エンターグラムより2024年12月26日に発売されたPS4/Nintendo Switch/PC用アドベンチャーゲーム「黄昏に潜む梟と、明け方の昴」(ふくすば)のレビューをお届けする。
本作は“本格ミステリーADV”を謳っており、シナリオを「老虎残夢」で第67回江戸川乱歩賞を受賞した桃ノ雑派氏が手掛けている。原画・イラストを「白い砂のアクアトープ」のキャラクター原案などでも知られるU35氏が担当。主題歌は「STEINS;GATE」などのいとうかなこさんが担当している。
メインキャラクターのキャストには「ポケットモンスター」のサトシで知られる松本梨香さん、「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」の空条徐倫をはじめさまざまな作品で人気キャラクターを演じるファイルーズあいさんを起用。この類を見ないスタッフ・キャストが集結したからこその体験が楽しめたように思う。

まず最初に書いておきたいのだが、本作のラストではひとつの事件が解決して納得感のある結末を迎えつつも、主人公たちにはまだ達成されていない“ある目的”が残されている。彼らの物語が続き、本当の決着を迎えるために、ぜひとも続編が作られてほしいタイトルなのだ。
本編は4時間ほどあれば読み終えることができるボリュームであり、選択肢によるストーリーの分岐などもない。これを物足りなく感じる人もいるかもしれないが、価格帯やこのキャスティングならではの妙が楽しめることを踏まえれば、個人的にはそこまで割高とは思わない。逆に短時間でスッキリ読み終えられるノベルゲームを探している人には、かなりおすすめだ。
なお、ミステリーという性質上、まっさらな状態でプレイしたい人は、注意して読み進めてほしい。とくに「すばると穂華は~」から始まる見出し以降はある程度踏み込んだことを書いている。ただ、これ以降に書いている内容を読むことで、本作への興味が大きくなる人も少なくないのではないかとも思う。無料でダウンロードできる体験版をプレイすればゲームのテイストが確かめられることも踏まえて、本稿をどこまで読むかの判断は、読者の皆さんに委ねたい。
北海道旭川で起きた殺人事件に、探偵一家のおちこぼれ少年が立ち向かう
ゲームの舞台は冬、北海道旭川にある“私立清文華学園”。コロナ禍による学校行事の自粛が続き、高校3年生になって最初で最後のクリスマスパーティーを目前に控えた榊すばる(声:松本梨香)と髙村穂華(声:ファイルーズあい)は、友人たちや先生とステージで行う催し物の準備をしていた。

和気あいあいと準備を進めるすばるたちだったが、ある夜、友人と先生が殺され、その容疑者としてもうひとりの友人が逮捕されてしまう。探偵一家の末っ子、しかし推理力はからっきしであるすばるは、穂華やネット捜査のスペシャリストである姉の朝陽たちの協力を受け、事件解決に乗り出すのだが……? というのが本作のあらすじとなる。
剣呑な展開に尻込みする人もいるかもしれないが、U35氏の柔らかなタッチで描かれたキャラクター、これにあわせて設定されたであろう背景美術やBGMの美しくも落ち着いたトーンが、ゲーム全体の印象を柔らかなものにしている印象だ。ちなみに事件が起きる前の冒頭部や本編を終えたあとで読めるコメディテイスト強めのおまけシナリオのやりとりには、若干の下ネタが含まれるので、苦手な人は考慮に入れてほしい。

物語は画面全体をテキストが覆う構成で進行。キャラクターごとに台詞の色を変えていて話者がわかりやすい点など、視覚・聴覚ともに混乱するような場面はなかった。セーブしたデータを途中から再開しても、バックログから再開以前のテキストをかなり遡れる、バックログから一文ごとにクイックジャンプできるなど、ノベルゲームとしてのユーザビリティは昨今の水準で見ても申し分ないものだと感じた。

本格ミステリーかつ選択肢のないノベルゲームということで、プレイヤーはすばるたちが事件の全容を推理していく様子を読み進めていくことに。ひとまずの目的は、逮捕された友人の潔白の証明を目指すことになる。
筆者はあまりミステリーに明るくはないながら、事件の進展にともない序盤からさまざまな“違和感”がおぼろげながら見て取れた。ミステリー作品のシチュエーションを幾通りも知っているプレイヤーならば、より具体的に「どこがどうおかしいのか?」を指摘できるかもしれない。いろいろと予想しつつ、それらがすばるやその協力者たちの推理によって解きほぐされていく様を楽しむという意味では、筆者と同様にミステリー作品初心者ならばいっそう楽しめる作品と言えそうだ。

あらすじから伝わる以上に“いま”という時代を映し出す描写が多いのも本作の特徴と言えるだろう。前述のとおり“コロナ禍以後”の世の中を描いている点もそうだし、“闇バイト”的な描写が出てくるのも注目すべき点。“冤罪”に関連して“自白の強要”などへの言及が行われる点でも、戦後最大の冤罪事件と言われる袴田事件の裁判が2024年にようやく終わったこのタイミングだからこそ、いっそう意識的に考えられるものだったように思う。コロナ禍以外は偶然かもしれないが、早いうちにプレイしたほうがいまという時代性を感じられるゲームと言えるかもしれない。
すばると穂華は“呪い”のような繋がりで結ばれたバディ
ここまでいろいろと本作の特徴について書いてきたが、そのどれよりも本作を魅力的なものにしているポイント、それは「松本梨香さんとファイルーズあいさんが演じる男女バディにより紡がれる物語」であるということだ。冒頭にも書いたことを繰り返しているだけのように感じるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。多くは語れないのだが、これは物語を最後まで見届けた者にとって、当初から感じていた魅力とはまた異なった意味を帯びるのだ。

前述した、本作では決着が付かなかったすばると穂華の“ある目的”。物語序盤~中盤で明らかになるそれは、穂華の母親の命が奪われる原因を作った犯罪コンサルタント組織の尻尾を掴み、復讐を果たすこと。そのためにすばると穂華は自身の人生を賭して協力し合うことを選んだ、いわば“呪い”のような繋がりで結ばれたバディなのである。終盤では、そんなふたりの歪なまでに強い絆と信念が顔を覗かせる。そしてそのあり方は、“松本梨香さんとファイルーズあいさん”だから説得力が感じられるものだと思った。

ひょっとしたら、ここまで読んだらなんとなく終盤の展開の予想が付く人もいるかもしれない。もし予想が合っていたとしても、というかむしろそのオチを的中させた人であればこそ、ふたりの共演だから描けた一連の展開には、大いに歓喜するのではないだろうか?
決して万人が満足できる、というタイプのゲームではないかもしれない。だが、それも踏まえてプレイして、結末を見届けた上で“刺さった”人には、ぜひ筆者といっしょに続編の発表に期待する旨を表明してほしい。
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