任天堂から2025年3月20日に発売されたNintendo Switch用RPG「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」(以下「ゼノブレイドクロスDE」または「DE」と表記)のレビューをお届け。

目次
  1. いまなお圧巻のオープンワールド、惑星ミラ
  2. バトルではクイックリキャストとUIの改善で“格上への挑戦”の醍醐味が味わいやすく
  3. ゲームプレイに劇的な変化をもたらす人型兵器・ドールと驚愕の“フレスベルグ”
  4. 各種クエストで紡がれるのは“絶望や断絶を乗り越えて進むための希望”
  5. 「人を選ぶ」がアイデンティティになっているとはいえまだまだ整理の余地はありそう
  6. `現時点の最善に限りなく近い、唯一無二の魅力を最高にほど近く引き出したゲーム

本作は2015年に発売されたWii U用タイトル「ゼノブレイドクロス」の決定版。ゲームを構成するあらゆる要素がブラッシュアップされており、快適性やバトルのわかりやすさ、爽快感が大きく向上。Wii U Game Padを使用する2画面を前提としたUI(ユーザーインターフェース)は1画面に収まるように、そして携帯モードでのプレイも考慮してテキストサイズは大きく調整。

ゲーム内のキャラクターモデルも親しみやすいものに刷新されており、冒険をともにするパーティーメンバーはWii U版にてDLCで追加されたキャラクターを含む18人にさらに4人が追加されて、それぞれに固有エピソードも存在。その上、メインストーリーにはエンディングの“その後”のエピソードまで追加されている……と簡単に列挙するだけでも、かなりの大改修が行われている。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

最初に断っておくと、筆者は「ゼノブレイド」シリーズの熱心なファンではない。シリーズの原点であるWii版「ゼノブレイド」は新たな大作への期待から発売日に購入したが、あまり熱中できずに中盤あたりでプレイをやめてしまっている。

「ゼノブレイド」がそこまで楽しめなかったため、ストーリードリブンなゲームになっているであろう「ゼノブレイド2」と「ゼノブレイド3」は現時点では購入さえ見送っている。また、開発スタッフが「ゼノブレイド」以前に関わっていた「ゼノ」と名が付く作品群にもエンディングまでプレイできたタイトルはひとつとしてない。開発元であるモノリスソフトが関わったゲームで言えば「バテン・カイトス」シリーズの作風のほうが好みだ。

そんな筆者が唯一エンディングまでプレイできた「ゼノ」を冠するゲームが「ゼノブレイドクロス」だった。筆者が「ゼノブレイドクロス」だけは楽しむことができた、その唯一無二の魅力の一端は、レビューを読み進めれば未プレイの方にもある程度伝わるのではないかと思う。

「ゼノブレイドクロス」に関しても、エンディングを見届けてからそこまでやり込むことはしなかった(翌月に発売された「スプラトゥーン」にのめり込んでいったのが要因としては大きい)のだが、それから10年、このゲームで味わった強烈な体験を更新するタイトルが現れなかったことで、改めて当時のゲームプレイに想いを馳せることが増えていた。そんななかで発表された「ゼノブレイドクロスDE」には、改善点や追加要素の実態が明かされるたびに大きな期待が膨らんでいった。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

新要素にも気を配りつつ、もともとの「ゼノブレイドクロス」が持っていた魅力、そして大改修が行われてなお無数に残る“尖り”も、本稿はあらゆる読者に巨大な作品の全体像が伝わるものになることを意識した。どの程度達成できているか分からないが、最後まで楽しんでいただけたら幸いだ。

なお、本稿はほとんどオンライン要素を利用することなく新エピソードの結末まで見届けた直後に執筆している。オンライン要素やクリア後のやり込み要素についてはいったん保留としたレビューである点もあわせて留意してほしい。

いまなお圧巻のオープンワールド、惑星ミラ

「ゼノブレイドクロス」というゲームの主役は、やはり惑星ミラだろう。5つの大陸を途切れることのないひとつのフィールドとして表現した広大なオープンワールドが採用された本作。その多様な風景と起伏に富んだ地形、想像を絶する巨大生物たちが闊歩する光景には、およそ10年ぶりのプレイでも惚れ惚れとさせられる瞬間が何度もあった。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

改めて気付かされたのは、“地球を追われた人類が新天地として未知の惑星を探索し、ここで生きるための術を身に着けていく”というストーリーと各種設定が、如何にオープンワールドにおけるゲームプレイを踏まえて形成されているかということだ。

プレイヤーにその自由が委ねられたオープンワールドの探索は、ともすれば“世界を救う”といったストーリーに対して必然性がない“壮大な道草”になってしまいかねない。「ゼノブレイドクロス」ではフィールドを六角形の“セグメント”で区分けし、すべてのセグメントに達成されるべき条件を敷き詰めることで広大さとゲームとしての密度を両立。各セグメントで条件を満たせば“調査率”が上昇して、人類の惑星ミラに対する理解が深まっていくことになる。

とくに“フロンティアネット”の拡充は、マップの開放と周囲のセグメントで達成すべき条件の開示、さらには資源の発掘や収益などに繋がる。設定としても人類が生き長らえるために見付けなければならない、この惑星のどこかにある“セントラルライフ”発見のために重要であると位置付けられており、プレイヤーの探索欲はそのまま「この星で生きていく」ことを運命付けられた人類にとっての力となっていく。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

オープンワールドというゲームデザインから徹底的に逆算して作られたのだろうと思われる各種システムと世界設定による没入感は、“ゲームをオープンワールド化すること”をまさに開拓者のように探求していた当時の試行錯誤の結実と言えるだろう。「DE」では“ブレイドレベル”の廃止により、せっかくマップを頼りにトレジャーを手に入れに来たのに目的が達成できないといった徒労感がほとんどなくなり、好奇心で駆動するゲームプレイはいっそうスムーズなものになった。

バトルではクイックリキャストとUIの改善で“格上への挑戦”の醍醐味が味わいやすく

“未知の惑星の調査が進んでいく”という設定に呼応するように、序盤・中盤・終盤と探索におけるプレイフィールが大きく変化していくのも「ゼノブレイドクロス」の体験を唯一無二たらしめている。その変化はレベルの上昇によって緩やかに、そして人型兵器・ドールの解禁により劇的にもたらされていく。

前作「ゼノブレイド」からユニークな体験だった“序盤から足を運ぶ場所に、その時点では敵うはずもない高レベルのエネミーが徘徊している”フィールドの設計は、「ゼノブレイドクロス」でさらに象徴的なものに。これが「人類の常識が通用しない未知の惑星で、危険と隣り合わせの調査を行う」ことに説得力をもたらしている。なかでも固有名を持つエネミーは人類にとって危険な討伐対象として“オーバード”と名付けられており、討伐がセグメントの達成条件となっている個体も多く、「いつか必ず倒す」というモチベーションに繋がる。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

オーバードはしばらく勝てる見込みがない大きなレベル差があるものだけでなく、少し頑張れば討伐できそうなものも多いのがポイント。デスペナルティがほぼゼロに等しい(ドール搭乗時を除く)本作では、気軽に強敵へと挑戦できて、撃破できれば大きな成長の実感と達成感に繋がる。

オーバード戦の専用曲である「Uncontrollable」が“太刀打ちできない脅威に捕捉された恐怖”を伴うものから“好敵手との死闘を勇猛に盛り上げる”ものへと変化することでもたらされる高揚感は、「名を冠する者たち」シリーズに負けず劣らず堪らないものがある。全曲を澤野弘之氏が手掛けた「ゼノブレイドクロス」のBGM(「DE」の新規楽曲には馬瀬みさき氏が手掛けたものも含まれる)のなかでもとくに強く印象に残る楽曲と言えるだろう。

強敵に戦いを挑むのは操作キャラクターたちが相応のレベルに育つのを待つのが効率的ではあるが、「相手が格上のうちに打ち破るにはどうすべきか?」を考えた構築を模索するのもやりがいがある。

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武器を構えていれば“オートアタック”により自動攻撃、最大8つまで設定できる“アーツ”の任意使用を織り交ぜて立ち回るリアルタイムバトルを採用している本作。もともとアーツは種類ごとに一度使用すると一定時間使えない“リキャストタイム”があったのだが、「DE」では“エネルギーゲイン”を消費すればリキャストタイム中でも連発が可能になった。これにより使用アーツが制限されている序盤などにおけるバトルのテンポが向上、仲間からの声に特定のアーツで応えることでプラスの効果をもたらす“ソウルボイス”も成立しやすくなり、戦術の幅も大きく広がった。バトルが終わるたびにHPとエネルギーゲインが全回復する本作では、いかなるバトルでもこれらの温存を考えずに全力で目の前の相手に立ち向かえばいい。

ストーリー序盤が終わるころに解禁される“オーバークロックギア(O.C.ギア)”を使用すれば、すべてのアーツのリキャストタイムが大幅に短縮され、リキャストタイム3周ぶん待つことで効果が跳ね上がる“トリプルリキャスト”も解禁されて、バトルスピードと叩き出す攻撃力が爆発的に上昇。さらに格闘・射撃・支援・弱体・オーラなどのアーツの効果によって割り当てられているアイコンの色を踏まえ、特定の順番で使用すれば補助的な効果が重ね掛けできる“カラーコンボ”も発生するようになる。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

O.C.ギアが使えるようになると、そのスピード感と情報量に圧倒されて、最初のうちはカラーコンボまで意識する余裕はないだろう。筆者の場合、まずはO.C.ギア発動時に消費する“テンションポイント(TP)”がどんな行動で貯まるのかを意識して、ここぞというときにO.C.ギアが発動できるようなアーツ、スキル構成を考えた。UIの改善で“どんな状況でどのアーツが効果的なのか”が分かりやすくなったこともあり、アーツとスキル、それから装備品の効果をどのように組み合わせればより強力なシナジーが発生するのかを考えた構築、これを見据えた育成のハードルは下がったように思う。

ゲームプレイに劇的な変化をもたらす人型兵器・ドールと驚愕の“フレスベルグ”

O.C.ギアの興奮も冷めやらぬうちに、その次のストーリークエストをクリアするとついにドールを手に入れるためのクエストが受注可能となる。移動速度が生身の約5倍となり、その巨体を活かしたジャンプではこれまで四苦八苦していた高低差も踏破しやすくなるドールに搭乗すると、人間にはあまりに広大に感じられたミラが相対的に小さく見えるように。

かつてそのスケール感に圧倒されていたフィールドをテクノロジーの塊に乗り込んで闊歩するのは、それ自体が大きな感動をもたらしてくれる。巨大なエネミーは小さいものと比べるとレベル以上に手強く設定されており、ドールでの戦闘でようやくレベルに見合った渡り合い方ができるようになるあたりも一気に世界が変わって見える要因のひとつだ。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

さらにストーリー終盤では“フライトユニット”の開発により、すべてのドールが飛行能力を手に入れる。完全なる自由をもたらす移動手段を手に入れて、それまで行くことのできなかったすべての場所に行けるようになる高揚感は筆舌に尽くしがたい。空を飛び回っていたようなエネミーにも手が届くようになり、空中で戦いを繰り広げる構図になることも。本作をプレイするならばぜひともこの2回目の“劇的な変化”まで体験してほしい。

移動能力の向上において極めつけと言えるのが、飛行形態への変形機構を備えた「ゼノブレイドクロスDE」における追加機体“フレスベルグ”だ。おそらく10年前の「ゼノブレイドクロス」では処理能力の関係で不可能だったであろう高速飛行は、複数の大陸を横断して惑星ミラの端から端までものの数分で移動できてしまうほど。「ゼノブレイドクロス」経験者ほど驚かされるだろうし、これを差し引いても眼下の雄大な風景が高速で流れていくのは本当に気持ちがいい。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

先に少し触れたが、“ドール保険”により何度か回避できるとはいえ、ドール搭乗時にHPがゼロになって大破してしまうと修理費が掛かるし、自動回復を超える量の燃料の補給にはフロンティアネットから採れる“ミラニウム”を消費するなど、ドールでの探索は生身のときよりも注意すべき点も増える。

また、ストーリー攻略の時点でのドール戦闘ではクイックリキャストは使用できず、生身でのバトルに大きく手が加えられた「ゼノブレイドクロスDE」では相対的に物足りなく感じるのは気になる点だ。筆者は早い段階で“探索はドールで、バトルはドールから降りて生身で”が基本になったが、このあたりは生身とドールのどちらに資金を掛けて装備をカスタムしていくかによって変わってくるかもしれない。

強大なエネミーに怯えながらの探索を経て、レベルアップやカスタマイズに関する試行錯誤を重ねて少しずつ倒せる敵が増え、安全に闊歩できる場所が拡大していく。さらにドールとフライトユニットの解禁によってプレイフィールがガラリと一変する。これらによってもたらされる体験は「ゼノブレイドクロス」以外に替えの効かないものである。これほどの変化を経ても決して陳腐化しないフィールドデザインも改めて驚異的だ。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

フライトユニットの入手後でなければたどり着けない場所の中には、迂闊に足を踏み入れてはいけなかったことが雰囲気からすぐに察せられる場所もあり、こうした地で遭遇するオーバードは、ストーリー攻略の時点ではほとんどまったく刃が立たない強さを誇る。どれだけミラを自由に駆け回れるようになっても、さらに人智を超えた脅威がこの世界には潜んでいるのだという畏怖の念を抱かせてくれるのもまた、この惑星の堪らないところなのである。

各種クエストで紡がれるのは“絶望や断絶を乗り越えて進むための希望”

「ゼノブレイドクロス」のクエストは、メインストーリーを進展させる“ストーリークエスト”のほかに人々から依頼を受ける“ノーマルクエスト”、パーティーメンバーたちにまつわるエピソードが描かれる“キズナクエスト”、クエストボードから討伐や素材採取などの任務を受注する“シンプルクエスト”の4種類に分けられる。メインストーリーの受注に特定のノーマルクエストやキズナクエストの達成が必須な場合などもあり、各クエストが絡み合ってプレイヤーに“ミラの探求”を促す。

ノーマルクエストやキズナクエストは関係するキャラクターに話を聞きに行ったり、これらに伴うストーリーがあったりするのだが、ゲームとしてすべきことはシンプルクエストと大して変わらず、10年前の基準で見てもその構造自体はいささか味気ない。ただ、前述の“探索の楽しさ”が圧倒的なので、目標達成の過程は楽しめるものに仕上がっていると言える。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

そうは言いつつも、筆者は無印版「ゼノブレイドクロス」では仕様の煩わしさからパーティーメンバーの変更はあまり積極的に行わず、これに伴ってキズナクエストやノーマルクエストの大部分をクリアすることなくエンディングを迎えてしまっていた。

「ゼノブレイドクロスDE」ではパーティーメンバーの変更や時間帯の変更がどこでも出来るようになったことで、気軽にメンバー指定、時間指定があるさまざまなクエストに着手できた。これらをひとつひとつ体験して点と点が繋がっていくと、あらゆるエピソードが一貫して“絶望や断絶を乗り越えて進むための希望”を描いているのだと感じた。

地球に居られなくなり惑星ミラへとたどり着いた人類は、誰もが大小さまざまな喪失を抱えており、自分自身よりも大切な存在との別離を経験してきた者も少なくない。一部のクエストにおけるエピソードでは、受け入れがたい現実に直面しながらも人類の存亡を賭けた惑星ミラの調査に追われている彼らのパーソナルな一面が垣間見える。地球に居たころの記憶を失っている主人公が、彼らの喪失にある意味でフラットに関わっていくことで、そういった傷と向き合い、折り合いを付けていくことになるのだ。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

また、さまざまなクエストをこなして異星人たちとの関わりが増えてくると、ミラにおける人類の拠点であるNLA(ニューロサンゼルス)は多種多様な異星人たちが手と手を取り合って暮らす場所になる。異星人の技術を取り入れた装備品がショップに並ぶなどのゲームとしての恩恵も見逃せないところだが、こうなってくると他種族への偏見や価値観の相違によるいざこざも至るところで発生。いざこざの解決もまたプレイヤーに課せられたクエストになっている。

多様な種族を描く上で本作が大事にしたのは「どんな種族にも良い奴もいれば悪い奴もいる」というバランス感覚だったのではないだろうか? 文化的な背景がまったく異なっていても根気強く対話を重ねれば相互理解に繋がる場合もあり、人類の敵として残虐に振る舞うグロウスに加担する者が多数を占める種族にも、手を取り合える者は存在する。一方で、同じ人類であっても利己的に悪事へと手を染める者や、“人類のための行動”であるとして他種族の生命や尊厳を脅かそうとする者もいる。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

他者をなんらかのカテゴリーに当て嵌めて決めつけるようなメッセージを帯びてしまうことを避けつつ、それでいてさまざまな文化が交わる場所で生じうる軋轢として綺麗事だけでは済ませないバランス、その上で相互理解がよりよい未来を切り拓くというポジティブな描き方は、素朴ではあるが個人的には好ましいと感じた。

マ・ノンやオルフェといった種族は各種クエストで人類の理解を超えた価値観や生態の興味深さがよく描かれている一方で、ノポンやバイアス、ラースといった種族の性別にまつわる描写が一様に人類と似たようなステレオタイプに基づいて描かれているあたりには疑問符が付くものの、各種クエストの“描写が冴えている部分”に関しては、多く触れるほどにメインストーリーが持つメッセージ性を補強するものになっていると言ってよいだろう。

「人を選ぶ」がアイデンティティになっているとはいえまだまだ整理の余地はありそう

ここまで各種要素への言及に紐づく形で「DE」での追加・変更点についても書いてきた。どれも好意的に言及していることから分かるとおり、これらは「ゼノブレイドクロス」がもともと持ち合わせていたポテンシャルを大きく引き出すことに成功していると感じる。

それらを踏まえてなお、まだ導線が整備されていないと感じる点や不便な点は枚挙にいとまがない。あとでTIPSから読み返せるとはいえ膨大なテキストで一気に説明するチュートリアルはスマートとは言えないし、2画面から1画面に集約されたUIは、プレイヤーに複数のボタンの組み合わせを要求させる操作も多く、このあたりも記憶からこぼれてしまいがちだ。本来はゲーム内でわかりやすく伝えてしかるべき情報を、ときおりX(旧Twitter)の「ゼノブレイド」シリーズ総合アカウントが発信しているが、これをチェックしていなければ快適さに影響する仕様に数十時間プレイしても気付かなかったというプレイヤーは多いだろう。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

現代のオープンワールドとして見るとマップのUIでは複数のクエストの目的地を色分けして同時にナビゲーション登録させてほしいと感じるし、時間指定ありのクエストがあるのにマップ画面には現在時刻が表示されず通常画面に戻って確認する必要があるなど、「ゼノブレイドクロス」で批判の声が大きかった部分以外での不便は散見される印象だ。“配慮が不足している”というよりも、あまりに巨大で悪く言えば要素過多な本作で、プレイヤーの目線に立って細部にわたり適切な導線を用意できる視点を持つのは、ほとんど不可能なのかもしれないとも思わされる。

要素過多はバトルシステムひとつ取っても言えることで、O.C.ギアでカラーコンボなどを意識しながらパーティーの仲間たちの状況まで管理するのは非現実的だ。仲間たちがよりよい活躍をするための構築は、ひとりひとり自分で操作してみないと見えてこないし、それをしたところで自分が操作していないときの動きをイメージすることにもうひとつハードルがある。ショップには多彩な装備品のラインナップが揃っているが、最適解が推測できないことには「数値的に現状いちばん強そうなものをなんとなく装備させる」というフワッとしたプレイングにもなりがちだ。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

このあたりを詰めてやり込もうと思ったら、結局のところ自分で検証するよりもネット上の攻略情報を当たるのが現実的だろう。これは筆者の個人的な主義に依るところが大きいかもしれないが、競技性を追求したマルチプレイ主体のゲームならともかく、作品世界に没入したいプレイヤーが多いはずのひとりプレイが主体のゲームにおいて、ゲームの外側にあるデータを参照することが最適解になってしまうのは、プレイングとしてあまり豊かなことではないと感じてしまう。

同じ任天堂のタイトルならば「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」やその続編「ティアーズ オブ ザ キングダム」は作品世界のなかで提示された情報が、あらゆる試行錯誤を促してくれる。効率プレイをするなら話は別だが、これらのタイトルで「効果がいまいち把握できないからなんとなくこれを選んでおくか」みたいなモヤモヤする場面はほとんどないだろう。

“ゲーム内で完結する試行錯誤”があまり意識されていないと言ってよさそうな難点は、「装備している武器種を変更すると使用できないアーツがすべて解除されてしまい、アーツセットの画面で武器種をまたいだ効果の比較・検討ができない」などの不便さが拍車を掛けている。

「人を選ぶ」というのは「ゼノブレイドクロス」にとって一種のアイデンティティになっているが、「DE」で万人が楽しめるように調整された部分はマニアックな要素をも引き立てている。であれば、このあたりはもっと取捨選択と整理の余地があるような気がしてならない。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

最後にメインストーリーの追加エピソードへの印象についても、ストーリーの詳細は伏せつつ書いておこう。「ゼノブレイドクロスDE」における追加要素の目玉のひとつであるストーリークエスト第13章は前編・中編・後編に分かれており、実質的には3章ぶんのボリュームがある。このなかで「ゼノブレイドクロス」で残された謎に決着が付くのだが、筆者としては「スッキリとした結末を描いてくれたことによる余韻は大きかったが、方向性には釈然としない部分もある」という感覚だ。

発売前に公開されたトレーラーにおいて、新規ストーリーに伴って惑星ミラに出現する“第6の大陸”であるかのような印象を受けた浮遊大陸が、ミラの広大なフィールドとは切り離されており、実質的にはラストダンジョンであったことは少なからず残念に思った。

「ゼノブレイドクロス」における最終章である第12章が目的地に着いたらイベントを挟んで即ラスボス戦だったことを踏まえると、新たにラストダンジョンを導入した意図は理解できるし、オープンフィールドの構造とドールの移動能力を活かす作りになっているのも本作で取り入れる意義があったのだとも思う。それでも、これまでの惑星ミラの探索と比べると秀でたおもしろさを見い出せなかったことは正直に言っておきたい。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

残された謎が第12章ラストの台詞から期待したようなミラという惑星に由来するものではなかったことも、ストーリー展開とあわせて“軸をズラされた”感じがした。

これは特段「ゼノブレイド」シリーズ全般のファンではない立場だからそう感じるのかもしれないが、なんだか「ゼノブレイドクロス」というタイトルの独立性が「ゼノブレイド」というシリーズの宿命に絡め取られてしまったような、そんな感覚と言ってもいいかもしれない(ストーリー自体は「ゼノブレイドクロスDE」単体でしっかり完結しており、ほかのシリーズをプレイしていないと理解できないような展開があったわけではない)。

展開自体はある程度「ゼノブレイドクロス」の時点から構想されていたものだったのかもしれないが、結末と“クリア後のやり込み要素”との齟齬も感じるので、「追加エピソードとしてここでひと区切り」を成立させるためにいろいろと難しい判断があったのではないかというのは想像に難くない。

`現時点の最善に限りなく近い、唯一無二の魅力を最高にほど近く引き出したゲーム

もしも筆者が「ゼノブレイドクロスDE」を10点満点で評価するとしたら、大いに悩むだろう。10点とするには手放しには褒められない部分や不親切な部分が多すぎるし、9点とするには前人未踏と言ってよい達成や、ほかのゲームでは替えが効かない体験をもたらす要素が多すぎる。

根幹は同じであっても無印「ゼノブレイドクロス」では手放しでは褒められない部分の印象が完全に上回っていたので、「項目別に10点を付けたい部分もたくさんあるが、総合してみると8点」くらいの判断をすることにあまり迷いはなかっただろう。ひとつひとつは些細なことでも、「DE」における数々の追加要素と改善点は、それくらいゲーム全体の体験の質を引き上げるものだったと言える(その上で、まだまだ万人に勧めるのは難しいゲームでもある)。

「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー:10年の歳月を費やし、真の姿を現した惑星ミラの画像

指摘したくなる箇所は依然無数にあるが、それは「ゼノブレイドクロス」が全方位で無謀な挑戦を掲げて、作り手の執念により奇跡的に崩壊を免れてひとつのゲームとして結実したことの証左でもあるのだと感じる。

「ゼノブレイドクロスDE」が現時点で成し得る最善に限りなく近い形で日の目を浴び、無我夢中になれる“唯一無二の魅力を最高にほど近く引き出したゲーム”だったことを、心からうれしく思う。

深淵なるゲームのおもしろさを探求しながら「アイカツ!」シリーズや「プリキュア」シリーズ、「プリティーシリーズ」などの女児アニメの魅力を広める活動にも力を入れている。

X(旧Twitter):https://twitter.com/Kusare_gamer

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