GSC Game Worldより2024年11月21日に配信予定のXbox Series X|S/PC用ソフト「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」のレビューをお届けする。

目次
  1. 複数の脅威が支配する常識が通用しない世界「ゾーン」
  2. Unreal Engine 5.1を使った表現力に圧倒される
  3. 予期せぬ展開が織りなす自由な物語
  4. シビアな戦闘とサバイバル
  5. このゾーンという世界で暮らすことを楽しんで欲しい!

ウクライナのGSC Game Worldが開発する「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」は、チョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故後の立入禁止区域“ゾーン”を舞台とするサバイバルホラーFPSだ。2006年の謎の爆発以降、超常現象と変異生物が蔓延するこの地で、プレイヤーは“ストーカー”として生き抜くことが求められる。

「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」レビュー:禁断の世界“ゾーン”がプレイヤーを誘うの画像

複数の脅威が支配する常識が通用しない世界「ゾーン」

S.T.A.L.K.E.R.シリーズの最大の魅力は、「ゾーン」という特異な世界そのものにある。このゾーンは、放射能汚染地帯とアノマリーと呼ばれる超常現象が混在する、我々の常識が通用しない場所である。

ゾーンの脅威は大きく3つに分類される。第一に、目に見えない放射能や不可解なアノマリーといった環境の脅威だ。アノマリーは地面から突如として火を噴き出したり、空間に電気が舞ったりと、現代科学では説明のつかない現象として、ゾーンのいたるところに存在している。

第二の脅威は、放射能の影響で変異したミュータントたちである。かつての野犬は凶暴な猟犬と化し、群れで襲いかかってくる。その他にも、ゾーンには人知を超えた様々な突然変異生物が徘徊しており、油断は命取りだ。

そして第三に、最も予測不能な脅威が人間である。武装した敵対勢力は、時に交渉の余地すら与えず即座に発砲してくる。運が良ければ対話の機会もあるが、それが撃ち合いに発展することも珍しくない。銃撃戦となれば、一発の被弾が死に直結する緊迫した事態となる。

しかし、このゾーンは単なる危険地帯ではない。ここには独自の秩序と社会が存在している。プレイヤーを支援する友好的な派閥もあれば、取引可能な商人たちもいる。

「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」レビュー:禁断の世界“ゾーン”がプレイヤーを誘うの画像
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敵対勢力との戦いや、ミュータントの脅威に対して、時には協力して立ち向かうこともある。まさにゾーンは、その危険と機会が同居する独自の生態系を持った世界なのである。

プレイヤーは、この複雑な人間関係と未知の危険が渦巻く世界に投げ込まれ、自らの物語を紡いでいくことになる。環境の恐ろしさ、クリーチャーの恐ろしさ、そして人間の恐ろしさ。これらが絡み合って生まれる緊張感こそが、S.T.A.L.K.E.R.シリーズの真髄、そしてゾーンという世界の魅力なのだ。

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Unreal Engine 5.1を使った表現力に圧倒される

本作の没入感を高めている要素は、緻密に作り込まれた様々な要素が集合していることにある。その中核を担っているのが、Unreal Engine 5.1を駆使した圧倒的な描写力だ。

ミュータントの描写を例に取ってみても、その毛並みに至るまで表現された圧倒的な描写力は、プレイヤーの目を釘付けにする。人間のNPCも同様だ。額の傷跡まで見えるほどくっきりと描かれているからこそ、その存在感は圧倒的なものとなる。

環境描写も没入感を高める重要な要素となっている。朽ち果てた民家、ボロボロになった古めかしい機械、荒廃した風景に差し込む太陽光。そしてなによりも、我々の世界では目にすることのできない数々のアノマリーの描写。

地面から火が噴き出していたり、空間に電気が舞っていたりと、現実世界では説明のつかない現象が、この世界では違和感なく存在している。高度なグラフィック表現により、非現実的な現象が、ゾーンという世界においては自然な日常として溶け込んでいるのだ。

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サウンドデザインもまた、没入感を高める重要な要素として機能している。多量の放射線が出ているエリアに近づくと、ガイガーカウンターの「ジリジリ」という音がプレイヤーの不安を煽る。

どこからともなく聞こえてくるクリーチャーの吠え声、建物から漏れ聞こえるNPCたちの会話。本作には基本的にBGMが存在しない。だからこそ、これらの環境音が生々しく響き、緊張感を高めているのだ。

さらに、生物の行動パターンもリアリティを追求している。番犬のような姿に変異したクリーチャーは執拗にプレイヤーに噛みついてくる。敵対的なNPCは、プレイヤーを見失っても諦めることなく周囲を執拗に探索し続ける。こういった生物らしい振る舞いの表現が、プレイヤーの没入感をより一層深めているのである。

グラフィック、サウンド、AI。これらの要素が絶妙なバランスで組み合わさることで、プレイヤーはまるで自分自身がゾーンの中に存在しているかのような錯覚に陥る。それこそが、本作の究極の没入感を生み出しているのだ。

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予期せぬ展開が織りなす自由な物語

本作における際立った特徴の一つが、高い自由度である。多くの場合、クエストには明確な目標が設定されているものの、その達成方法はプレイヤーの裁量に委ねられている。

この自由度を具体的に示す例として、筆者が体験した借金取り立てのクエストを挙げてみよう。あるNPCから借金を取り立てるというサブクエストを受けた。実際に現地に向かうと、「自分の取り分も回収して欲しい。ただし、正面から行くと銃で撃たれる」という情報を得た。

しかし筆者は、目的地に向かう代わりに近くにあった高い塔に登ることにした。これは特に意味があってのことではなく、暗闇で目的地が分からなかったためだ。

だが、塔の上には高倍率スコープ付きのライフルと弾薬が配置されていた。その直後、予期せぬ展開として借金取りのNPCが筆者に襲いかかってきた。塔上から応戦したところ、当初の目的のNPCから「助けてくれてありがとう」と感謝され、借金を回収してクエストは完了となった。ちなみに塔の上にあったライフルと弾薬は、この借金取りに終われているNPCが購入したものだったという。

恐らく正攻法であれば、NPCとの交渉や、場合によっては銃撃戦といった展開になっていたはずだ。だが、想像もしなかった形でクエストを完遂することになった。

「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」レビュー:禁断の世界“ゾーン”がプレイヤーを誘うの画像
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また別のクエストでは、ゲーム内通貨を支払って情報を入手するか、武力で解決するかという選択を迫られた。筆者が選択したのは武力での解決だ。かなりの痛手を負ってしまったが、無事にクエストを進めることができた。

もちろん、ゲームなのでセーブとロードを使えば何度でもやり直すことは可能だ。だが、一つ一つの選択に責任を持ち、その結果を受け入れていくことこそが、本作を真に楽しむコツなのかもしれない。

さらに本作には「A-Life 2.0」と呼ばれる、NPCの自律的な行動を制御するシステムが実装されている。筆者の体験では、ストーリーに決定的な影響を及ぼすような事態には遭遇しなかったものの、開発元によると重要なアイテムを所持していたNPCが何らかの理由で死亡してしまうといった予期せぬ展開も起こり得るという。このような偶発的な出来事もまた、本作の魅力の一つだ。

このように、プレイヤーの意図的な選択と、予期せぬ展開が織りなす物語。それこそが本作の持つ自由度の真髄であり、プレイヤー一人ひとりに固有の体験をもたらすのだ。

シビアな戦闘とサバイバル

本作の戦闘システムは、従来のFPSの形式を踏襲しながらも、独自の緊張感とサバイバル要素を兼ね備えている。武器の選択肢は豊富で、ハンドガン、ショットガン、サブマシンガン、アサルトライフルなど、多岐にわたる銃器を状況に応じて使い分けることができる。

しかし、この世界では武器の維持管理も重要な要素だ。何度も使っていると武器は劣化していき、継続して使用するためにはメンテナンスが必要になる。だが、メンテナンスには相応のコストがかかるため、全ての武器を常にメンテナンスし続けるのは現実的ではない。

そのため、メインとなる武器以外は敵から入手したものを使い捨てる形で運用するのが、現実的な戦略となるだろう。この世界の過酷さは、こういった細部にまで表れているのだ。

ただし、本作における戦闘は、必ずしも全ての敵を倒す必要があるわけではない。時には全力で逃走することが最適な選択となることもある。動物型のミュータントであれば、アノマリーに誘い込んで排除するという戦術も有効だ。もっとも、立ち回りを失敗すると、プレイヤー自身が犠牲になってしまうのが。

戦闘以外にも、サバイバル要素として管理すべき要素は多い。負傷時の回復アイテムや放射線被害の治療薬、空腹を満たすための食料、スタミナ切れに備えたエナジードリンクなど、様々なアイテムの確保が必要となる。

これらのアイテムはNPCから入手できることもあるが、最も効率的なのはNPCたちが設置した隠し場所を探し当てることだ。そこには潤沢な弾薬や回復アイテム、時には高性能な武器まで隠されているが、守備についているNPCと戦闘になる可能性もある。まさにハイリスク・ハイリターンの選択というわけだ。

「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」レビュー:禁断の世界“ゾーン”がプレイヤーを誘うの画像

本作の特徴として、プレイヤーの死亡率の高さも挙げられる。ただし、これは3段階ある難易度設定により大きく変化する。最低難度では戦闘はそれほど難しくなく、世界観の探索に重点を置いたプレイが可能だ。中間難度では適度な緊張感と死の恐怖を味わうことができる。そして最高難度では――その過酷さは筆者が説明するよりも体験してもらった方が早いだろう。

ただ、初代「S.T.A.L.K.E.R. SHADOW OF CHERNOBYL」では高難度すぎる戦闘バランスで多くのプレイヤーの心を折ってきたが、本作では大幅に改善されている。初心者であっても、中間難度から始めても問題はないだろう。ちなみに、難易度はゲームプレイ中でも変更可能だ。そういう意味でも安心して、好みの難度でプレイを開始することをお勧めする。

「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」レビュー:禁断の世界“ゾーン”がプレイヤーを誘うの画像

敵対するNPC、凶暴なクリーチャー、不可解なアノマリー。様々な脅威による死の緊張感が、プレイヤーを画面に釘付けにし、没入感を更に高めていく。それこそが本作の戦闘システムが持つ、独特の魅力なのである。

このゾーンという世界で暮らすことを楽しんで欲しい!

本作の真髄は、我々の常識では計り知れないゾーンという世界を探索し、その中で生きることにある。それは単なるゲームプレイを超えた、独特の体験だ。

この世界には、人々の営みが存在している。集落では酒場に人々が集い、キャンプファイヤーを囲んで噂話に興じる。時にはギターを手に取り、音色を奏でることもできる。こういった日常的な光景が、非日常的な世界の中で不思議な温かみを醸し出しているのだ。

「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」レビュー:禁断の世界“ゾーン”がプレイヤーを誘うの画像
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本作の楽しみ方は実に多彩である。メインストーリーに沿って物語を追いかけるもよし、サブクエストをこなしてじっくりと楽しむもよし、目的もなくマップを探索するだけでも十分な発見がある。開発元によれば、ストーリーには複数の分岐が用意されており、全ての展開を見るためには複数回のプレイが必要になるという。

とはいえ、単にストーリーやサブクエストを消化していくだけでは、本作の真価を十分に味わうことはできないだろう。この世界に魂を沈め、ヒリヒリとした緊張感を味わいながら、未知なる領域を探検する。そこで出会うNPCたちに感情移入し、敵対する勢力への憎しみを募らせる。そういった感情の機微こそが、本作最大の魅力なのだ。

この記事が掲載される頃には、このゾーンへの扉が日本のプレイヤーにも開かれるはずだ。最後に、これから冒険に向かう同志たちへ、この言葉を贈ろう。

「Good hunting, Stalker.」

共にこの過酷な世界で生き、その謎を解き明かそうではないか。

得意分野はビデオゲーム全般だが、メタバースやAI関連の記事も積極的に執筆中。ライター業以外にもVTuberとしての活動や、メタバース内ではラジオパーソナリティや、DJとしての顔もあり、肩書きが混雑してきたのが最近の悩み。

X(旧Twitter):https://twitter.com/denpa_is_crazy
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