ADVが好きなゲームライターが真のADVマニアを目指す連載企画。第3回は「ANONYMOUS;CODE(アノニマス・コード)」を紹介します。
連載「ADVマニアへの道」はADV好きのライター・カワチが、新旧問わずにさまざまなADV作品を研究していき、そのマニアへの道を目指していく内容。前回はジー・モードの「G-MODEアーカイブス+」で復活を遂げた「探偵・癸生川凌介事件譚」を紹介しましたが、今回は科学アドベンチャーシリーズの最新作である「アノニマス・コード」を取り上げます。
科学アドベンチャーシリーズ最新作!
身近な舞台や親近感のあるキャラクター、日常からはじまり、世界を揺るがすような壮大な展開になっていく物語、そして科学的根拠のある説得力のある設定で人気の「科学アドベンチャーシリーズ」。その最新作である「ANONYMOUS;CODE(アノニマス・コード)」がついに発売。このADVコーナーで取り上げないわけにはいかないでしょう!
本作は2015年に科学アドベンチャーシリーズの最新作として発表されたものの、長らく続報が途絶えたタイトルです。PS Vita版の発売中止などの紆余曲折を経たあと、2022年7月28日についに発売されました。筆者は東京ゲームショウ2016で“TGS2016限定体験版”を遊び、キャラクターがセーブ&ロードを認識しているメタ構造に関心して楽しみにしていたのですが、まさかこんなに待つことになるとは……(苦笑)。
ここではシリーズをすべてプレイしている筆者のレビューと、プロデューサーおよびリードディレクターを務める松原達也氏へのインタビューをお届け。ADVファン待望の新作である「アノニマス・コード」の魅力を掘り下げていきます。
レビュー
最新作はスマートでスタイリッシュ。ADV初心者にオススメできる作品
西暦2037年の中野を舞台にハッカーの高岡歩論(通称:ポロン)が謎の少女・愛咲もも(通称・モモ)と出会うところから物語が動き出す「アノニマス・コード」。
困っている人を見過ごせない性格をしたポロンは、正体不明の組織に追われるモモを助けるため、いっしょに追手から逃げることに。しかし、ついには追い詰められてモモを連れ去られてしまいます。
その後、ポロンの視界に謎のアプリが立ち上がります。このアプリはゲームのように現状をセーブしたり、記憶を持ったままそのデータをロードできたりする不思議なもの。ポロンはこのアプリの力を駆使してモモを救出。難を逃れる……というのが冒頭の流れです。
“アプリのセーブとロードを使ってピンチを乗り越えていく”というのが本作の基本的な流れで、全体的なプレイとしては12時間ぐらい。シリーズ第2弾「STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)」などは日常シーンが多いのが特徴でしたが、本作は本題に入るまでが早く、その後の展開もテンポよく進みます。
自分は「シュタインズ・ゲート」の日常シーンが好きですし、日常シーンを多く描くからこそ終盤の重みも増すと思っていますが、一方でテキストアドベンチャーをプレイしていない人に勧めづらかったのも事実。「シュタインズ・ゲート」を知らない人に「できれば原作をプレイしてほしいけど、アニメが入りやすいよ」とオススメした回数は計り知れません。
しかし、主人公がハッカーという特殊な職業である「アノニマス・コード」は導入から引き込まれる内容ですし、次々に事件が起きるため、週刊連載のコミックや海外ドラマのように楽しめます。詳しくは後述しますが“マンガトリガー”など凝った演出も多く、読むだけの展開になっていません。
「シュタインズ・ゲート」のリメイク作である「STEINS;GATE ELITE(シュタインズ・ゲート エリート)」もアニメをふんだんに用いるなど普段テキストアドベンチャーを遊ばない人に向けて工夫がなされていましたが、本作はさらにノベルゲーム初心者が入りやすい内容。アニメ好きな人がノベルゲームの良さにも気付けるようなものになっています。以下でどのような部分がノベルゲームの初心者に向いているのか紹介していきます。
マンガトリガー
ノベルゲームは基本的にキャラクターの立ち絵で進行し、印象的なシーンで1枚絵グラフィックが表示されるのが基本ですが、本作は、さらに“マンガトリガー”というコミックのような演出で展開するシーンが用意されています。科学アドベンチャーシリーズはオカルト要素を科学的に解説してくれるのが魅力ですが、専門用語も多く難解なところも。そういった部分をコミック形式で分かりやすく解説してくれるのはありがたいです。また、カーチェイスやバトルなどのアクションシーンも迫力のカットインで描かれます。
UI
通常のシーンは従来のADVと同じく立ち絵で進行しますが、本作では2Dイラストが動く“E-mote”システムを採用しています。キャラクターがキビキビと動くほか、表情も滑らかに変わるので臨場感があります。
近未来を舞台にした本作ではデジタル情報を脳の神経ネットワークに直接介入させる“BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)”という技術が普及しています。
そのため、本作ではポロンが見たニュースやAR情報、仲間とのビデオ通話などがつねに画面に表示されているので賑やかです。ニュースやARは逐一チェックする必要はないので、メインストーリーの妨げにはなっていません。
ハッキングトリガー
プレイヤーではなく、ポロン自体がセーブとロードを繰り返して物語を進めていく本作。プレイするまでは進行用にデータを管理しなければいけないことが大変そうに思えましたが、実際には特定のシーンでボタンを押してポロンにロードを促すことがほとんどなので、迷う心配はほぼありません。
また、ネタバレになるので多くは語りませんが、後半や終盤はロードを促す以外の方法でゲームを進めなければいけない場面もあるので凝っています。「なるほど、こうすればいいのか!」と気付いたときはうれしいです。
魅力的なキャラクターたちは、さすが科学アドベンチャーシリーズといったところ
科学アドベンチャーシリーズといえば、「CHAOS;HEAD(カオスヘッド)」の西條拓巳や「シュタインズ・ゲート」の岡部倫太郎などアクの強い主人公が魅力。最初は個性的すぎて引いてしまうものの、物語を進めていくことで彼らの優しさや芯の強さを知っていき、好きになっていく……というパターンが多かったです。ポロンは彼らに比べるとかなりストレートな性格。最初から感情移入できる人物になっています。
人によっては物足りなく感じるかもしれませんが、個人的にはこの時代にステレオタイプのオタクが主人公になってもリアリティがないと思いますし、これでよかったのかなと思います。
ポロンとモモ以外のキャラクターも魅力的。ポロンの相棒で頼りになる弓川十字(クロス)や情報屋を目指している高校生でアプリのAIキャラクターとラブラブの牧風都(ウインド)など男性キャラクターはいい味を出していますし、自称天才少女の宝生乃々花(ノンノ)などの女性キャラクターはどれもカワイイです。こういった多くのユーザーに愛されそうなキャラクターを作れるのは、さすが歴史あるMAGES.ならではといえます。
なんでも屋の小津谷天弦(オズ)やサイバーフォースドールの倉科子鹿(バンビ)など、ストーリーを進めることでバックボーンが分かり、深みが増すキャラクターがいるのもうまいです。
魅力的なキャラクターが多いだけにもっと交流したかった気持ちもありますが、ここは今後のメディア展開などで掘り下げられることを期待したいです。これだけいいキャラクターが揃っているのに活躍が本作だけなのは本当にもったいない。「シュタインズ・ゲート」のようにいろいろなメディアに広がるような作品になってくれるとうれしいです。
また、本作は科学アドベンチャーシリーズおなじみのTIPSも搭載されています。難しい単語も多いですがTIPSで説明されるので安心。また、このTIPSのなかにはシリーズをプレイしていればニヤリとするような小ネタも多いです。
インタビュー
ここからは「科学アドベンチャー」シリーズのプロデューサーとディレクターを務める松原達也さんのインタビューをお届け。志倉さんの原作を形にまとめる松原さんに、発売まで漕ぎ着けることができた今の心境や発売後だから明かせる裏話をお聞きしました。
「アノニマス・コード」にかかりっきりだったスタッフも
――発売から半月ほど経過しましたが、今の心境はいかがでしょうか?
松原:「ようやく完成できた……」という気持ちが大きいです。2015年ぐらいから着手して、ずっとこの作品に付きっきりというわけではなかったものの、シナリオを最後まで作ったあとにやっぱりゼロから作り直しということが何回か続いたため、なんとか形にして出せたことにホッとしています。
――自分としてもTGS2016で体験版をやっていたりしたので、発売されたことが感慨深かったです(笑)。「アノニマス・コード」の作業に関しては大きく間が空いていたのでしょうか、それとも絶えずなにかしらの作業はしていたのでしょうか?
松原:自分は流動的にいろいろなプロジェクトに関わっていましたが、一部の人はずっと継続して作業していましたね。
――シナリオや、グラフィック、演出などいろいろなパートがありますが、どういった部分の人が本作にかかりっきりだったのでしょうか。
松原:シナリオですね。シナリオは林がコントロールしてるんですが、お手伝い頂いたライターさんが流動的に出入りするみたいな状況が続きました。
――最終的にシナリオでクレジットされているのは林さんと「ファミコレADV シュタインズ・ゲート」や「OCCULTIC;NINE(オカルティック・ナイン)」の劇中劇「MMM(マスターマストマーダー)」も手がけている末廣彩乃さんの2名ですね。
松原:末廣は開発の後半に参加してもらいました。「アノニマス・コード」を完成させるために入社してもらったようなものです。
――過去作を手がけていたときは外注だったんですね。
松原:そうですね。「オカルティック・ナイン」の劇中劇などお手伝い頂いて、科学アドベンチャーシリーズの制作スタイルに慣れてきたといういう所もあって、ガッツリと関わっていただくことになりました。
――発売後のユーザーさんの反応はいかがでしょうか? これまでのシリーズに比べてアニメファンなどのノベルゲームを普段遊ばない人でも楽しめるように作られていた印象です。
松原:おっしゃる通り、テンポ感がいいという反応はすごくありました。あとは難しいという意見もありましたが、難易度的なものは意図したポイントでもありました。攻略サイトなどに頼らないで自力でクリアすることで、かなりカタルシスを感じられるような作りにしています。「自分で頑張って解いたら、めっちゃおもしろかった」と言っている人も多くてうれしかったです。
――難しいポイントはふたつありましたね。ただ、それ以外の部分はポロンのセリフのヒントもあるのでそれほど詰まらずに進めるイメージです。
松原:そうですね。ノベルゲームに慣れている方だったら、「この文章でトリガーを引けばセーブ&ロードが展開する」というのがピンと来ると思います。そのため、難しくはないかなと思います。
――最初からこれぐらいの難易度を想定されていたのでしょうか?
松原:いや、最初はもっと難しいというか、不親切ではありました。開発中間ぐらいまではゲームオーバーになったときのヒントも無く、どこで分岐して、どうしてその結果になったのかということも分からない形でしたので、調整をいれて今の形になりました。
――自分は「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」ぐらい複雑な作品を想像していたので、かなりとっつきやすいなと思いました。
松原:そうですね。ハッキングトリガーは親切設計にしています。
――ハッキングトリガーに関してはプレイヤーのセーブデータと、ポロンのセーブデータが同じ場所に収まっていることにすごくビックリしました。
松原:最初は別々のエリアにする案もありました。ただ、プレイヤーとポロンのセーブデータ両方が混ざっている方がメタ感もあるので今の形にしたんです。実装したことによって、プログラム的にも苦労はしたのですが、やってよかったかなと思っています。
――ぜんぶのセーブデータをプレイヤーが埋めちゃうとどうなるのでしょうか?
松原:セーブエリアがさらに追加され、ポロンはそこにセーブします。
――あぁ、なるほど。プレイヤーが干渉できないポロンだけのセーブエリアが生まれるわけですね。
初期設定ではポロンがグレイパーで宇宙に!?
――制作についてお聞かせください。2020年の3月にコロプラの傘下となりましたが、制作環境は変わったのでしょうか? 「アリス・ギア・アイギス」が「シュタインズ・ゲート」とコラボしたり、その「アリス・ギア・アイギス」のコンシューマ版(「アリス・ギア・アイギスCS ~コンチェルト オブ シミュラトリックス~」)を手がけたりしているようですが、いかがでしょうか?
松原:制作環境的には、とくに大きくは変わってないですね。「アリス・ギア・アイギス」のコンシューマ版もパブリッシングをお手伝いしています(※開発は「アリス・ギア・アイギス」と同様にピラミッド)。MAGES.はMAGES.、コロプラさんやピラミッドさんはそれぞれのタイトルを開発しています。「アリス・ギア・アイギス」のコラボなどでの交流はありますが、うちのノベルゲームのチームは完全に独立してやっているという形です。
――なるほど。では開発環境的にはコロナ禍による変化のほうが大変だったりしたのでしょうか?
松原:もともと、僕も林もアートディレクターの北原も個人で作業するスタイルだったので、そこまで変わらなかったですね。会社にいてもチャットシステムを使って話してたりしていたので、それがオンラインになってもあまり変化はなかったです。
――定例会も開いていたのでしょうか?
松原:そうですね。
――その会議には原作の志倉さんは参加されているのでしょうか?
松原:志倉とガッツリ定例会議をしていたのはちょうどコロナ禍になる前まででした。実制作に入ってからは、データを送って確認をしてもらっていました。
――設定に関して、初期から変わった部分を教えてください。
松原:シナリオは何度か作り直しているのですが、昔のバージョンだと、ポロンがグレイパーで宇宙まで行くような展開もありました。あと、もう少しアレシボ天文台がストーリーに関わってくる予定だったのですが、現実の天文台が崩壊してしまったため、そのエピソードは泣く泣く削ることになりました。
――宇宙に行くということは、かなり壮大だったんですね。システム面ではいかがでしょうか?
松原:もともとはロードだけでなくセーブのタイミングもポロンに提案するという形も考えていました。ただ、データの管理が複雑になりすぎて収拾がつかなくなってしまうこともあり、気持ちよくストーリーを進めてもらうためにシンプルな現在の形になりました。複雑なシステムになっていると遊んでいて気持ちよさよりも、ややこしさのほうが勝っちゃうのかなと思っての変更です。
――改めて2037年の中野を舞台にした理由をお聞かせください。中野がサブカルの街ということも理由にあったのでしょうか?
松原:中野を舞台にしたいというのは、志倉からの一番最初のプレゼンの時から提示されていました。林はハッカーがいそうな街だからと言ってました(笑)。もうひとつの理由は新宿がサッドモーニングという災害でクレーターになってしまい、首都機能が新宿から移動しているということを物語で描きたかったんです。新宿に近い場所で、かつサブカルの街ということで世界観的にもちょうどよかったんですし。
――近未来を舞台にすることも最初から決まっていたんですね。
松原:そうですね。もとから2037年を舞台にすることは決まっていました。
――今回は開発期間が長かったことで、シナリオを書いているあいだに現実が変わってしまうこともあったのではないでしょうか。
松原:そうですね。現実が追いついてきてしまったこともあり、変更せざるを得ない設定はたくさんあります。先にお話ししたアレシボ天文台がなくなってしまった事もそうですし、いちばん大きかったのが仮想通貨や金融の件です。決済方法など掘り下げていたのですが、コロナ過において世の中の在り方が大きく変わってしまったので、そこを扱うのは辞めました。また、本作は世界の危機が迫る展開が早めに訪れ、モモの背負っているものが大きいので、あまり寄り道的な展開をするのも不自然ですので、今の形にまとめています。
デザイン面で言うと、劇中にBMIアプリがいっぱい出てきますが、それぞれの製造メーカーなどの設定も考えて作ってあります。それぞれの企業ロゴだったり、現実で言うと例えばAppleならこういうUIの作りかた、マイクロソフトならこうと傾向があると思いますが劇中のメーカーにもそうあたりを踏まえた形になっています。
――本作では日本では馴染みの薄いハッカーが主人公になっていますが、なぜハッカーを主人公にしようと思ったのでしょうか?
松原:まず、2037年ともなればコンピューターが使えることが当たり前になっていて、そのなかでもとくにコンピューターを得意にしている人を本作ではハッカーと定義しています。
――なるほど。
松原:「コンピューターを華麗に使える人は魔法使いみたいだ」と志倉がよく言うのですが、そんな素敵な魔法使いにスポットを当てたらおもしろいと。
――魔法使いはゲームでも重要なキーワードですが、志倉さんの口癖だったんですね。
松原:主人公がハッカーで世界をハッキング、つまり世界をセーブ&ロードできるという形になります。
――ポロンは今までの科学アドベンチャーシリーズのようにオタク気質な部分がありませんが、どのような理由でこの造形になったのでしょうか?
松原:本作はアクションシーンも多いですし、少年ジャンプの漫画のようにテンポよくグイグイと物語を進めたいというコンセプトがありました。そのため、主人公は今までのようにクセがあるタイプではなく、素直に明るく、みんなを引っ張っていくような少年漫画的な主人公にしたいと思いました。テーマは複雑なのでそうする事で、アニメのように楽しめると考えています。本作はもちろん従来のファンに向けた作品でもありますが、アドベンチャーゲームに慣れてない方にも間口を広げたいという狙いもありました。
――主人公のポロンがプレイヤーを認識しているのが本作の特徴だと思いますが、メタを扱った作品は、ここ数年でヒット作も多数生まれ、珍しくなくなってきました。そこに対する不安はありましたか?
松原:そうですね(笑)。テーマが似ている作品も出てきたので焦りました。映画でも「フリー・ガイ」のような作品もありましたし、オチが被らないかどうかドキドキしていました(苦笑)。
――ポロンはほかのメタ作品に比べて、自分の状況を受け入れるのが早いなと感じました。
松原:根が素直なので受け入れやすいんでしょうね。最初こそ不信がりますがロードができることをそれほど疑問に思っていませんね。事実は事実として受け入れてそれならそれを使い倒してやろうと考えるタイプといいますか。
――最近のゲームプレイヤーもメタに慣れてきていると思うので、ポロンぐらい受け入れてくれるほうがちょうどいいかもしれませんね。
松原:そうですね。それはあると思います。
――今回はメインストーリーのみが用意されている仕組みでしたが、キャラクタールートのようなものの実装予定はなかったのでしょうか?
松原:そうですね。いわゆるルート分岐的は形は今回は最初から考えていませんでした。
――立ち回り的にもすごくいいキャラクターがいたので「もっと活躍が見たい……!」と思いました(笑)。格好いいところもありながら、萌えキャラでもあり、すごく好きです……。
松原:ありがとうございます。そのキャラクターはギャップがいいですよね。初期設定では敵として登場する予定だったのでいまとはだいぶ立ち回りが変わりました。
――それは驚きです。今回、キャラクターに関しては“E-mote”を使用していますが、「ROBOTICS;NOTES(ロボティクス・ノーツ)」のように3Dにするというアイデアは無かったのでしょうか?
松原:今回はキャラクターデザインが漫画家の中田春彌さんだったので、その絵を生かす方向にしたかったんです。3DよりはE-moteのほうが作家さんの個性が出せるのかなと思いました。
――E-moteではサイバーフォースドールの肩のサイレンが回っているデザインがおもしろいなと思いました。
松原:E-moteを開発しているエムツーさんがキャラクターのアニメーションも担当してくれているのですが、最新バージョンであるVer.4.0を使って制作してくれています。
――そうだったんですね。キャラクターの表情が自然に変わるところなどもすごいと思っていました。
松原:そうですね。表情や衣服の揺れなどは従来のものよりも進化していて、できることが増えたからこその表現です。
――シナリオに関してもお聞かせください。林さんと末廣さんが担当されたとのことですが、実際にはどのように分担されたのでしょうか?
松原:章ごとに分かれていますが、おもに中盤のクエスト部分を中心に担当したのが末廣で、林は序盤と終盤を書きつつ全体を見るという分担をしています。また、プレイヤーがトリガーを引いたあとのポロンの反応がたくさんありますが、それも末廣が担当しています。
「オカルティック・ナイン」とのつながりも
――キャラクターについてゲームでは明かされない性格や設定などの裏話があればお聞かせください。モモの服装は彼女の趣味なのでしょうか?
松原:プレイした人ならピンと来ると思いますが、モモが日本に来るように手引きをした人物がいますよね。その人物がモモの為に用意したという裏設定があります。
――あの人物の趣味だったんですね(笑)。
松原:没にした初期のアイデアではゲームの開始時点で実はすでに2周目だったという仕掛けがあり。モモが記憶を持っていてポロンに近づいてくるという展開でした。複雑になっただけでストーリーに落とし込むのが難しく、その設定は無しにしましたが。
――モモもセーブ&ロードの能力を持っていたという設定なのでしょうか?
松原:そうですね。モモと出会った事でポロンもセーブ&ロードができるという展開でした。モモに関してはメインストーリーとも関わってくるので、あんまり深くはネタバレで話せないのですが、本編に含まれている部分での寄り道ポイントの話をすると、クリスマスのシーンでトリガーを引いた時の会話は彼女の豹変っぷりがおもしろいので、ぜひ見て欲しいです。
――クロスはいかがでしょうか?
松原:クロスはポロンとはリモートで話すことが多かったので、もう少し一緒に行動させてあげればよかったですね。志倉によるとクロスはカエルが苦手らしいですが、理由は聞いていないので自分も林もなぜ苦手なのかはわかっていません(笑)。
――ウインドについてもお聞かせください。彼は科学アドベンチャーシリーズっぽいキャラクターだなと思いました(笑)。
松原:そうですね(笑)。ウインドはアプリのAIキャラクターであるヨミに夢中ですが、もうちょっとヨミの出番も増やしたかったですね。
――プレイヤーが画面のウィンドウを消すとヨミもいっしょに消えるのは笑いました(笑)。
松原:BMI表現のひとつとして入れています。ちなみにヨミは「ロボティクス・ノーツ」のキャラデザを担当した福田知則のデザインになります。ウインド自体の裏設定だと、「オカルティック・ナイン」のガモタン(我聞 悠太)と同じ学校に通っているというものがあります。
――そうだったんですね。
松原:年代が変わって制服が一度リニューアルされたという設定はありますが、同じモチーフの制服なので気付く人には気付いてもらえるかなと思います。
――続いてオズについて、彼は物語のなかで過去が描かれるので感情移入をして好きになった人も多そうです。
松原:そうですね。彼はとある場所でトリガーを引くことで過去を掘り下げたシーンがみられます。気が付かない人は気が付かないと思うので探してみてほしいですね。
――続いてはノンノですが、彼女はひたすらにかわいいキャラクターですね。
松原:そうですね、ひたすらに可愛いので大人気のキャラクターです(笑)。彼女の変な言葉は林が考えたものですが、ああいったセリフは「カオスヘッド」のこずぴぃ(折原梢)のころから彼の得意とするところですね。なお、ノンノが持っているミニゲーム機もすべてデザインもありますので、限定版付属の本に掲載いたしました。
――サイバーフォースドールの3人はいかがでしょうか?
松原:センターであるバンビは登場シーンが多かったのですが、もともと3人セットのキャラクターとして作ったので、残りの2人ももうちょっと活躍させたかったですね。イロハはバイク乗りだったり、リコはダンスがうまいといった設定があるので、そこはもうちょっと掘り下げられたのでもったいなかったかなと思います。
――ここからは少しネタバレになってきますが、ぜひ聞きたい何人かのキャラクターについてお聞かせください。JUNOは田村ゆかりさんの芝居が光るキャラクターだと思いました。
松原:JUNOはとても複雑な背景を持つ人物です。収録時のエピソードでいうと田村ゆかりさんキャラクターに対しての理解が深く、キャラクターの演技も完璧で圧巻されました。さすがです。
――敵のなかではダビデがインパクトに残る人物でした。
松原:ダビデは中田さんのデザインが上がってきたときから開発メンバーのなかでも人気のキャラクターでした。名前の響きもよくて、“ダビデ・イエッセイ”って声に出して言いたくなるんですよね。実際に開発のみんなで「ダビデ・イエッセイ、ダビデ・イエッセイ」と言ってました。演じていただいたのは佐藤せつじさんですが、声もすごく合っていて、特徴的な笑い声と「ハレルヤ」でよりキャラのイメージが深まりました。
――ローニンもダビデと違った方向で迫力のあるキャラクターでしたね。彼らは使う能力が決まってからビジュアルを作っていたのでしょうか?
松原:いや、逆ですね。キャラクターデザインが先であとから能力などの設定を考えました。背中に背負ったでかい十字架はダビデの入力デバイスにして、能力はこんな形にしようという順番ですね。
――サブキャラクターだとリディが難しいことの説明役として活躍していたイメージです。
松原:まずポロンに対して(同時にプレイヤーに対しても)科学的な説明をしてくれるキャラクターを配置したくて作りました。数学者でインフルエンサーでとなるときっと、●●●の関係者だよね。という形で生まれました。
――なるほど。ほかにボツになった設定はありますか?
松原:初期設定ではグレイパーレースのシーンがあり、アスマとレースで対決するシーンもありました。アスマのグレイパーもデザインはできていて、近未来的な三輪車になっていますよ。
――ここまでお話を聞いたところだと、物語中に明かされていない設定も多いようですが、今後ファンディスクやメディア展開があるとしたら掘り下げてみたいキャラクターは誰ですか?
松原:まだ次の展開が具体的に決まっているわけではないですが、個人的にはウインドとヨミをもっと掘り下げたいです。あとはロザリオやクロス、オズの過去のストーリーもおもしろそうですね。扱いきれなかった題材もありますので、そういったものを活用した展開ができると面白そうですよね。
――続いて、ネタバレに踏み込んだ質問をしていきたいと思います。終盤で●●●●●が登場するのは最初から決まっていたのでしょうか?
松原:いや、今のバージョンのシナリオになってからですね。
――ポロンがハッキングトリガーを発動した理由はなんだったのでしょうか?
松原:ポロンのことをプレイヤーが観測したからだと考えています。プレイヤーがポロンに注目することで、ある意味因子ともいえるものが強くなり、さらにモモが連れ去られたことで彼の感情が高ぶった結果、セーブ&ロードの能力が使えるようになったと考えています。
――“リーディング・シュタイナー”は誰もが持っているものの岡部はとくにその能力が強いという設定だと思いますが、セーブ&ロードの使用はポロン以外のほかのキャラクターでもありえる現象なのでしょうか?
松原:そうですね、ポロンと同じようにプレイヤーが観測すればできるかもしれないですね。ただ岡部と同様にポロンはその能力の適正が高かったからこそだと思います。
――記憶の保存が本作の重要な設定だと思うのですが、これは岡部のリーディング・シュタイナーと関係があるのでしょうか? もしかしたら岡部もタイムリープをしているときは同じような場所に記憶を保存しているとも考えられると思ったのですが、いかがでしょうか。
松原:なるほど。ただ、リーディング・シュタイナーと関係あるかどうかでいえば関係はないです。それはちょうど世界線と世界層の関係に近いと考えています。
――モモのペイントに関しては最後まで謎になっていたと思うのですが、こちらはどこかで語られているのでしょうか?
松原:誰がいつ付けたのかというのはあえて明かしていません。
――科学アドベンチャーシリーズといえば、「CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu!」や「STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん」のようなファンディスクが発売されていますが、本作はいかがでしょうか?
松原:そうですね。個人的にはやりたいです。今回は物語の序盤から世界の危機がはじまって、そのままジェットコースター的な展開で最後まで行ってしまいますので日常シーンがあまり描けませんでした。平和な世界でセーブ&ロードやBMIを使った仕掛けはやってみると面白いものがつくれると思います。
――科学アドベンチャーシリーズ全体についてお聞かせください。志倉さんは最終的にはシリーズの主人公が集結して300人委員会と戦う展開を描きたいと節々のインタビューでおっしゃっていますが、松原さんはいかがですか?
松原:うーん。どうでしょうね。作品ごとの年代が違うので全員が同じ時間軸にそろう展開があったとしても年齢差がでてきちゃうのでなかなか難しいんですよね。単純にタイムマシンを使って全員集合ですみたいな展開は面白くないですし。難しいですがいつかはやらなければならないし、挑戦しがいがあるテーマだとは考えています。
――なるほど。松原さん自身がこういったものを作りたいという展望はありますか?
松原:今の科学アドベンチャーシリーズの流れを組んでないアドベンチャーゲームを作るのも面白そうだなと考えています。ただ自分は科学ネタや最新ガジェットなどが大好きなので、結局科学アドベンチャーになりそうですが、そういうものを扱った新たな作品を作るのもありかなと思ってます。
――志倉さんとは次の展開についても話し合っているのでしょうか?
松原:そうですね。志倉が次に考えている新作のネタなどは聞いています。発表済みの「シュタインズ・〇〇」もありますし、そちらも着手はしていますが、志倉の頭の中に他にも構想がたくさんあって、どれが先に完成するかはまだわかりません。
――必ずしも以前に次回作として発表された「シュタインズ・○○」が最初になるというわけでもないんですね。
松原:そうですね。順番はわからないです。
――MAGES.さんは科学アドベンチャーシリーズ以外でも浅田さんのチームや原作モノのアドベンチャーなども出されていますね。
松原:自分は浅田のタイトルに関してはプロデューサーやディレクターではなく、UIやグラフィックを作ったりするデザイナーとして参加しています。アニメタイトルなど原作モノに関してはさらに別のチームで制作しています、個人的には今度発売される「サマータイムレンダ」のゲームには原作からのファンだったこともあって参加したかったです(笑)。
――コロプラの傘下になったことでアプリのゲームも開発しやすくなったと思うのですが、いかがでしょうか?
松原:アプリや通信系のノウハウなど日々勉強させていただいてます。最近だと林の下に何人かのシナリオライターが入り、シナリオの専門部隊のようなものができました。各タイトルのシナリオをアウトソーシングせず社内で完結できるようになりました、また、専門のシナリオチームを活かした企画にも挑戦したいと思っています。それがアプリとは限りませんが、コロプラさんと連携しつつ、アプリも含めたマルチプラットフォームで展開できたりするといいですよね。
――新しくできたシナリオチームは何人ぐらいなのでしょうか?
松原:6人です。若手からベテランまで、女性も何人かいます。
――なるほど。今後はコンスタントにMAGES.のアドベンチャーゲームが楽しめそうですね。
松原:そうですね。MAGES.は原作を作る会社として発展していきたいですし、その原作を生み出すシナリオオライターのチームにも力を入れていきます。今はアドベンチャーゲームが中心ですが、それ以外のジャンルも積極的にやっていきたいなと思っています。
――この記事がアドベンチャーゲームを盛り上げていく連載ということで、アドベンチャーゲームの今後についてもお聞かせください。「アノニマス・コード」をプレイしてアドベンチャーゲームの人口を増やしたいという熱意がとても伝わってきました。
松原:アドベンチャーゲームは小説よりもカジュアルに読めるし、アニメよりも深掘りができるメディアだと思っています。今回の「アノニマス・コード」を作ることで、今までアドベンチャーゲームが苦手としていた、アクションシーンの描き方にもチャレンジできたと思っています。今回マンガ演出を作ったことで漫画家さんとの相性がいいということもわかりましたので、この方面の表現を広めた作品も手掛けてみたいです。
――アニメを使った「シュタインズ・ゲート エリート」とは、また違った進化ですよね。よりノベルゲーム寄りになっているというか。
松原:そうですね。アニメーションにはアニメーションの良さがありますが、ボタンと連動するマンガトリガーは、よりノベルゲーム的です。没入感も高いので、まだまだ表現の仕方はあるなと思いました。また、マンガ表現は海外でも話題になりやすく、Steamで発売予定の「アノニマス・コード」もすでに多くの人が応援してくれています。
――欧米の人はアクションゲームが主流だと聞きますし、そういった普段ノベルゲームをプレイしない層に届けるのが課題かもしれませんね。
松原:海外は熱心なファンも多いです。最近はコロナ禍で海外に行けなくなってしまったのですが、アニメキスポなどで登壇させていただいたときは、海外のファンの方からの質問がとても深くマニアックな内容で、圧倒されちゃいました。
――それは作品自体のクオリティはもちろん、ローカライズも高いレベルで作っているから、ちゃんと伝わっているのでしょうね。
松原:はい。「シュタインズ・ゲート」のローカライズでは、岡部と紅莉栖の「ぬるぽ」「ガッ」というやり取りが、海外版では「All your base are belong to us」という別のネットスラングに置き換わったりしています。当時のオタクカルチャーも理解したうえでの翻訳はすごいこだわりでありがたく思っています。
――今後の市場に関してはいかがですか。海外市場を考えれば、まだまだ伸びていきそうでしょうか?
松原:そうですね。Steamなどのプラットフォームを考えてもまだまだ伸びしろはあると思いますし、アドベンチャーゲームじゃないと表現できないことはたくさんあるので、MAGES.も新作をどんどん作っていきます。今はオリジナルのアドベンチャーゲームを作る会社が日本だとだいぶ減ってしまいましたが、海外展開含めて「まだまだこんなにおもしろいアドベンチャーゲームを作れるんだよ」と盛り上げていきたいなと思っています。
――そうですね。日本のアドベンチャーゲームはどれもいいものばかりなので、今後も第一線で盛り上げていってほしいですね。では最後に「アノニマス・コード」が気になっている人にひとことお願いします。
松原:「アノニマス・コード」は従来の作品よりも、わかりやすく作りました、初めてのアドベンチャーゲームとしてもおすすめですので、これまでの科学アドベンチャーシリーズをやっていなくても楽しめる作品になっていると思います。ぜひ遊んでみてください。
後記
今回は2015年の発表から長い開発期間を経て、ついに発売された「アノニマス・コード」を取り上げました。筆者は「CHAOS;CHILD(カオスチャイルド)」の物語にすごく感銘を受けましたが、今回の「アノニマス・コード」で感動したのはアドベンチャーゲームをプレイしない層に届くように向けられたさまざまな工夫でした。
開口を広げるというのはとても難しいことで、初心者にも分かりやすくするとそれまでの濃いファンが離れてしまうこともあります。ただ、「アノニマス・コード」に関して言えば“マンガトリガー”などは迫力もあって新鮮ですし、ストーリーもコンパクトながら綺麗にまとまっていて、ゲームを終えたあとは満足感があります。ノベルゲームのおもしさの核となる部分は変えずに、さらにひとつ上のフィールドに引き上げようという意志を感じました。「アノニマス・コード」自体がおもしろいのはもちろん、この演出がより洗練されて作られるであろう次回作が早くも楽しみになりました。
次回の連載も挑戦的だったり革新的だったりする作品を紹介し、アドベンチャーゲームの魅力を広げていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします!
(C)MAGES./Chiyo St. Inc.
※画面は開発中のものです。
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