世界に追い詰められた少年が辿る「愛」と「赦し」の物語――2D謎解きアドベンチャー「In His Time」プレイレポート

プレイレビュー
0コメント 近藤智

講談社ゲームクリエイターズラボが2023年10月3日にリリースした、PC(Steam)向け2D謎解きアドベンチャーゲーム「In His Time」のプレイレポートをお届けする。

In His Time公式サイト
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世界に追い詰められた少年・オリーが踏み出す物語

本作の主人公は父を亡くし、病に倒れた母と暮らす少年・オリー。そのため学校に通いながら母の代わりに家事をこなさなくてはいけない、いわゆるヤングケアラーにあたる。近隣に気にかけてくれる知り合いはいるものの、オリーは直接的な助けをなかなか求められないようだ。

そのうえ学校ではガキ大将のボビー、その取り巻きのミラとヒューゴにいじめを受け、先生からも理解を得られず頭ごなしに怒られるという非常に理不尽な状況に追い込まれている。母のことは心配しているが、このストレスフルな生活によって関係性もややギクシャクしてしまった。

そんな中ボビーたちに巻き込まれ、不思議な屋敷へ忍び込むことになったオリー。さまざまなギミックに囲まれた屋敷から、いくつかのパーツを盗み出すボビーたち。1人逃げ遅れたオリーは、屋敷の主である時計職人の老人・ジョセフから彼らが持ち去ったパーツを取り戻すよう頼まれる。その過程でオリーはボビー、ミラ、ヒューゴ、そしてジョセフがどのような過去を抱え、生きてきたのかを垣間見る……というのがストーリーのあらましだ。

家や学校、ジョセフの屋敷などの2Dマップを行き来して住人たちと会話し、出現した謎をすべて解いてストーリーを進めていくのが基本的な流れ。ときにはストーリーの進行に直接関係ないキャラクターと会話をしてみるのも一興だ。ちなみに、キャラクターは非常にシンプルなデザインだが表情の機微は丁寧に描かれていて、明確な言葉ではないが効果音のようなボイスもあるので、プレイすると思った以上に彼らの感情が伝わってくる。

謎解きの場面ではモノを掴む/離す、移動させる、つつく(触れる)といったアクションでギミックを解いていく。何らかの反応がある場所はキラキラと光っているので、手当たり次第に調べていく必要はない。コントローラーでの操作が推奨されているが、そこまで精密なアクション性は要求されないのでPCのキーボードとマウスでも問題なくプレイできる。

先へ進むために、例えばロッカーや机、屋敷内の機械などをオリーが探索/操作するケースもあるが、印象的なのはオリー自身やほかの登場人物の心象風景がそのまま謎解きの舞台となるシチュエーションだ。自身の記憶を辿り、胸の内を明かしていく中で、オリーたちにはその時、世界がどう見えていたのか。ままならない事態を前に、どのような気持ちでいたのか。何が原因で、大切な人達とすれ違っていったのか。謎解きは、彼らの複雑な感情を追体験するために用意されている。

そうした背景もあってか、筆者の感覚ではあるが謎解きの難易度そのものは総じて高くない。法則性を見出すオーソドックスなパズル系や会話(テキスト)の読み解き、入手したアイテムの活用、自分なりにメモを取りながら暗号を解くなどバリエーションこそ非常に豊富だが、どれも解き方自体は迷うことなく直感的に理解できるはずだ。

それは、このゲームの謎解きはプレイヤーを悩ませたり、達成感を味わったりするものではなく、登場人物たちの心に寄り添うためのものだからだろう。謎を解くことが本質ではなく、彼らの悩み、苦しみ、迷い、後悔などがどのように生まれたのかを知ることこそが目的のように思う。

とはいえ例外もあり、本作で「勉強」として登場するパズルは、瞬間的に現れる髪型やメガネ、ヒゲなどのパーツを覚えて正しいイラストを選ぶというシンプルなものだが記憶力や反射神経をかなり試される。ストーリーを進めるうえではそこまで正確さを要求されないが、実績のコンプリートを目指すならクリア後にとことんやり込むのもいいだろう。

大切な相手を失った人々が他者を愛し、赦すということ

本作には神への祈り、教会、聖書の一節などキリスト教を思わせる要素が取り入れられている。特に、本作が強く伝えたがっているように感じられたのは「赦す(ゆるす)」という概念だ。

キリスト教に詳しくない筆者なりの解釈となるが「すでに神が我々を赦してくれているからこそ、我々も互いに赦しあおう」といったような教えだが、これはおそらく「謝ったのなら相手も受け入れるべき」とか「謝ったのだからすべてを水に流そう」とか、そうした押し付るような意味合いではない。「我々はすでに神に愛され、赦されているのに、なぜ他者を赦そうとしないのか」ということを訴えているように思う。

実際、オリーは同級生たちに受けた嫌がらせの数々そのものを全部なかったことにはしていない。だが、それでもジョセフに説かれた「赦し」を自分なりに飲み込み、彼らに歩み寄っている。その結果、彼らの関係性はこれまでとは大きく変化したし、周囲の人たちから向けられていた愛情にも気づくことができた。

そしてオリーと彼らは互いに向き合うことで、かつて経験した大切な人との別れが、決して悲しく不幸な思い出だけではないことを知る。それはこの先、幾度となく訪れる新たな別れの時にも、再び前を向く力になるのだろう。

本作の根幹となる部分は、キリスト教に馴染みのないプレイヤーにはやや難解に思えるかもしれない。筆者もすべてに納得し、理解できたとは言えないが、もしかしたら今後、本作で触れた「赦し」によって自身が救われたり、他者を救うきっかけになったりするのかもしれない。「In His Time」はそんなことも期待させる、優しくて温かい物語だった。

※画面は開発中のものです。

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