「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏

インタビュー
0コメント SIGH

集英社ゲームズが2026年5月28日に発売予定のNintendo Switch/PC(Steam)向けタイトル「シュレディンガーズ・コール」のインタビューをお届けする。

「シュレディンガーズ・コール」は、インディースタジオ「Acrobatic Chirimenjako(アクロバティックチリメンジャコ)」が開発を手がけ、集英社ゲームズがパブリッシングを行うタイトル。記憶喪失の少女「メアリ」が月が落ちて世界が終わるその間際に、死にきれない魂たちと電話を通じて交流する内容が特徴だ。

左から林真理氏、Achabox氏、ame氏、入交星士氏
左から林真理氏、Achabox氏、ame氏、入交星士氏

今回は開発チーム「アクロバティックチリメンジャコ」のAchabox氏、入交星士氏、ame氏、プロデューサーを務めた集英社ゲームズの林真理氏にお話を伺っている。重大なネタバレは含まれないが、なにも情報を入れずに楽しみたい人は注意してほしい。また先行プレイレビューも掲載しているので、こちらもあわせてチェックしてほしい。

アクロバティックチリメンジャコ誕生秘話

――まず「アクロバティックチリメンジャコ」というユニークなチーム名は、どのように生まれたのでしょうか?

Achabox:この質問いつも聞かれるんですよね(笑)。アクロバティックチリメンジャコは、「シュレディンガーズ・コール」のために作ったチームなのですが、チーム名をたまたまチリメンジャコのパックを開封しながら考えていたら、部屋中に飛び散ってしまいました。その光景を見たときに「アクロバティックチリメンジャコ」と浮かんだんですよね(笑)。

――そのような経緯が(笑)。Achaboxさん、入交星士さん、ameさんの3名で開発することになったきっかけを教えてください。

林:集英社ゲームズは、インディークリエイターを支援する「ゲームクリエイターズCAMP」を展開しており、その一環としてオリジナルゲームコンテスト「GAME BBQ vol.1」を開催しました。その際に「アクロバティックチリメンジャコ」が応募し、優勝作品となったのが「シュレディンガーズ・コール」なんですよね。

Achabox:私はイラストなどビジュアル面しかメインに担当できないんじゃないかと考えていたので、ちょうどインディーゲーム界隈の繋がりで親しくしていた星士さんに声をかけました。たまたま家が近所で、週1〜2回くらい一緒にランチに行く仲だったんです。そのときに映画が好きだったり、舞台関係の仕事をしていたりという話を聞いていて、「シナリオが書けそうだな」と勝手に感じて、「一緒にゲームコンテストの企画書を作ってくれませんか」とお願いしました。

さらにroom6所属で「ローグウィズデッド」や、「ことだま日記」を手がけているエンジニアのkoheiさんに「プロトタイプ部分だけ手伝う」という形で参加いただき、3人でチームを結成して応募した、という流れでした。ただkoheiさんはすぐにチームを離れることになり、エンジニア不在の状態になったためゲームクリエイターズCAMP経由で紹介していただいたのがameさんです。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――GAME BBQ vol.1大賞受賞からパブリッシング決定までの流れで、印象に残っている出来事はありますか?

林:当時の集英社ゲームズは今ほど大きな組織ではなく、社内メンバー全員で候補タイトルを見ながら、プロデューサー陣だけでなくマーケティング担当も含め、「どの作品を大賞にするか」を話し合った結果、選ばれたのが「シュレディンガーズ・コール」でした。コンセプトが非常に面白かったですし、経験が浅いチームを支援することが僕らにとっても大きなチャレンジで良い機会になるんじゃないか、という話になったんです。そして「誰が担当するか」という話になったとき、真っ先に手を挙げたのが僕でした。

――当時はどういったコンセプトや内容で応募されたのですか?

Achabox:私と星士さんは映像制作ができたのですが、特に星士さんが「自分たちの思いやコンセプトをいかに伝えられるかが重要だ」と言って、「どんな気持ちでこのゲームを作ったのか」を語るインタビュー形式の動画を制作して、コンセプトと一緒に送付しました。

林:資料の完成度以上に、真面目さや熱意のようなものを強く感じたんです。自分たちでインタビュー映像を作る姿勢もですし、資料に書かれた文章からも「この作品を届けたい」という強い思いが伝わってきました。

――そもそもの話になってしまいますが、GAME BBQ vol.1に応募した理由やきっかけはなんだったのでしょうか。

Achabox:私はroom6でデザイナーとして働いていました。今では本当に沢山のオリジナル作品を世に送り届けているroom6ですが、当時はまだ会社の規模も人数も少ない頃だったので、社内でオリジナル作品だけを作っていくのは難しいところもあったかと思います。

自分自身、オリジナル作品を作りたいなと思っていたこともあり、ちょうどクリエイターを支援してくれる取り組みやコンペ企画がちょうど増え始めた時期でもありました。集英社ゲームズのGAME BBQ vol.1が開催されると聞いて、タイミングが重なった感覚でしたね。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

“通話で人を救う”がコンセプト

――本作の核である「月が落下した後の21ナノ秒間」や「電話を通じた魂との会話」というコンセプトは、どこから着想を得たのですか?

Achabox:もともとコロナ禍に家庭の事情なども重なって、精神的につらい時期があったんです。ただ気軽に人と会って相談することも難しい状況で、今でこそ通話文化は当たり前になっていますが、当時はまだ過渡期でDiscordなどのチャットツールが少しずつ広まっていった頃だったと思います。そうした中で友人に話を聞いてもらったり、顔も知らない会ったこともない人たちが集まるコミュニティに入ったりして、自分の悩みを相談したりすることが増えていきました。

そういった体験を通じて「この感覚をゲームにしたい」と思うようになり、浮かんだのが「世界最後の話し相手になるゲーム」というアイデアでした。ビジュアルイメージも早い段階で固まっており、メアリが座っていて周囲に動物たちがいる光景が、ぱっと頭に浮かんだんです。構想当初は月が落ちた21ナノ秒間という設定はなく、それは星士さんとチームを組んで「作品をどういった物語にしていくか」を掘り下げていく中で生まれました。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――チームのお二人は、Achaboxさんのアイデアを発展させていく上で意識したことはありましたか。

入交:Achaboxさんの構想をもとにゲームを作り始めたんですが、「通話で人を救うとは具体的にどういうことなんだろう?」という部分が、ゲームのメカニクスとしてなかなか定まらなくて長期間悩んだポイントでした。

第一章の最後にある救いの形には開発から一年ほど経って初めて辿り着きました。それが、本作における“救い”の形なんじゃないかと。そこから逆算する形で世界観を組み立てていき、月が落ちてくる設定などの骨格を作っていきました。

ame:最初に企画を聞いたときは、ファンタジーではありますが王道の型にはまったものではないですし、ゴシック調とも言い切れない独特のオリジナリティを感じました。そのうえでビジュアルや世界観のスタイルを作るだけではなく、その先に「プレイヤーへ感動を届けたい」という意思がある企画で、どういう体験をユーザーに届けたいのか目的がはっきり見えていたからこそ応募しました。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――Discordなどに影響されたという話でしたが、作品で現代的なチャットツールではなくアナログな電話に焦点を当てた理由はどういった意図がありますか?

入交:シンプルに言うと電話は自分ひとりでは成立せず、必ずリアルタイムに通話相手がいるコミュニケーションですよね。当然メッセージアプリやチャットツールにも良さはありますが、孤独感や「誰かと繋がりたい」という感情を表現するときは、昔から黒電話のようなモチーフが使われてきたと思うんです。

たとえば誰もいない部屋で寂しいときに電話が鳴って安心したり、逆に誰とも話したくないのに電話が鳴ってしまって出なければいけなかったり、そうした人との距離感や感情の揺れを表現するテーマとして相性が良かったんです。

――なるほど。現代の通話アプリやチャットツールでは、「この人から電話がかかってきたら対応しない」なども判断できてしまいますよね。

Achabox:ゲームでも電話がジリジリと鳴っている中で、カメラが寄っていくシークエンスがありますが、「誰からの電話なんだろう」「少し怖いな」と感じるような、不安と緊張感が入り混じった雰囲気を演出したくて、受話器を取る直前の独特の間や空気感はこだわりました。

――タイトルの「シュレディンガーズ・コール」に込めた意味や、量子力学の要素をゲームに取り入れた理由を教えてください。

入交:「シュレディンガーの猫」には大きく分けて2つの捉え方があると考えていて、1つ目が量子力学における思考実験として、エルヴィン・シュレーディンガーが反証のために提示した本来の概念。2つ目がSFやエンタメ作品で広く扱われている“観測されるまで状態が確定しない猫”というイメージです。「シュレディンガーズ・コール」では、どちらかと言えば後者の解釈に近く、量子力学そのものを扱ったというよりは「観測者が存在することで結果が変わる」というSF的なモチーフとして取り入れています。

本作では主人公のメアリを通して、プレイヤーが電話相手の感情や気持ちに介入していきますが、話を聞くという行為は単なる傍観ではありません。距離を取りながら観察しているようでいて、実際には相手に影響を与えているんです。また電話というモチーフ自体も“シュレディンガー的”で、電話が鳴っている間は相手がわからないけど、受話器を取った瞬間に確定する感覚もタイトルに込めています。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

Achabox:生と死の狭間にいる魂たちの在り方を“確定”していく流れも、「シュレディンガーの猫」というモチーフに重ねているんです。さらに主人公のメアリ自身も、「自分は何のために存在しているのか」という存在意義が常に揺らいでいて不安定な状態にあります。そうした“確定していない存在”や、“どこへ向かうのかわからない未来”というイメージが、箱の中の猫と重なってゲームのコンセプトにマッチしていました。

――主人公メアリや電話をかけてくる魂たちの設定で、意識したことを教えてください。

入交:もともとは“ガチめ”のSFを作ろうとしており、製品版よりも前のバージョンはさらに専門用語が多かったんです。ただ開発を進める中でSF要素を削ぎ落していった結果、ヒューマンドラマの比重が大きい作品になりました。

ame:キャラクターを考えるときに個人的に意識しているのが、「キャラクターにとって何が過剰で、何が欠落しているのか」という部分なんです。過剰さと欠落を抱えたキャラクターは足りないものを埋めようとして行動しますが、同時に“過剰さ”を抱えているせいでうまくいかない。そういったアンバランスさが物語に推進力を生むので、サブシナリオを執筆しているときは意識していました。

Achabox:先ほど星士さんも言われていましたが、開発初期は「電話で人の話を聞いて、“救う”とは何なんだろう?」という部分に悩み続けており、プロトタイプが形になるまで試行錯誤していました。また、ゲームでは最後の未完了通話に突入する前に、思考解放パートという相手に寄り添うシークエンスがありますが、その描き方も何度も議論したんですよ。

たとえば「逆転裁判」のように相手を論破して真実を暴く流れも成立しますが、相手を論破することは本当に“救い”なのか? という疑問があったんです。真実を明らかにすることが必ずしも人を救うのではなく、むしろ救いとは相反する場合もあるんじゃないかと。

一方でゲームとしてはクイズ的な面白さも必要なので、寄り添い方をどうやって表現すればいいのか考えたときに、私たちは「相手を肯定すること」や「相手がどう感じたら救われるのかを考えて選択すること」を大事にしよう、という方向に進んでいきました。そのため選択肢の作り方や会話のニュアンスは、チーム全員で気を遣いながらこだわった部分ですね。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――たしかに、相手を傾聴しながらプレイを進めていくのが本作ならではだと感じました。「絵本をめくるように体験できるノベルアドベンチャー」と銘打たれてますが、意識したことはありますか?

林:実は「絵本をめくるような体験」という表現は、最初から目指していたコンセプトというより、ゲームを集英社ゲームズのマーケティングチームに遊んでもらった際に、自然と出てきた言葉なんです。僕自身は毎週ミーティングをして、長期間向き合ってきたので開発メンバーに近い立場だったのですが、外部の視点に近いマーケティングチームが、「絵本を読む感覚に近い」と感じてくれたことで、「目指していた体験が形になった」と実感しましたね。

ame:僕自身、本を読むこと自体がひとつの体験だと思っていて、だから今でも電子書籍に移行できないんですよね(笑)。紙の本を読み進めるにつれて右側のページがだんだん重くなって、左側が軽くなっていく感覚も含めて“体験”だと考えていて、子どもの頃に本を読んでいたときも、物語の面白さ以上にページをめくって自分の手で物語を進めていく感覚が好きだったんです。読むたびに自分が能動的に物語を前へ進めている感覚が表現されている言葉が、「絵本をめくるような体験」ではないかと思いますし個人的にも気に入っています。

――ゲームを進めていく体験自体が、絵本を読み進めるようだと。

林:アドベンチャーゲームは、基本的にボタンを押してテキストを読み進めていきますが、本作は“ボタンを押す”という行為自体に、意味を持たせたいと考えています。単なる「決定」としてボタンを押すのではなく、「このキャラクターに寄り添うために押す」「この言葉を伝えたいから押す」など、会話にプレイヤー自身の感情や意思を伴う感覚を大事にしています。そういった意味で自分の手で物語に触れている行為だと言えますし、だからこそ“絵本のページをめくる”体験に近いのではないかと。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

迷走が多かった?開発チームの制作背景に迫る

――それではAchaboxさんに、本作のディレクションやアート面など制作面でこだわった点をお聞きしたいです。

Achabox:たとえば、本作をモノクロ表現にしたのは生と死を扱う物語だからという理由があり、死の気配を感じる暗い質感の世界観にしたかったんです。ただずっとモノクロだとプレイヤーが飽きてしまうので、思考解放パートや未完了通話などでは、意図的にカラーを使用しています。

ame:制作へのこだわりという意味では、「チームにはどのような制作環境が必要なのか」を特に初期は重視していました。星士さんは本当に多才な方で、自分でシナリオ・画面レイアウト・音楽・SE・映像制作まで行えるんです。だからこそ本人のタレント性を考慮して、“自分ひとりで試行錯誤を完結できる環境”を用意したほうがいいと考えました。

たとえば手帳システム専用のレイアウトツールを用意して星士さんに渡し、文章執筆→演出付け→再生して確認→書き直しといった、サイクルを回し続けられるようにしたのもその一環です。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――制作環境やツールにもこだわりが⋯⋯。

入交:アドベンチャーゲームやビジュアルノベルは、ティラノスクリプトやRen'Pyなど、既存のゲームエンジンやスクリプト環境で作られることが多いですよね。ただ僕たちは「Yarn Spinner」をベースにカスタマイズした、独自の「シュレディンガーズ・コールエンジン」を使っているんです。ameさんがエンジンの基盤を作り込んで、僕が自由に演出や表現を組み立てていくという制作スタイルでした。だからこそ一般的なアドベンチャーゲームとは少し異なる、“変わった手触り”が生まれているのではないかと。

林:3人という小規模チームなので完全な分業体制ではなく、シナリオや音楽などにお互いが意見を出し合って、横断的に制作していたように見えました。だからこそ自分たちが思ったことをすぐ形にできる環境を、どのように作っていくかをずっと考えていたんでしょうね。言ってしまえば「シュレディンガーズ・コール」の制作期間中はゲームと同時に、“ゲームを作るための環境”も並行で作り続けていました。

――手帳のお話がありましたが、イラストがふんだんに描かれていたり、重要な単語がハイライトされていたりと非常にユーザーライクだと思いました。

ame:その点に関しては、「どういった手帳にするのか」というAchaboxさんのディレクションの成果が大きいと思います。あと星士さんはレイアウト能力が高く、僕も手帳を作ってみましたが、星士さんが調整したものと比べると見やすさが違いました。「見たくなるレイアウト」を作る力が高いんですよね。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――必要な情報がまとまってるだけではなく、デザインとしてもこだわられてると。

ame:もちろん手帳だけでなく、ゲームとして「何を選択肢にするか」「どうやって先に進めていくか」という要素も大切でした。“どういったキーワードを選択肢にすると、適度に必要な体験を与えられるか”が重要で、僕自身もサブシナリオを執筆した段階で選定しています。最終的にはチーム内で何度もプレイしながら、「選択肢が多すぎると迷いすぎるかもしれない」「選択肢が少なすぎると、プレイしている感覚が薄い」など、チューニングしていきました。

――お話にも出た星士さんにお聞きできればと思いますが、メインシナリオと音楽を担当されていますが、どのように制作されましたか?

入交:今回の開発は、いわゆる「3人で均等に意見を出し合う」やり方とは異なります。コンセプトを作ったAchaboxさん自身の「何をやりたいか」が明確で、軸をぶらさないことは前提として決まっていました。そのためシナリオに関しては、Achaboxさんが納得できるまで突き詰めていくことに時間をかけ、行き詰まったときには林さんが客観的な視点から整理したり、支えたりする流れが多かったですね。

音楽は僕自身が舞台向けの楽曲制作をしていたことがあり、ストックがたくさんありました。トライアンドエラーを高速で回せる仕組みがあったからこそ「作って違ったら変える」というサイクルをテンポよく繰り返せていたので、良くも悪くもこのチームだったからこそ、密度の高い試行錯誤ができました。

林:従来だと音楽は制作時に後追いで外部発注したり、既存の素材を使ったりすることも多いですが、星士さんはシナリオの執筆段階から曲のイメージが頭の中にあって、全体像を同時に思い描く力があります。その強みを活かしながら星士さんが作成した成果物をAchaboxさんに投げて、「良い・違う」という調整を壁打ちのように何度も繰り返していたんです。一般的な制作フローとは異なるやり方だからこそ、他では生まれにくい表現も多く取り入れられていると思います。

Achabox:かなり迷走していた時期はありましたね。第1章のルーシー編が出来上がった時点では手応えがあったのですが、その後1年半ほど第2章以降がなかなか完成しなかったんです。集英社ゲームズさんにビルドを提出しても厳しいフィードバックをいただきましたし、我々も納得できていませんでした。

ただ試行錯誤を重ねていく中で少しずつ土台が固まり、各章で扱うテーマが形になった段階で、改めて「どこで緩急をつけるのか」「プレイヤーにどんな感情体験をしてほしいのか」を整理して、図として可視化しました。そのうえで星士さんとameさんがシナリオとして書き起こしたという流れでした……大変でしたね。本当に(笑)。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――迷走されていた時期が長かったのですね。

林:頭の中には「こういう体験を届けたい」という方向性はありましたが、3人とも「どのように伝えれば良いのか」という答えは、実際に手を動かさないと見えてこなかったんです。当然アイデアもそれぞれ違っていて、実際に取り入れてみると噛み合わなかったり、「思っていたものと違う」と感じたりすることも多かったですね。

入交:「シュレディンガーズ・コール」は基本的に移動がなく会話中心で進んでいきますし、過去の出来事を振り返るものが多いんです。ゲームは「何が待っているんだろう」という期待感が楽しさのひとつだと思うので、「ゲームとして成立させられるのか」という不安はありましたね。

――試行錯誤が多かったとのことですが、チーム内で意見が分かれたときはどのように解決していましたか?

Achabox:ほとんど殴り合いみたいな感じでした(笑)。どうしても意見がまとまらなければ「私がこれでいきたいので進めさせてください」と決めることもありましたし、逆に2人とも芳しくない反応のときは、林さんに間に入ってもらうこともありました。

入交:集英社ゲームズさんとは毎週ミーティングを重ねて、継続的にフィードバックをいただきました。単に感想をもらうだけではなく、必要なときには具体的な指摘も率直に伝えていただいていましたし、本当に多くの時間をかけていただきましたね。

おそらく集英社ゲームズさんによるマイルストーンがなければ、完成までたどり着けなかったかもしれません。完成させるためのプレッシャーというか、“完成圧”は本当に大切だと思います。ゲームに限らず、さまざまなエンタメ作品は、区切りや締め切りがあることで、前に進められるからだと実感しました。

――集英社ゲームズとは二人三脚で制作されたのですね。

林:クリエイティブを行う以上、意見がぶつかること自体は自然なことですよね。むしろ安易に妥協してしまうと、良い作品にはなりません。ただルールで割り切れる話ではないので、何度も話し合いながら着地点を探し続けてきました。もちろん「自分の考えとは違う」と感じることもあったと思いますが、明確な正解がない中で最善の形を探していった結果が製品版に表れています。僕自身はクリエイティブの中身に口を出すというより、方向性を見失わないようにすることを意識していましたので、彼女たちが道を間違えないためのサポートはできました。

――衝突も多かったということですが、開発期間を通じてチームとして一番成長したことや学んだことは何だったと思いますか?

Achabox:星士さんとameさんの2人がシナリオを執筆していますが、それぞれ魅力が異なるんです。ameさんは細かい感情の機微を丁寧に描くのが得意で、キャラクターの背景や感情を踏まえた言葉を繊細に積み上げていくタイプなんです。一方で星士さんはダイナミックで、シーンのインパクトを生み出すのが上手なんです。

強みが異なるからこそ刺激し合っていたと思いますし、互いの良さを取り入れながら成長した結果、シナリオもブラッシュアップされていきました。特にアルファ版からベータ版にかけて、クオリティが大きく向上した実感がありますし、迷走期間も含めて2人の成長の幅には目を見張るものがありました。

――迷走を経てチームとして成長できたと。

入交:本作の開発はちょうどコロナ禍の中で始まったんです。それから5年経って周りを見ると、色んなゲームが世に出たり出せなかったりして、ゲーム制作を取り巻く環境自体も大きな変化がありました。だからこそゲーム制作の経験がなかった自分たちが、完成させて取材を受けていること自体が奇跡のような感覚なんです。

林:開発期間はずっと成長の時間だったと思います。正直、最初の企画書や初期に制作したビルドを見返すと、同じメンバーが作ったとは思えないほど変化していて、ゲーム全体の見せ方や完成度が別物なんです。3人とも持っている素質は高いですが、アーティストは「何を表現したいか」だけではなく、「どう表現するのか」を模索し続けていかなければならないと考えています。

インディークリエイターは制作途中で挫折してしまう人も多いですし、作品は最後まで完成させて人に届けないと意味がないので、集中して制作に向き合える環境があったこと自体がチャンスだったと思います。

Achabox:本当にそう思いますね。私自身、以前room6で開発に携わっていた経験はありますが、長いキャリアだったわけではありません。あとameさんは、もともと缶バッジ会社の副社長をされていたのに、飛び込む形でエンジニアとして参加してくれたんです。

ame:開発期間にプログラムの全てを学んだので、たしかに大成長と言えるかもしれません(笑)。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――え? エンジニア未経験にも関わらず、エンジニア募集に応募されたのですか!?

ame:一応3ヶ月ほどは勉強していました。個人的にゲームに関わりたいと考えて、勉強をはじめたタイミングの募集だったので、本当に良いタイミングでしたね。

林:脱サラエンジニアですよね(笑)。当然技術力だけを見ればameさんより高い方もいましたが、ベテランが入った場合エンジニアの意見が強くなりすぎてチームの力関係が変わっていたと思います。そういった意味でAchaboxさんや星士さんと一番バランスが良かったのがameさんでした。

――たしかにエンジニアがベテランすぎると、遠慮してしまうかもしれませんね。

林:あとインタビューに書いてほしいのですが、デバッグ期間に出たバグの数が想定の3分の1ほどでした(笑)。ameさんの経験が浅かったこともあり、大変なことになりそうと踏んでいた自分としては驚きでしたが、これも“成長”と言えると思います。

ame:デバッグがはじまって1週間経ったのに、3件しかバグが挙がらないのは逆に怖かったですね(笑)。

コロナ禍きっかけの作品がユーザーに伝えたいこと

――ちなみに英語圏や中国語圏向けのローカライズに関する裏話はありますか?

林:ローカライズは翻訳会社さんにお願いしましたが、社内にもローカライズリーダーを立てて、翻訳マネジメントを長く担当されていた方に、言語全体のクオリティコントロールを担っていただきました。さらに集英社ゲームズには英語や中国語がネイティブのメンバーが多数在籍しており、「言い回しが子どもみたい」「この表現は最近使わない」といった点までチェックしました。

本作はポエムのような文章表現も多く、直訳してしまうと魅力が薄れてしまうので、海外の方にも感情が動く形で届けられるかはこだわりました。何度もチェックを重ねましたし、ネイティブの方が読んでも違和感のない翻訳にできたと思います。

入交:ある程度英語が読めるので僕自身もLQA(Linguistic Quality Assurance:言語品質保証)感覚で翻訳に関わっており、ローカライズ担当の方と一緒に手帳のレイアウトなどを調整しました。集英社ゲームズの組織力や仕組みがきちんとしていたからこそ、翻訳者さんやQA会社を通すだけではなく、いざというときは社内で判断して動ける体制があったのは強みだと思います。

――なるほど。集英社ゲームズもローカライズに関わっていたのですね。

ame:そもそも手帳は省略して記すものなので、ローカライズは難しかったですね。あと物語の展開次第では隠しておかなければいけない情報もありますが、主語を明示したことで情報量が増えすぎたり、時制が不自然になったりと課題がたくさんありました。

あとローカライズに関しては、「もしもし」は中国語だと「喂(ウェイ)」にあたりますが、喂の後ろに疑問符が付くかどうかで、ニュアンスが変わるという話が印象に残っています。疑問符が付いていると「誰かわからない相手に呼びかける」イメージで、逆に付いていないと相手を把握済みのニュアンスになると。本作は相手が誰かわからない状態から会話が始まり、少しずつ相手を理解していく流れが多いので、喂は基本的に疑問符ありの形に統一しました。

――それは面白いですね! また本作は体験版を配信されていますが、印象的だった声や意外な反応はありましたか。

入交:ゲームの将来が見えたのが第1章だったので、体験版を公開して方向性が間違っていないことをユーザーの反応を通して確認できました。ただ体験版範囲は第1章だけで、作品全体としては少しずつ雰囲気が変わっていくんですよね。もともと描きたかったのはラストに近い部分に描かれており、そのためにストーリーを用意しているんです。だからこそ最後までプレイしていただいたときに、どのように受け止めてもらえるかは不安ですね。

林:第1章の体験を最後まで繰り返しても、同じような印象になって飽きてしまうと思います。そのため第1章が形になった段階から、章ごとの空気感や味わいの違い、ストーリーの緩急も含めて、全体のバランスを考えながら制作しました。

体験版についてはSteam Nextフェスに合わせて公開しましたが、「圧倒的に好評」の評価もいただけて、大きな手応えを感じられました。僕らとしては、日本国内だけでなく海外でどのような反応があるのかも注目していましたが、中国や英語圏以外にロシアやイタリアなどのユーザーにも好意的に受け止めてもらえたようで嬉しかったですね。本作はどこの国のゲームか分からないような独特の雰囲気があるので、国籍に関係なく楽しんでほしいです。

ame:チェコ語のレビューがあったのには驚きましたね。あとはタイ語で同時翻訳しながら、プレイしてくださった実況者さんが印象に残っています。

――アクロバティックチリメンジャコの3人が影響を受けた作品や、クリエイターを教えてください。

Achabox:「サイレントヒル」と「OMORI」は、結果的に影響を受けたと言えるかもしれません。企画時点で意識していた訳ではありませんが、「サイレントヒル」のようにメアリの深層心理や心の闇に近づいていくシークエンスも用意しており、具体的なテキストと言うより手帳やメモからプレイヤーが想像する形になっています。「OMORI」に関してはもともと私は手描きのコラージュやサイケデリックな絵を描くのが好きで、アニメーション表現としても影響を受けました。

ame:文字表現に関しては、単にテキストを表示させるだけではなく「文字をどのように表現するか」「どう見せれば飽きないか」を突き詰めた、KAMITSUBAKI STUDIOさんのライブに影響を受けています。ただ「シュレディンガーズ・コール」はゲームなので、プレイアブルを前提にしたテンポ感を壊さないようにしながら、取り入れられる点は組み込みました。

シナリオ執筆にはキャラクターに憑依しながら、同時に少し引いた視点で俯瞰する感覚にTRPG経験が活きていますし、ドストエフスキーの「白痴」は昔から大好きだと言い続けています。

入交:影響を受けた作品はたくさんありますが、ゲーム以外ではヨーロッパの音楽からの影響が大きく、ロックやメタルで印象に残っているのも多いです。たとえば「シュレディンガーズ・コール」における炎が燃えているシーンは、ピンク・フロイドの「炎〜あなたがここにいてほしい」のジャケットをイメージしています。

ゲームの原体験だと、PC-9801時代の日本ファルコム作品の影響は大きく、子どもの頃から「自分もこんなゲームを作りたい」と思い続けていました。実は本作のオープニングは「イースI」をリスペクトしていて、コード進行も意識的に寄せているんですよ。

「シュレディンガーズ・コール」インタビュー:コロナ禍から生まれた“電話で魂を救う”ADVゲームの制作舞台裏の画像

――最後に、本作を通じてプレイヤーの皆さんに伝えたいメッセージをお願いします。

林:「シュレディンガーズ・コール」は、クリエイターの作家性を形にできたタイトルになったと思っています。だからこそリリース時の盛り上がりだけではなく、集英社ゲームズとして長く世界に届けていきたいですね。あとはプレイヤーと一緒にコンテンツを楽しみたいので、SNSなどで感想を書いていただけたら、僕たちも反応しますし作品について交流していきたいです。

入交:コロナ禍がきっかけで生まれた作品ですが、あの出来事は世界中で同時に起きた共通の体験で、感じた気持ちは国や地域が違っても根本では共通していると感じています。だからこそゲームを通して、あのとき抱えていた感情をもう一度共有して、振り返るきっかけになれば嬉しいです。

ame:ストーリー中心の作品なので、伝えたいことはキャラクターたちが教えてくれると思います。ただ、あえてメッセージを伝えるとすれば、キャラクターたちの言葉と、プレイしているときの自分自身の気持ち、その両方に耳を傾けてほしいですね。

Achabox:コンセプトのきっかけは電話を通して人に寄り添うことで、私自身も通話という形で誰かに支えてもらったり、逆に支えたりした経験から生まれた作品です。だからこそ「誰かの最後の話し相手に、誰でもなれる」というメッセージを、作品を通して伝えていきたいです。

――たしかにクリアしたら、誰かに電話したくなりました。

入交:おお! 実は最初の面接からAchaboxさんは、「ゲームを遊び終わったあとに、誰かに声をかけたくなるゲームを作りたい」と繰り返し話していたんですよ。

Achabox:私の思いがゲームを通して伝わっていたなら嬉しいです。「誰かに話を聞いてほしい」という気持ちは、誰しも少なからず抱えていますし、そうした感情に届くゲームを作りたいと考えています。人に寄り添うつもりでいたのに、気づいたら自分自身も救われていたかのような感覚も含めて、体験していただけたらと思います。

――ありがとうございました。

※画面は開発中のものです。

本コンテンツは、掲載するECサイトやメーカー等から収益を得ている場合があります。

コメントを投稿する

この記事に関する意見や疑問などコメントを投稿してください。コメントポリシー

関連タグ

シュレディンガーズ・コール 関連ニュース

関連ニュースをもっと見る

注目ゲーム記事

ニュースをもっと見る

ゲームニュースランキング