ADVが好きなゲームライターが真のADVマニアを目指す連載企画。第10回は「ミステリーの歩き方」を紹介します。

目次
  1. 30年前に起きた未解決事件の真相に迫るミステリー
  2. レビュー:オーソドックスなシステムのなかにある“過去視”がいいアクセントに!
  3. インタビュー
  4. 後記

連載「ADVマニアへの道」はADV好きのライター・カワチが、新旧問わずにさまざまなADV作品を研究していき、そのマニアへの道を目指していく内容。今回はトイボックスが開発、イマジニアが発売する「ミステリーの歩き方」を取り上げます。

【ADVマニアへの道】「ミステリーの歩き方」はアドベンチャーゲームを長年作り続けるクリエイターの技術と魂が詰まったオンリーワンの作品であったの画像

30年前に起きた未解決事件の真相に迫るミステリー

「ミステリーの歩き方」は全3部作のミステリーアドベンチャー。第1弾の舞台は避暑地の鳴美沢で、帝都大学のミステリー研究会に所属するメンバーたちが30年前に起きた“鳴美沢風景画家殺人事件”という未解決事件の謎に迫っていく作品です。

事件は著名な画家である内田水龍が自身の集大成となる作品の完成間近に刺殺されたというもので、当時は水龍の妻である内田雅子が容疑者とされていたものの、雅子は容疑をかけられたまま自ら命を絶ち、真相は闇に葬られたという経緯があります。

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主人公たちは現地で情報を集めるなかで内田家の複雑な人間関係や当時は明らかになっていなかった新事実を知ることに。そのなかで事件の真実の糸を手繰り寄せていきます。

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特徴的なのは主人公の赤沢独歩が持つ“過去視”という能力。これは過去の思念が紫のオーラとして出現したタイミングで発動できる能力で、過去の重要な現場を視ることできるというものです。

この過去のパートは解像度の低い世界をドット絵という形で表現。操作に関しても懐かしいコマンド選択式となっており、懐かしい雰囲気を味わうことができます。

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レビュー:オーソドックスなシステムのなかにある“過去視”がいいアクセントに!

避暑地で有名な鳴美沢を舞台に30年前の未解決事件を追う大学生たちの物語が展開する「ミステリーの歩き方」。前述した現代と過去を行き来するユニークなゲームシステムのほか、こだわりを感じる背景美術やフルボイスの演出も特徴で、丁寧に作られています。

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シルエットで表現される事件説明のムービーも臨場感たっぷりですし、現場の位置関係も動きを加えて分かりやすく解説してくれるので、視覚的にも楽しめるようになっています。立ち絵に関しても角度を変えたり、奥行きを出したりしており、画面が単調にならない工夫が盛りだくさん。小説を読むのがニガテという人も楽しめるようになっています。

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物語は話数形式で進行し、各話の合間にはオープニングやエンディング、次回予告といった演出が挿入され、TVアニメやTVドラマのような雰囲気で楽しめるのが特徴。リズム感がいいですし、プレイの没入感を高めてくれます。

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個性的なキャラクターたちが織り成す会話劇もテンポがよく、ライトなノリで進行するのでそういった面でもとっつきやすい作品です。キャラクターたちはどれも魅力的で、主人公をサポートしてくれるメインヒロインの南条アリスのほか、尊大な態度を取っているものの推理はポンコツな東野陽炎やお調子者の井沢幸太郎など愛すべき人物ばかり。ストーリーを進めるなかでどんどん好きになっていきます。

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筆者がとくに愛おしかったのが東野陽炎。最初こそ嫌味を言う嫌なキャラクターかと思いましたが、ゲームを進めていくうちに後輩への面倒見の良さなども垣間見えるようになっていき、彼のポジティブな面も知ることができます。こういったキャラクターの描き方はいくつもアドベンチャーゲームを制作してきた金沢十三男さんならでは。世界観に引き込んでいくのが上手です。

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ゲーム部分に関してはオーソドックスなアドベンチャーで、画面内を調べるパートや、正しい証拠を指摘する推理パートはあるものの、誰でも遊べるような親切な作りです。一方で過去パートはレトロ風に表現された世界でコマンドを選択しながら謎を解いていくシステム。知っている人には懐かしいですし、知らない人には新鮮に映る内容になっています。昔のコマンド選択式は難度が高い作品も多かったですが、本作は易しめ。コマンド選択式のゲームの雰囲気を味わうことがメインとなっており、ほぼ詰まることはないので安心して遊べます。時間切れもありますが、最初からやり直せるので複数回プレイすれば自然に正解のルートが分かる仕組みです。

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物語の仕掛けとしておもしろいのは主人公が過去視の能力を仲間たちに秘密にしている点。過去で得た情報をそのまま伝えるのではなく、うまく話題を誘導する必要があるので独特の緊張感があっておもしろいです。

ストーリーに関しては30年前に起きた事件の真相を探るという内容であるため、比較的ゆるやかに進行しますが、だからこそキャラクターたちに感情移入できる丁寧な作りになっています。エンディングもすごくいい引きが用意されており、次回作が楽しみになる作りです。

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インタビュー

ここからは本作のシナリオを手がける金沢十三男さんのインタビューをお届け。「ミステリーの歩き方」の制作秘話をお聞きしつつ、長くアドベンチャーゲームを作り続けてきた金沢さんの創作論についても深くお聞きしたので、ぜひチェックしてみてください。

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――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、まず金沢さんご自身についてお聞かせください。最初はマーベラスの前進であったパック・イン・ソフトに在籍されていたようですが、どのようにゲーム業界に?

金沢:新入社員としてパック・イン・ソフトに入社して、そこからゲームを作り始めてもう30年以上になります。当時は「FISH EYES」のような釣りゲームなども作っていましたが、自分が作りたいのはミステリーでした。もともとパック・イン・ソフトには映像が作りたくて入ったのですが、高校自体からパソコンを持っていてずっとゲームは遊んでいました。当時はPCのアドベンチャーゲーム全盛期で、すべてのゲームをやり尽くしていましたね。

――コマンド選択式よりも前のコマンド入力式のゲームですよね。

金沢:そうです。「デゼニランド」から「サラダの国のトマト姫」、「ウイングマン」、「サザンクロス」など、いろいろな作品がありましたが、クラシックなアドベンチャーゲームはやり尽くしました。ただ、ゲーム好きという自覚はなくて、どちらかというと本を読んだりアニメを観たりしている時間も多かったです。それこそ、赤川次郎さんの本が好きで、ずっと読み漁っていました。

――金沢さんは後に赤川次郎さん原作のサウンドノベルを制作されています。

金沢:はい。入社2年目ぐらいに、そろそろ自分の企画を出そうかなと思って、企画書を書いたのが赤川次郎さんの「魔女たちの眠り」でした。それ以降、自分自身がディレクションする作品は、すべてミステリーアドベンチャーになっています。その後もプロデューサーとしてほかのジャンルの作品にも携わっていましたが、40歳のころにこれからは自分の得意なもの、好きなものをやっていこうと思い、「牧場物語」のクリエイターである和田と一緒に自分たちの会社であるトイボックスを立ち上げました。そこからは数字をいじくるような難しいシミュレーション系のゲームは和田に任せて、自分はアドベンチャーゲームを作らせてもらっています。

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――自分が得意なことに専念しようと。

金沢:ええ。話は前後してしまいますが、20代のときにやりたいことをやりきっちゃった感はあったんです。自分が好きな赤川次郎さんの作品も作ることができたので、2005年に会社のシステムを利用してイギリスに行きました。そこから4年間は海外でプロデューサーをしていたものの、やはりゲームを作りたいなと思って帰国してSWERYさんといっしょに「レッドシーズプロファイル」を制作しました。自分が用意した企画書をSWERYさんにお見せして、たまたまお互いにツイン・ピークスが大好きだったので、その世界観を用いて作ることにしたんです。「レッドシーズプロファイル」はオープンワールドですが、これもミステリーアドベンチャーでした。自分自身、いちばん好きなものに特化して制作したいと思っていますし、周囲にも声をかけてくれる人がたくさんいるので、なんとか今でもアドベンチャーゲームを作れているといったところです。……ただ、じつは自分はシナリオを書くのが苦手なんですよ。

――そうなんですか!?(笑)

金沢:SNSでも書いたのですが、4年に1度ぐらいしか活気が湧かないんです。「ワールドエンド・シンドローム」を制作したあとに少しシナリオから離れたいなと思って、「なつもん! 20世紀の夏休み」や「人生ゲーム for Nintendo Switch」などの別ジャンルのゲームをお手伝いしていたのですが、そろそろシナリオが書きたいと思ったとき、今回の「ミステリーの歩き方」のお話をいただいたんです。

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――金沢さんはシナリオだけというよりもゲーム全体のディレクションのなかでシナリオも書きたいというタイプでしょうか?

金沢:昨今のアドベンチャーゲームはビジュアルノベルがシェアを占めていますし、ユーザーのみなさんもアドベンチャーゲームと聞いたときに想像するものが、そのタイプのものだと思いますが、自分が作りたいのはゴリゴリのアドベンチャーゲームですね。「ワールドエンド・シンドローム」も一見するとビジュアルノベルに見えますが、町を散策しながら特定のエンディングを目指し、少しずつ真相を明らかにしていくゲームになっています。

――金沢さんとしては昔ながらのシステムの凝っているアドベンチャーゲームを作りたいと。

金沢:昔ながらのシステムと今のアドベンチャーゲームを融合させたいというのが正しいかもしれません。自分の引き出しのなかにあるアドベンチャー企画の種(たね)はどれも本来はゴリゴリなアドベンチャーなんです。それを今の形にどうやって当てはめられるだろうか、ということを考えています。そのため、本来はシナリオはあまり書きたくないです(笑)。

――なるほど。「ミステリーの歩き方」について、ご自身のSNSでデザイナーさんにお渡しするラフデザインも手がけていましたが、ディレクションをするときは普段からそういったシナリオ以外の部分まで手がけているのでしょうか?

金沢:イベントや特殊な演出部分は落書きを渡したりして指示していますが、今回の「ミステリーの歩き方」についてはスクリプトまでは打ってないですね。「ワールドエンド・シンドローム」や「7'scarlet」など、アドベンチャーゲームを一緒に作ってきたチームが社内にあるのですが、プランナーが「今回、金沢さんはスクリプトやらなくていいですよ」と言ってくれて。なので、チェックに回ってきたものに対してアドバイスはしていますが、演出自体はチームに任せています。

――「ミステリーの歩き方」をプレイして、テキストだけでは伝わりづらい地形を地図で解説していたりと、ゲームならではの表現が多用されていて分かりやすいと感じました。こういった部分は金沢さんがチームに相談して制作したのでしょうか?

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金沢:解説動画に関しては僕が落書きを描いて映像の担当に渡して作ってもらいました。また、主人公が頭のなかで想像をしたりしている部分は通常の画面とは違う見せ方をしたいという相談をしました。そのときに例に出したのが、スピルバーグ監督の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」という映画のオープニング映像です。2Dの影絵を使って主人公がどんどん逃げてく姿を映像で表現しているのですが、このオープニングをモチーフとして提案しました。ムービー関係はすべて自分でコンテを作って担当に渡していますが、キャラクターを動かしたり、集中線をつけたりするといった作業は、すべてスクリプターがシナリオから意図を汲み取ってくれています。

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――何気ないシーンでもキャラクターが歩いている演出があったりと、とてもこまかく作られていますね。

金沢:とにかく紙芝居にはしないという合言葉で作っています。なるべく手間暇をかけて演出を入れていることはユーザーさんにも伝わっているのではないかと思っています。

――では、ここからは「ミステリーの歩き方」について企画の根幹からお聞かせください。なんでも本作の企画はイマジニアの澄岡和憲社長が生んだものだそうですが、ご覧になったときはいかがですか?

金沢:プロットのようなものを見せてもらえるのかと思ったら、登場人物はすべて出来ていて、セリフもほぼ完成しているもので驚きました(笑)。その企画は「ファミコン探偵倶楽部」のような昔ながらのスタイルでこのままゲーム化するべきか迷ったのですが、澄岡さんから原型にこだわらず好きに提案して欲しいと仰ってくださったので、自分のなかにある引き出しも引っ張り出しながら、澄岡さんと自分の企画を融合させていきました。

――なるほど。

金沢:イマジニアさんは過去に「月面のアヌビス」や「ざくろの味」を発表しているものの近年はアドベンチャーゲームを制作していないので、まずは現在の市場について解説しました。かけられるコストや売れている作品の方向性などを提示して、今、作るべきものの結論をお伝えしました。澄岡さんからは冗談めかして「俺のエッセンスがあまり残っていないじゃないか」と怒られましたけど、じつはたくさん残っています。大学生が主人公の設定や喫茶店が登場するところなどは澄岡さんのもともとのアイデアを広げたものです。

――ミステリー研究会のメンバーを主役にしようというアイデアは金沢さんによるものでしょうか?

金沢:そうですね。ここは自分のアイデアです。仲間との絆の構築を見せたほうがプレイヤーは主人公に感情移入しやすいんじゃないかと思いました。本作のテーマには人の生きづらさと、それでも生きる価値があるというものがあるのですが、その「孤独」を描くための道具としてミステリー研究会を用意しました。また、もうひとつの理由として、すでにあるサークルであれば、出会いのシーンを省いて物語を始められるからです。

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――公式のnoteに出会いを描く前日譚がありましたね。

金沢:頭の中では彼らとの出会いのイメージは持ちつつも、ゲームのなかでの補完はいらないなと思っていました。機会があったら書いてもいいかなというぐらいの心持ちでいたのですが、イマジニアのスタッフの方に執筆を依頼されて書くことになりました。ただ読むだけでは面白くないので、お題形式にするという仕掛けは用意していますが、ストーリー自体はこの前日譚を読まなくても本編が楽しめるものにしていますので、おまけとして楽しんでいただければと思います。

――メインストーリーを読んだあとでも「じつはこういう展開だったのか」という楽しみかたができますよね。

金沢:そうですね。ちなみに彩芽准教授が出てくるのは前日譚だけです(笑)。2作目から登場する予定のキャラクターなので1作目には登場しません。

――1作目がものすごくいい引きで終わるので、2作目がとても楽しみです。

金沢:もともとのイマジニアさんのオーダーでは3部作ではなく、連作で作って欲しいというものでした。自分はゴールが決まっていないと物語のプロットを書けないので、そこで全3作であることを決めました。第1作のラストで明かされる真実については本来2作目の途中で描く予定だったのですが、澄岡社長に「隠し過ぎだ」と言われ、このタイミングで明かすことになりました。

――では、第1作はひとつの事件が終わったところまでを描いて、綺麗に終わる予定だったんですね。

金沢:そうです。すべて2作目で明らかにしようと思ったのですが、自分で引いている伏線を回収しないまま進むのもよくないなと考え直して、終盤を書き換えました。最初のプレイヤーとして澄岡さんがハッキリ意見を言ってくれてありがたかったです。

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――主人公に深みが増して、一気に感情移入できました。

金沢:ありがとうございます。

――全体の作りについてもお聞きしたいのですが、本作はオープニングやエンディング、次回予告などがあり、TVアニメやTVドラマのような雰囲気を感じました。また、立体的に背景が動き、状況を説明してくれる演出も視覚的にどうなっているのかが分かりやすかったです。ミステリー小説を読まない人やノベルゲームをプレイしない人にも親切に作られているように感じましたが、作るときはどのような部分に意識しましたか?

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金沢:10話ぐらいで構成されたゲームを作りたいというアイデアはあったのですが、それ以前にアドベンチャーゲームの課題は山積みなんです。僕はアドベンチャーゲームをずっと作りたいと思っていますが、今はタイパの問題もありますし、昔のようにユーザーがじっくり謎を解いてくれるということもないと思っています。そのため、ユーザーを最後まで導いてあげるような作りを目指しているのですが、そうすると今度は短いと思われてしまうんです。自分がかつて発表した「7'scarlet」であれば文庫7冊分ぐらいのボリュームがあるので、短いということはないんですけどね……(笑)。ミステリーなので夢中に読んでもらえるようなおもしろいシナリオ作るべきだとは思いつつ、ゲームの滞在時間を増やして満足してもらいたいと思っています。

――個人的には短いほうがうれしいですね。若いときは長ければ長いほどうれしかったですが、今は10時間ほどのボリュームのほうが満足です(笑)。

金沢:なるほど。以前、友人のクリエイターに「シナリオが短いと言われることは誉め言葉だよ。もっと読みたいということだから」と言われたことがあります。「ミステリーの歩き方」では本編とは別に無料追加コンテンツ“町ぶらシステム”を実装して、こちらで長く楽しんでもらうことにしました(1月30日に配信)。「レッドシーズプロファイル」を制作したとき、「この場所にずっといたい」という意見をいただいたので、今回、実験的に舞台となる鳴美沢を散策してキャラクターと交流できるようなシステムを用意しました。

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――金沢さんはスーパーファミコンの「魔女たちの眠り」のころからアドベンチャーゲームを作り続けていますが、受け手側の変化を感じていますか? ショート動画などの登場によって長い文字を読まなくなったとも言われますが、作るほうの意識も変わりましたか?

金沢:ゲームのボリュームでいうと「ミステリーの歩き方」ぐらいがちょうどいいと思っています。ただ、1年半かけて作ったゲームが3日でクリアされてしまうので、どうしてもコスパが悪いと思われてしまいますね。そのため、アドベンチャーゲームでなにができるかはずっと考えています。

――難しい問題です。

金沢:自分はアドベンチャーゲームの市場は繰り返し死んでいると思っています。ファミコン時代は「ポートピア連続殺人事件」のような名作はあったものの、「解いたら終わっちゃう」という不思議なカテゴリーに入れられてしまったと思うんです。また、このときに低コスト、短期間で作られるゲームも増えました。そんななか、アドベンチャーが下火になっていくなかで生まれたのがチュンソフトさんの「弟切草」でした。このゲームはひとつの読み物なのですが、プレイするたびにシナリオが枝分かれしていき、前は存在しなかった選択肢が選べるようになるという、ゲームの滞在時間を増やせる仕組みを作りました。自分はその仕組みがおもしろいと思い、チュンソフトさんにご挨拶したのち、赤川次郎さんの作品で分岐型のノベルゲームを制作しました。

――「魔女たちの眠り」や「夜想曲」ですね。

金沢:はい。一時期はチュンソフトさんのサウンドノベルで市場が構築されたものの、その人気も陰りが見えてくるんですよね。とくに海外の人は文字を読むよりもアクションを楽しむほうが好きな傾向があったので、アドベンチャーゲームの市場が広がりませんでした。ただ、現在はインディーを中心に物語をベースにしたアドベンチャーゲームが多数発売され、ジャンルが開拓されています。その流れはコンシューマにも反映されていて、こちらも傑作と呼ばれるものが生まれてきています。一方でパズル要素の強いものなど純粋なノベルゲームではないものも増え始めてきており、そこはおもしろくなってきているなという印象です。

――確かに「未解決事件は終わらせないといけないから」や「パラノマサイト」など良質なアドベンチャーゲームが次々に発売されていますね。

金沢:そのなかで自分がいちばんやりたいのはオープンワールドです。オープンワールドのミステリーは「レッドシーズプロファイル」で挑戦したことがあり、これは当時勤めていたマーベラスさんが海外展開をしていく中で提案したタイトルでしたが、海外マーケットではコアなファンが生まれるほど評判になり、続編も作りました。表現として目指すものとしてはひとつの正解だったとは思うのですが、大規模な予算を投入して作った作品ですし、日本市場を考えるとこういった作品を作るのは難しいと思います。アメリカやヨーロッパに比べると市場が5分の1や6分の1になってしまうので、大きな投資をしてアドベンチャーゲームを作るのは難しい。そうやって足掻いていくなか、生まれたのが今回の「ミステリーの歩き方」です。

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――予算と向き合いながら納得いくものを作り上げていくわけですね。

金沢:物語の構築の仕方や構成の仕掛けなどをしっかり凝っていかなければいけないと思っています。アイデアを煮詰める作業にしっかり労力をかけ、ユーザーさんが納得するものを作らなければいけない。芯となる部分を考える作業は怠ってはいけないと思いますね。

――アドベンチャーゲームのひとつの分岐点となったのは「ひぐらしのなく頃に」でしたね。ゲームのなかではなく外でプレイヤーたちに推理をさせたのが発明だなと。ここまでコミュニティが発展するのかと驚きました。

金沢:そうですね。「ひぐらし」はひとつの完成形でした。ループものも随分と流行しましたね。自分はゲーム自体がループのシステムだと思っているので、自身ではループもののゲームははやらないと思います。

――では、ここで「ミステリーの歩き方」の話に戻りますが、過去の世界に行くとドット絵のような懐かしい画面になるのが発明だと感じたのですが、この設定はどのように生まれたのでしょうか?

金沢:自分がやりたいアドベンチャーゲームの引き出しのなかにドット絵を使いたいというものがありました。また、日記を読む、鏡のなかに入るなどといったギミックを使って本編とは別軸の話をもうひとつ入れるという入れ子構造の仕掛けもやりたいと思っていました。そのふたつのアイデアを組み合わせた結果、過去の世界をドット絵で表現することになりました。急にゲーム性もコマンド選択式に変わりますが、それはそれでおもしろいなと思ったんです。迷ったのはゲームの難易度ですね。最初はもっと難しいものにしていて、何度かリトライすることでクリアできるようにしていたのですが、テストプレイをしていく中で、難しいという意見が出たんです。このまま発売するとユーザーさんも謎解きに詰まることでストレスになるのではと考え、現在の難易度に調整しました。

――確かにあまり詰まらずにクリアできましたね。個人的には懐かしいコマンド選択式の雰囲気が味わえてよかったです。

金沢:そうですね。世代的にコマンド選択式を体験したことがない人も多いと思うので、ひとつのアドベンチャーゲームの形として知ってもらえるとうれしいなと思いました。

※以下より、「ミステリーの歩き方」のネタバレを含む内容になります。未プレイの方はご注意ください。

――ここからはキャラクターについてお聞かせください。まずは赤沢独歩から。

金沢:過去作の主人公はプレイヤーの分身で名前も自分で付けられたのですが、今回は客観的な物語を書こうと思いました。そのため今までの作品は地の文が存在していましたが、本作はすべてセリフのみで進行する作品になっています。セリフだけになると演出で補強する必要があるのですが、そこはさすがに何作も一緒に作っているチームなのでこちらの意図を汲んでくれました。厳密には独歩の独り言のモノローグなどはありますが、なるべく会話だけで成り立つようにしました。

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――確かに会話中心で進むのでテンポがよかったです。

金沢:会話だけで場面を繋げるためにはキャラクターが確立していなければいけないので、それぞれ少し尖った性格の人物にしているのですが、独歩はプレイヤーに感情移入してもらうために口数を少なくしています。いきなりベラベラとしゃべる主人公だとプレイヤーが独歩と一体化できないと思ったので、少しずつ彼にシンクロしてもらえるようにしました。具体的には最初の事件が終わって妹が登場するぐらいのタイミングでシンクロしてもらえるように狙っています。外見も個性があるわけではないので作るのが難しかったキャラクターです。

――最初の列車のシーンで彼が探偵役の主人公であることが分かる仕組みになっていますね。

金沢:そうですね。ただ、ユーザーさんに言われて気付いたのですが、自分の作品は誰かに起こされてはじまる展開ばかりなんです。「ワールドエンド・シンドローム」は「ミステリーの歩き方」と同様に電車のなかで起こされる展開でしたし、「7'scarlet」はバスのなかで起こされる展開です。

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――毎回、起こされていますね(笑)。

金沢:物語の運び方としてすごく便利なんですよね。「あなたの番ですよ」と肩を叩かれる感じが物語の入りとして自然なんです。

――アリスに関してはいかがでしょうか? ヒロインにして探偵助手という位置付けですか?

金沢:そうですね。過去視を使って真相を知っている独歩としては本来は自分が目立たずに彼女を表に立たせたいので、一生懸命アリスを誘導するのですが、結局はどんどんアリスに怪しまれてしまうので、独歩が探偵役になります。ただ、全体の物語はアリスに並走するものだと思って書いているので個人的には独歩のほうが助手だと思っています。2作目は独歩とアリスがふたりで謎を解いていくことが多くなるので期待して欲しいですね。アリス本人としては、とある理由から強い意志を持って事件の謎に迫っていますが、その理由が明らかになるのはまだ先になります。個性付けとしてはツンデレタイプで、自分がツンデレが好きなのでこういう性格になってしまいました(笑)。

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――萌えキャラというか、天然キャラみたいな位置付けだと感じました。

金沢:そうですね。天然がいちばんいじくりやすいです。あと、すごくよくできるのにどこか抜けている女の子を自分が好きなんだと思います。意外と甘党だったり、それをちょっと恥ずかしいと思っているところとか、そういうギャップを描きたいと思いました。

――続いて主人公の妹である赤沢魅月についてお聞かせください。核心をつくような発言があったり高校生ながらしっかりしています。魅月の設定は最初から決まっていたのでしょうか。

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金沢:はい。そうですね。シナリオを書き始める前から決めていました。ミステリー研究会のメンバーではないですが、かなり重要なキャラクターとして登場しています。

――主人公の赤沢独歩にとって魅月はどんな存在なのでしょう?

金沢:公式ホームページで配信している前日譚で触れているんですが、二人の両親はすでに他界してしまっているんです。なので、普通の兄妹以上の信頼感があると思います。少しいい加減な独歩に対してしっかり者の魅月は親代わりのような存在です。

そのことを独歩は認識しつつも、認めたくない気持ちもあって、少しうるさいなーと、子供のような対応をしているんですよね。そんな関係性なので、魅月は鳴美沢までやってきてしまうし、独歩はそれを素直に受け入れる面もあるのだと思います。二人の関係は特別ですので、是非とも注目ください。

――続いては内田渚についてです。公式サイトのキャラクター紹介では3番目に登場していますが、彼女は鳴美沢の人物ということで第1弾のみのキャラクターになるのでしょうか?

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金沢:そうですね。そのつもりだったのですが、キャラとして立っていますし、演じている伊藤あすかさんの芝居もすごくよかったので迷っています。彼女自身、物語の最後で東京に来てミス研に来ると伝えていますし、TIPSのなかで数年後に本当にやってくることが明かされています。そのため、今後の3作目ぐらいで登場する可能性はありますね。

――TIPSにはサラリと重要なことが明かされたりしていますね。

金沢:最初に設定やプロットはすべて作ってあり、物語のなかで明かされていなことも多いので、「じつはこうなんだよ」という部分をTIPSで解説しています。「スラムダンク」や「鬼滅の刃」のコミックスに作者の描いた落書きコーナーがありますが、そのイメージで作っています。

――なるほど。渚のキャラクター性に関してはいかがでしょうか? 明るいムードメーカーで書いていて楽しそうだなと感じました。

金沢:女子高生がどのようなことを考えているのかを知るために友だちの娘の女子高生にヒアリングしました。自分自身は昭和の人間ですが、渚はそんな昭和の時代をディスっています(笑)。

――めちゃくちゃディスりますよね。スマートフォンを電話だと思っているとか。

金沢:ぜんぶ若い子たちから聞いた話です。最近のおじさんは「スマートフォンを携帯だと思っているんだよね」とか話していておもしろいなと思って、シナリオで使わせていただきました。本当はカラコンをしないと外に出られないなどのネタもあったのですが、あまりやりすぎるとくどくなるかなと思い、入れ込みませんでした。

――かなりリアルに作られた女子高生像なんですね。

金沢:そうですね。ただ、それだけだとおもしろくないので、大河ドラマで覚えたような古めかしい言葉遣いをする女子高生にしました。なので、「~でござる」といったような変な言葉を使います。

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――続いていちばん美味しいキャラクターともいえる東野陽炎です。最初は嫌なヤツかと思ったらめちゃくちゃいいヤツでしたね。

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金沢:鬱陶しいと思われるかもしれないキャラクターですが、最終的に好きになってもらえたらうれしいです。その場をぶち壊すことも、落ち着かせることもできる器用なキャラなので、この物語には必要なキャラでした。序盤はじっくりとキャラクターのことが分かっていき、絆がすこしずつ構築されていきますが、ワチャワチャと楽しい雰囲気はあえてそうなるように描いています。その理由は、2作目以降の急展開への伏線でもあるのですが……。

――そうなんですか!?

金沢:2作目を遊んでいる時に、1作目を思い出して「あんなに楽しかったのに」って思ってもらいたいんです。それは、ミス研のメンバーたちの秘密に迫るにつれ、なんと言うか……。人生って楽しいことってウソが多いけど、哀しいことってリアルだなって思うんです。そう言った対比が2作目のテーマになります。

――とても気になりますが、これ以上踏み込んでしまうとネタバレになりそうなので次のキャラクターについてお聞かせください。井沢幸太郎はおバカキャラクターとして生まれたのでしょうか?

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金沢:主人公のバディとして生んだキャラクターです。幸太郎は主人公のことを友だちだと思っていますが、では“友だちの概念”とは何なのか? という部分を2作目で描く予定です。チャラく見える幸太郎ですが、じつは正義感が強い部分などもあり、2作目ではそういった面が描かれることになります。第1作でもうちょっと活躍する場を作りたかったのですが、そのぶん2作目では彼のアツさが描かれることになるので、注目してもらいです。

――続いて島田祥子です。警察官で大人のキャラクターですが、ちゃらんぽらんで愛嬌のある人物になっていますね。次回予告でもはっちゃけていますし。

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金沢:冷静に外から事件を見ているキャラクターを作ろうと思って生まれたキャラクターです。刑事だと説得力が増すかなと思ってこの設定になったのですが、この島田祥子というキャラクターが自分のなかでどんどんおもしろくなってきちゃって立ち位置がずれてしまいました(笑)。ただ、本来は知的なキャラクターで、主人公の能力に気付くのも彼女です。第2作では鋭い島田が見れることになるので楽しみにしていて欲しいです。

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――アイドルの真白杏奈はいかがでしょうか。2面性のあるヒロインということでおもしろいキャラクターになっていますね。

金沢:2作目では重要な役割を果たすキャラクターです。ゲーム内の表記でアンナとマシロだけがカタカナ表記にしているのはそういった理由からですね。

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――アイドルという設定はどこから?

金沢:自分の作品では別世界の華やかな人間を必ずひとり登場させるようにしています。外部のアンテナとしての役割も果たししてくれるので設定としても扱いやすいです。2面性に関しては普通のアイドルだと壁が出来てしまうと思い、このような設定を作りました。本当はもっと汚い言葉を言わせようかと思ったのですが、それは現場に止められました(笑)。

――キャラクターといえば本作はアナウンサーの鈴木唯さんと原田葵さんも本人役で出演していますね。

金沢:こちらはイマジニアさんのつながりですね。作中のキャスター役をおふたりに演じてもらえることになり、収録もフジテレビでおこないました。

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――今回の作品をプレイして第2弾や第3弾が楽しみになったのですが、いつごろにプレイできそうでしょうか?

金沢:詳細は企業秘密です(笑)。

――金沢さんはいろいろな分野の仕事を手がけられていますがシナリオを書く作業は大変ですか?

金沢:大変です。シナリオを書くクリエイターという意味では今井秋芳監督をはじめ、たくさんの友人を知っていますが、みなさんシナリオライターというわけではなく、必要に迫られてシナリオも書いているんですよね。ただ、ディレクターがシナリオを書いているからこそ、ゲーム内のシステムと融合することもできています。

――そうですね。

金沢:自分はゲームのシナリオライターさんに何度かシナリオをお願いしているのですが、なかなかうまくいかなくて……。自分は書ける人がいれば自分は書かなくてもいいかなと思っているのですが、やはりゲームのライティングは本当に特殊で、システムと融合させながら書くのでディレクターが書く必然性があるのかなと感じます。世界観を作り上げるシンガーソングライターみたいな感じでしょうか。

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――この記事がアドベンチャーゲームの魅力を伝える連載ということで、これからアドベンチャーゲームを作ろうと思っている人にアドバイスをいただこうと思ったのですが、やはりシナリオだけでなく演出面やシステム面やにも目を向けて制作していくべきなのでしょうか。

金沢:アドベンチャーゲームという括りで言うならばシナリオにこだわることは無いと思っています。自分も今トイボックスのなかで実験的に作っているゲームがありますが、シナリオ重視ではなくシステム重視のアドベンチャーになっています。僕は本来ゲーム作りはシステムから入るべきで、どういう仕組みのものを作りたいのか考えるのが重要だと思っています。シナリオが売りだというならほかのエンターテインメントのジャンルでもできますからね。

――「ブラック・ミラー: バンダースナッチ」のようアドベンチャーゲームの手法を使った映像作品などもありますしね。まだまだいろいろな仕掛けを作れそうです。ではアドベンチャーゲームの市場についてはどうお考えですか?

金沢:やはりそのゲームならではの遊び方を提供しないといけないと思います。みんなが違う切り口で集まってくれば、アドベンチャーゲームは本来、時間をかけてゆっくり遊べるジャンルなので、老若男女問わず楽しめて裾野が広がるはず。今回はドラマモードという、システム理論と逆行するようにみえる機能も付けましたが、見るゲームという考え方も面白いかなと。自分はアドベンチャーゲームはすごくいいジャンルだと思っているので、自分としても広げていきたいと考えています。

――楽しみです。では最後に続編を楽しみにしているユーザーにひとことお願いします。

金沢:すでに3作分のプロットは完成してますので、僕がちゃんとシナリオを書けばできあがります(笑)。あまりネタバレにならないように詳しいことを話すのは控えておきますが、1作目以上に没入感を得られる作品になっているのでぜひ楽しみにしていてください。

――ありがとうございました。

後記

今回は「ミステリーの歩き方」のレビューとインタビューをお届けしましたが、スーパーファミコン時代からゲームを作り続けている金沢十三男さんのアドベンチャーゲームの情熱を知ることができました。「アドベンチャーゲームの名作は?」と聞かれれば、なんとなくストーリードリブンのものを想像してしまいがちですが、実際には「かまいたちの夜」や「街 ~運命の交差点~」、「EVE burst error」、「逆転裁判」のようなストーリーとシステムがうまくかみ合っているものが多いです。

今後はアドベンチャーゲームのシステムについても、より注目しながら作品を紹介していくのでぜひ引き続き連載に注目してもらえればと思います!

1981年生まれ。東京都出身。2000年よりゲーム雑誌のアルバイトを経て、フリーライターとしての活動を開始する。アドベンチャーゲームやロールプレイングゲームなどのジャンルを好み、オールタイムベストは「東京魔人學園剣風帖」。ほかに思い入れのあるゲームは「かまいたちの夜」「月姫」「CROSS†CHANNEL」「ひぐらしのなく頃に」「ダンガンロンパ」「カオスチャイルド」「ライフ イズ ストレンジ」「レイジングループ」など。

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