ADVが好きなゲームライターが真のADVマニアを目指す連載企画。第1回は「COSPLAY LOVE! : Enchanted princess」を紹介します。

目次
  1. インプレッション:趣味を見つけて生き生きとするお嬢様が可愛らしい!
  2. 高解像度の感想:4Kになると線がクッキリと表示されるのが分かる!
  3. 製作陣インタビュー
  4. 後記

今回から連載「ADVマニアへの道」がスタート。ADV好きのライター・カワチが、新旧問わずにさまざまなADV作品を研究していき、そのマニアへの道を目指していく内容になっています。もしも、「このシナリオがすごい」「このシステムが斬新」など、取り上げるべきだと思うタイトルがあれば、ぜひコメントなどで教えていただけると幸いです! みんなでADVというジャンルを盛り上げていきましょう!!

さて、第1回は駆け出しデザイナーの主人公と,お嬢様コスプレイヤーの恋愛模様を描くアドベンチャーゲーム「COSPLAY LOVE! : Enchanted princess」を取り上げます。

本作のPC版には超解像技術“NVIDIA Image Scaling”が採用されており、高解像度の美しい映像を楽しめるのが特徴となっています。本稿ではストーリーのインプレッション、4Kディスプレイによる高解像度環境下での感想、製作陣インタビューの3つの観点で魅力に迫っていきます。

インプレッション:趣味を見つけて生き生きとするお嬢様が可愛らしい!

本作は新人デザイナーとして企業に勤めるものの仕事に行き詰まりを感じていた主人公が、イベント会場で女の子のコスプレイヤーと出会って仲良くなっていくというストーリー。展開としては王道ですが、それだけに自分の好きなものを見つけて夢中になっていくという作品のテーマもハッキリとしており、純粋なキャラクターたちの行動がストレートに心に刺さります。

また、本作のポイントはなんといってもヒロインである御月千代の可愛らしさ! 彼女は才色兼備なお嬢様で普段は習い事などで忙しい日々を過ごしていたのですが、そんな日々に息苦しさを感じてサブカルチャーの趣味にハマっていくように。とくに過去の名作である「Time's Aegis -Another Mission-」が好きになり、自分の“好き”の表現としてオンリーイベントでコスプレをすることを思いつきます。

そこで、グッズや装飾品を自作していた自分の原点を思い出すため、イベントに参加していた主人公と出会うことになるのですが、千代はサブカル趣味を共有できる知り合いがいなかったため、主人公とすぐに打ち解けるように。

千代は本当に「Time's Aegis -Another Mission-」とコスプレを愛しており、主人公にキラキラとした目で生き生きと魅力を語ってきます。なにかに夢中になっている人は素敵だなということを感じさせてくれます。

コスプレイヤーというと、それだけで色眼鏡で見る人がいますが、コスプレは同人誌や同人グッズと同じように作品愛を表現する形だと分かるはず。後述のインタビューでも製作者から語られていますが、本作ではコスプレイヤーの衣装制作のこだわりや苦労話などをヒアリングして制作しているとのことで、作り手、表現者としての心情がリアルに描かれます。美少女ゲームの題材として場面を盛り上げるためだけにコスプレが使われていることがないことが分かります。

とはいえ、本作は美少女ゲームであるため、千代の衣装はセクシー。キャラクターアニメーションツールのE-moteで胸の部分が揺れるのでドキドキします。「結局はそっちの方向かい!」とツッコミたくなりますが、まぁ、そこは別腹ということで(笑)。ボイスを担当している野中みかんさんの可愛らしい声もあいまってイチャイチャするシーンは顔がにやけてしまいます。

ストーリーのネタバレはしませんが、本作は選んだ選択肢によって物語が分岐するタイプでエンディングも2種類存在。いわゆるトゥルーでないほうも悲惨な結末ではなく希望のある明るいものになっています。優しい世界観になっているので安心して楽しむことができます。

値段も手頃でプレイ時間も長くないので、サクッとプレイできます。疲れているときなど、心をホッとさせたい方にオススメ。

高解像度の感想:4Kになると線がクッキリと表示されるのが分かる!

編集部にある4Kディスプレイで画面をフルスクリーン表示してみましたが、オプションの超解像度をオンにしているのとオフにしているのとでは、明らかに違うことが分かりました。

オフのときはとくに気にならなかったのですが、いちどオンのクッキリした輪郭の線を見ると、オフのときに線がボヤけているように映ります。オンにすることで「原寸のCGではこういうイラストなのか」ということが分かって感動。オフでも問題なく遊べますが、やはり高解像度だと伝わる情報も異なります。とくに目や髪などのこまかい部分の印象が変わりますね

超解像機能オン。
超解像機能オフ。

なお、超解像機能はグラフィックが精細であるため使っているモニターによっては線がしっかり映りすぎて滲んでいるように見えてしまうこともあります。超解像機能のかかり具合は0~100の間で調整することができ、場合によっては50ぐらいに調整したほうがしっくり来ることもあると思うので、そこはユーザーの好みに合わせてチョイスすることが可能です。超解像機能をオフからオンに変えるだけでも印象は違うのでぜひ試してみてください。

超解像機能オフ。
超解像機能オンで0%の画像。
超解像機能オンで50%まで上げた画像。
超解像機能オンで100%まで上げた画像。

アニメや映画のパッケージは4K高解像度に対応しているものも増えてきましたが、CGが作品にとって重要な位置を占めるジャンルの美少女ゲームもグラフィックにこだわっていいのではないかと本作を体験して感じさせてくれました。4K環境がある人は自分の目で比べてみて欲しいですね。

製作陣インタビュー

製作会社・iMelのみなさんに気になる部分を直接お聞きしました。ADVの未来に繋がる話になっているのでぜひチェックしてみてください。

回答者(敬称略)

高橋一穂(代表取締役)
御影(外部プログラマー)
鳴神(プロデューサー)
NEXD(プロデューサー)

――iMelさんではこれまで2DのADVでは“Artemis Engine”を使用していたとのことですが、このエンジンは2DのADVではポピュラーなのでしょうか? iMelのタイトルで“Artemis Engine”を使用している理由をお聞かせください。

高橋:Artemis Engineは、ここ10数年間で400タイトル以上(うち商業流通タイトルは200ほど)の2D ADVに採用されました。商業メーカー・同人サークルの数も120以上にのぼります。最近はPCやスマートフォンだけでなく、Nintendo SwitchやPlayStation4の採用タイトルも増えました。以前より2D ADV界隈での存在感が増したように感じます。採用タイトルの起動時やスタッフクレジットにArtemis Engineのロゴや名前が表示されることも多いため、「見たことある!」という方もいらっしゃるかもしれません。

iMelのタイトルで使用している理由ですが、大きく2つございます。1つは2DのADVのマルチプラットフォーム展開が容易に行えるArtemis Engineの特性に魅力を感じているためです。もう1つは、登場からまもなくiOS(当時はiPhone OS)やAndroidへ対応したり先日の超解像技術NVIDIA Image Scalingを組み込みしたりとエンジン作者である御影さんの先見性や行動力に惹かれるためです。

御影さんが個人で開発・公開しているエンジンにつきiMelは他社や同人サークル同様に「使わせていただいている」立場ですが、iMelがシステム面を担当する場合はほぼ全てのタイトルで使用しています。おかげさまでArtemis Engineの知見も深まり御影さんとの連携も強化され、PC/スマートフォン/コンシューマー/Webブラウザで多くのタイトルを世に出せました。

――Artemis Engineは2022年2月に超解像技術のNVIDIA Image Scalingが搭載されましたが、本作「COSPLAY LOVE!」は、どのタイミングでこの技術を搭載することが決定したのでしょうか?

高橋:御影さんから「NVIDIA Image Scalingに対応した!」と唐突にチャットで連絡いただいた日は2月7日でした。無知な私は思わずググりましたが、出てきた情報を見ても凄さがイマイチわからず……。ところが、その直後にデモを拝見したところあまりのシャープさに驚きました。

御影さんのイチオシであること、今後のエンジン採用へ優位に働くかもしれないこと、そして本作「COSPLAY LOVE!」のPRに繋がるかもしれないとも考えてなるべくすぐに決めたいと考えました。手元でこっそり性能検証を進めながらシステム担当へも共有してフレームワークへも組み込みをしてもらい、10日後となる17日に本作への搭載も決めました。

この当時、本作は既にNintendo Switch版がマスターアップ直前、PC版も99%くらいの作業が完了している状況でした。しかし先の理由からなるべく早く採用したタイトルをリリースしたいこともあり、同作のプロデューサーや担当へ無理を聞いてもらい搭載した形です。

――iMelさんはNVIDIA Image ScalingがArtemis Engineに搭載される前から、もともと高画質化の実装の研究などは進めていたのでしょうか。それともNVIDIA Image Scalingを機会に高画質化の実装を進めたのでしょうか。

高橋:高画質化の研究や工夫は、これまで特に実施していませんでした。ゲームの解像度については、コストや要求性能を高めに設定できるタイトルはフルHDで作る、そうでないタイトルはHDで作る、というオーダーがiMelにおいての普通でした。

200タイトル以上制作してきましたが、そのうちフルHD以上で作られたタイトルは10タイトルもありません。状況は今後もしばらく変わらないと予想されるため、コストや性能との折り合いをつけながらNVIDIA Image Scalingの利用や解像度・画質の向上に取り組みたいです。

――ADVは開発にコストがかからないのもメリットのひとつだと思うのですが、なぜ超解像を実装することになったのでしょうか? 高画質化のどこに魅力やメリットを感じていますか? また、コスト面や技術面など、実装のデメリットなどがありましたら、お答えできる範囲で教えていただけますと幸いです。

御影:わたしは普段55インチの4K有機ELテレビでゲームをしているのですが、フルHDに満たない画像を一般的なアルゴリズムで全画面に拡大すると、かなりフォーカスのあまい映像になってしまい、いつも残念に思っています。

3Dのゲームと違いADVは製作時に解像度が決まってしまうため、通常はこの問題をユーザー側で緩和することはできません。かといって、4KをターゲットにADVの製作をするというのも、製作コストはもちろん、容量の問題や、性能の問題もでてくるため、なかなか現実的ではありません。

超解像技術であれば、ゲームエンジンに一度実装してしまえば、タイトル毎の製作コストにはほとんど影響しないため、役に立つ品質さえ出せれば、現実的です。ですが、わたしは個人でArtemis Engineを開発しており、グラフィックスに関する専門的な知識があるわけではなく、自分で超解像技術を開発するというのは無理がありました。

そこに、NVIDIAが開発した超解像技術がオープンソースになると聞き、これしかないと思い、実装に至りました。NVIDIA Image Scalingは実装しやすいかたちで提供されており、実装はスムーズでした。なお、超解像機能はオンオフの切り替えができるため、デメリットはほとんどありません。

――NVIDIA Image Scalingで超解像を実装するにあたり、テスト段階でトラブルや大変だったことはありましたか?

御影:NVIDIA Image Scalingはコンピュートシェーダで実行されるため、GPUに依存しています。普段開発に使っているいくつかのPCでは問題なかったものの、少し古いPCなどで異常に重くなってしまう現象などがあり、不具合なのか仕様なのかわからず、またどんなGPUでそうなるのかを調べるのも少ない手持ちの機材では難しく、困りました。

結果的にこの重くなる問題は不具合だったため修正でき、本作では今のところこれといったトラブルの報告はなく、胸をなでおろしています。

――本作は立ち絵がアニメーションする技術のE-moteも搭載されていますが、動くイラストを超解像に対応するのは技術的に可能なのでしょうか? E-moteに対して、補正などのなにか特別な技術を使っているようでしたら教えてください。

御影:NVIDIA Image Scalingは画面に出力する直前の最終画像単体に対して独自のアルゴリズムで補正をかけながら拡大する技術のため、画像の内容はどんなものであっても適用できます。

――ヨシノリョウさんのキャラクターを超解像で出力するにあたり、とくにこだわった点があれば教えてください。また、超解像で注目してもらいたい、または違いがよくわかる部位(目や口など)はどこですか?

高橋:開発の完了間際にNVIDIA Image Scalingが採用されたこともあり、グラフィックやモーション作成時は何も想定していませんでした。このため、結果的に「NVIDIA Image Scalingが画面に出力する直前の最終画像単体に対して適用される」ことは、とても幸運でした。

鳴神:超解像を適用した際に違いがよくわかる部位ですが、E-moteで動いているキャラの髪を比較するとわかりやすいかと思います。好みにもよりますが、超解像の効果を強くしすぎると絵のタッチが固くなりすぎてしまう点が気になる人もいるかもしれません。

個人的におすすめなのは「超解像はONにしつつもかなり弱めにかけてあげる」ことで、ヨシノリョウ先生の素敵な質感を残しながらも高画質化できるかと思います。

――今回はPC版でのみ超解像が実装されていますが、将来的にはコンシューマーでも実装を考えていますか? PlayStation4やNintendo Switchでも実装できそうでしょうか?

御影:まずSwitchですが、Switch自体のネイティブ解像度がそれほど高くないため、ネイティブ解像度で製作する例がほとんどだと思います。そのため、超解像技術を搭載する意味はありません。

次にPS4ですが、こちらはProではない通常のPS4を基準としてフルHDで製作されることが多いと思います。そのため、4K対応であるPS4 Pro専用機能として超解像を実装する意味はあると思います。

ただ、フルHD未満を4Kに拡大するのと、フルHDを4Kに拡大するのとでは、得られるメリットが少なくなります。また、ADVのタイトル数もPCやSwitchと比較すると少ないこともあり、実装の検討はしていますが、今のところ消極的です。

――今後リリースするタイトルも超解像を実装する予定はありますか? 展望をお聞かせください。

高橋:既に現在開発中の複数のPC版タイトルで実装しており、今後も増える見込みです。キャラクターや背景はもちろん、UIや文字などへも適用されて全てが明瞭になる点も好評でして、多くのお客様にもご興味をお持ちいただけております。

本体性能の上昇速度に対して、出力機器であるモニタやテレビの高解像度化と普及が進み、今後も超解像の需要は高まりそうです。ご期待に応えられるよう推進して参ります。

――最後に作品が気になっている人に一言お願いします。

NEXD:今作は、華麗な衣装を着こなすコスプレイヤーとしての華々しい一面だけではなく、衣装作りを中心にポージングや作品研究等、普段はどういったことをされているのかという部分を実際の現役レイヤー様に話を伺いつつ細かく制作してまいりました!

コスプレ衣装はもちろん、コスプレイヤーの日常についても興味がございましたらぜひ本作をプレイしてみてください!

鳴神:執筆時点でSwitch/PS4/PCと3つのプラットフォームで展開しておりますが、夏頃にはiOS/Androidのモバイル環境でもプレイできるよう開発を進行中です。(※NISはPC版のみ対応です)

もしも興味を持っていただいたユーザーさんがいれば、一番プレイしやすいプラットフォームのものをプレイしていただければ嬉しいです!

後記

「ADVマニアへの道」の第1回は業界初の超解像技術を採用した「COSPLAY LOVE! : Enchanted princess」を紹介しました。美少女ゲームの画像の解像度に関しては「そういうものだ」と思って意識していなかったので、進化することに驚きました。ただ、今後、4Kモニターがスタンダードになっていけば、そこに対応した画像出力も必要になってくるのも必然ですね。いちはやく進化を取り入れた「COSPLAY LOVE! : Enchanted princess」は素晴らしいですし、iMelさんの作品には今後も注目していきたいです。

それでは次回以降もさまざまなADVを取り上げていくので、連載の応援よろしくお願いします!

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