ほんのわずかなセリフでそのキャラクターの人となりを知れるような印象的なセリフが心に残る。
前述の通り、キャラクターにCVはない。立ち絵もカード一枚のみで、表情の差分すらない。このようにゲームの画面から得られる情報が少ないからこそ、プレイヤーの”想像力”も駆使したい。
「このキャラクターは、どんな顔をするのだろうか」
「ここではセリフはないけれど、どんなことを思っているのだろうか」
ひと昔前のゲームでは、当たり前にCVもなく、表情もなかった。あるのはドット絵の一枚のみという中からプレイヤーは様々な想像を膨らませたものだが、それに近しい。
ヨコオ氏のゲームの魅力を手軽に知れるタイトル
クリエイター・ヨコオタロウ氏の名前を知っていても、実はまだあまりヨコオ氏のゲームに触れたことがない、という人もいるだろう。筆者が本作を最後までプレイした印象としては、「この作品はヨコオ氏のタイトル初心者にこそ触れてほしい」という物語だった。
むしろヨコオワールドのファンとしてはある程度想定の範囲内なのだが、ストーリーは全体的に(※ヨコオワールドの中では)非常にまろやかなものとなっており、ヨコオワールドに触れたことがない人ならば、「おお……」という声を上げる展開も、多くあるだろう。
決して長いストーリーではないが、全編を通じてシナリオの文章そのものに魅力を感じられ、まさに「パワーの力だ」とでも言いたげな言葉運びの数々に、自然と引き込まれてしまう。
また、物語の軸はシリアス……なはずなのだが、「ギャグなのかな?」と首をかしげる場面が多い。しかしそれは物語そのものを壊すものではなく、シニカルな笑いすらも「ドラシマ」の世界観のひとつとして、完全に取り込んでいる。
「想像で補う」ということに疑問を感じる人もいるかもしれないが、ヨコオ氏の作品には得てしてそういう部分がある。
例えばヨコオ氏がディレクターとしてその名を挙げた「ドラッグ オン ドラグーン」では主人公カイムが序盤でいきなり声を失い、言葉を一切発することが出来なくなる。
世界的な大ヒットとなった「NieR:Automata」では、アンドロイドの2Bが「感情を持つ事は禁止されている」としばしば口にするように、彼女の心はとある衝撃的なシーンまで、かなり無機質なものとして描かれている。
つまり「描写のない部分を想像をする」というのはヨコオ氏が関わった多くのタイトルにて共通のものであり、「ドラシマ」はヨコオ氏の作風を知るには最もお手頃かつお手軽なタイトルだと言えるのだ。
確かに情報が多ければ多いほど、より緻密な想像をしやすい。しかし、情報がない部分が多ければ多いほど、その隙間を自由に自分の想像で埋めることが出来る。
ではその隙間を補えなければ、「ドラシマ」は楽しくないのか?――それについても「NO」と言いたい。筆者は序盤からクリアまで、何回思わずクスっと笑い声を零したか解らない。これはあくまで想像に過ぎないが、「どこを面白いと思うのかすら、プレイヤーに委ねたい」という、そんな大きなお題をぶつけられたような気持ちにさせられた。
ちなみに、筆者は本作をプレイステーションハードで遊んだが、思いついた時に短時間だけ遊ぶのにも丁度よいゲーム性なこともあり、Nintendo Switchとの親和性が高いと感じた。きちんとエンディングがある物語を遊びたいけれどなかなか時間が取れないという人にも、ぜひ本作をオススメしたい。
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