ADVが好きなゲームライターが真のADVマニアを目指す連載企画。第4回は「ghostpia」を紹介します。
連載「ADVマニアへの道」はADV好きのライター・カワチが、新旧問わずにさまざまなADV作品を研究していき、そのマニアへの道を目指していく内容。前回から少し間が空いてしまいましたが、今回はNintendo Switch「ghostpia シーズンワン」を取り上げます。
不死身の幽霊たちの町で起こる不思議な物語
「ghostpia」はデジタルノベル制作ユニット“超水道”の制作する新作ノベルで、もともとはスマートフォン版アプリ。エピソード形式による配信が行われていました。Nintendo Switch「ghostpia シーズンワン」はスマートフォン版で好評を博した印象的な演出の持ち味はそのままに、さらに豪華な作りに。HD振動機能などを使った独自演出も加わりました。そのため、スマートフォン版ですでに配信されているエピソードも新たな気持ちで楽しめるようになっています。
レビュー
不死身の住民が集まる町で繰り広げられる騒動
本作の舞台となるのは、不死身の住民が集まる幽霊の町。この町で暮らす異邦人の小夜子が、町の外側からやってきた少女・ヨルと出会うところからストーリーが動き出します。
物語は小夜子とヨルのほか、お姉さんキャラのパシフィカ、ボーイッシュなアーニャのふたりを加えた4人組での行動になります。それぞれ個性的で第一印象からインパクトのある人物ばかりですが、話を進めることで少しずつ本音が明かされたり、内面描写が深く描かれたりするため、感情移入できます。
とはいえ、伏線を回収しないまま、多くの謎を残したままにストーリーが進んでいくのが特徴で、「よく分からないけどおもしろい」という感想を抱くゲーム。ただし、キャラクターたちは地に足が立っており、突拍子のないような行動も彼女たちそれぞれの理念があって、その理念のもとに行われているのが分かるシナリオになっています。
とくに、主人公の小夜子に関しては、普段はボーッとしている一方で、躊躇なく人に暴力を振るったりするので最初は戸惑うと思います。物語を進めることで、彼女なりの他人との距離や偏見、嫌悪感、そして仲間を想う気持ちなどが伝わってきて、どうしようもない世界で精一杯に生きていることが分かってきます。いちどクリアしたあとに、もういちどプレイすることで、かなり印象は変わってくるのではないかと思います。
一方で、「このシーンはなんだったんだ!?」「このギャグがやりたいだけでしょ!」と思えるようなシーンもあり、シリアスとギャグが入り混じったカオスさが魅力です。
多種多様な表現でプレイヤーを楽しませてくれる
「ghostpia」はポピュラーなアドベンチャーゲームとは異なり、選択肢やQTEといったゲーム性を廃した作品。とはいえ、イラストカットをふんだんに用いた描写や印象的な演出に引き込まれるため、ゲームをクリアしたあとの満足感はとても高い! 物語に集中できるという点でいえば、このシステムは最適であると思えます。
演出は1枚絵だけでなく、漫画のようなコマ割りやアニメーションなどもあり、見ていても飽きない作りになっています。
デジタルコミックのようでもありながら、艶のある文章で綴られる地の文も本作の雰囲気作りに一役買っています。ノベルとコミックのいいとこ取りといった作品で、オンリーワンの魅力を持っています。
また、Nintendo Switch版の見どころはスティック操作による巻き戻し機能。本作は従来のアドベンチャーゲームのようにログ画面を呼び込むのではなく、ビデオの巻き戻しのように戻せるので、気分を削がれることなく、ゲームに集中することができます。
全5話収録で、それぞれの話数は2時間ぐらいで読み終わるのもポイント。ドラマのシリーズを観ている感覚で楽しめるのでぜひ遊んでみて欲しいです。
インタビュー
ここからは「ghostpia シーズンワン」を手掛けるクリエイターのインタビューをお届け。超水道の代表で企画とシナリオを手掛けるミタヒツヒトさんとメイングラフィッカーの山本すずめさんにお話をお聞きした。「ghostpia シーズンワン」の制作秘話だけでなく、大学生のころからクリエイター集団として活動していた“超水道”というサークルにも改めてスポットを当て、そのクリエイティブの源流をお聞きしました。
――本日はよろしくお願いします。“超水道”について改めてお聞かせください。高校時代から創作をされているらしいですが、そんなに早い段階からクリエイティブに目覚めた理由をお聞かせください。
ミタヒツヒト:山本すずめくんは大学1年生のときに加入してくれたので、最初から活動しているのはサークルメンバーの斑くんとふたりになります。もともと自分は中学校のときに演劇部で、そこで劇をすることの楽しさを知ったので、その部活動が創作の原点のような気がします。そのときはサークルを作ってなにかを作ろうとまでは思っていませんでしたが、同じ学校の山本すずめくんや班くんとはイラストを描いたりして遊んでいましたね。
――そのころから仲のいい知り合いだったんですね。
ミタヒツヒト:そうです。僕はその後に高校演劇という世界があることを知り、演劇に強い学校を選んで通うことにしました。高校演劇もアツい世界ですが、僕が入った高校の演劇部は引退が早く、高校2年でほぼ引退することになります。
――一般的には役者を目指していくのでしょうか?
ミタヒツヒト:そういう人もちらほらいますね。役者を目指す人は3年生になったあとに別の訓練をはじめたりもします。一方で、もともと週6.5日ぐらい活動する部活なので、そのタイミングで部活を辞めないと大学の受験勉強が間に合わないという側面もあります。
自分は部活を引退したあと、勝手に定年退職後のような気持ちになり、「このあとはどうしようかなー」と思っていたのですが、その頃がちょうど2007年~2008年ぐらいのニコニコ動画の黎明期と重なり、個人で動画を作ったりゲームを作ったりする文化が盛んになってきた時期だったと思うんです。
――自分も同人ゲームを発表しようと思ったんですね。
ミタヒツヒト:はい。当時からノベルゲームも作っていたのですが、これは少人数でも感動的なものが作れるところが、演劇と似てるなと思ったからなんです。
長方形の空間に上手(かみて)と下手(しもて)があって、そこで何かが動き、音楽や演出で場面を盛り上げることができるという総合芸術のフォーマットが演劇とノベルゲームは似ているなと感じ、ノベルゲームを作ってみることにしました。そこで小学校1年のときから仲がいい斑くんを誘ってメイングラフィッカーをお願いすることにしました。彼は高校が美術部で、油絵や陶芸をやっていると聞いていたので、創作の底力があるし、ノベルゲームも好きだと知っていたので誘ってみました。
それが高校2年生の冬の出来事で、受験からなるべく目を背けようと思っていたわけです(笑)。
――演劇やゲームについて、専門学校で学ぶというような考えはありましたか? プロで食べていくという選択もあったような気がします。
ミタヒツヒト:あまりそこに憧れはなかったです。学校の演劇がガチのところだったので、プロの役者を目指される先輩はたくさんいました。指導に来てくださっているOBの方々はお芝居がすごくうまいのですが、芸術1本で食っていくのはとても大変そうで……。それは身に沁みていました。専業にするということを考えすぎると不幸になるというのはなんとなく分かっていたので、あまり考えなかったです。
――今も兼業なのでしょうか?
ミタヒツヒト:はい。自分もすずめくんも兼業で制作しています。
――山本さんはミタさんに誘われてサークルに参加されたとのことですが、創作に惹かれた理由というのは?
山本すずめ:高校時代は3人とも別々の高校だったのですが、僕は高校では美術部と軽音楽部を兼部していました。将来も音楽か美術のどちらかをやりたいと思っていて、美術を選んで美大に行こうと思いました。美大の受験のための予備校に高3の夏ぐらいから通い始めたのですが、現役合格は叶わず、1年間浪人することになりました。その浪人している最中にミタくんから連絡が来ました。
――言い方は悪いかもしれませんが、誘うタイミングとしてはよかったかもしれませんね。
山本すずめ:そうですね。受験で行き詰まっていたところもありましたし。「息抜きにもなるし、ちょうどいいんじゃない」「いつでも辞めれるし」みたいな怪しい感じで勧誘されました(笑)。
――ニコニコ動画みたいな発表しやすい場もあるから、とりあえずやってみようと。
ミタヒツヒト:そうですね。休みの日にサイゼリヤに呼び出して、8時間かけて説得しました。
――軽いノリかと思ったら、そこはめちゃくちゃ情熱があったんですね(笑)。ミタさんとしては山本さんと組んでやりたいという気持ちが強かったのでしょうか?
ミタヒツヒト:そうですね。彼がいてくれたら、すべてが変わると思っていました。今、考えるとまともじゃないですけどね(苦笑)。
山本すずめ:当時はVOCALOIDが盛り上がり始めた時期だったので、ボカロPさんが作るCDジャケットのイラスト制作を相談されました。自分が超水道で物作りをしたのは、その同人CDのジャケットが最初でしたが、そこでチームで創作することの楽しさを覚えましたね。
――最初はCDのジャケットからはじまったんですね。
山本すずめ:そうですね。ただ、当時はいろいろなものをつまみぐいしてさまざまなものに手を出しましたね。
――最初は二次創作から作って、その後にオリジナルのノベルゲームに挑戦してみたくなった感じでしょうか?
山本すずめ:当時の自分は受験のほうを重視してたので、すでにある企画に乗っかるばかりだったのですが、僕としてはオリジナルを作りたいという気持ちは超水道に入ったときからありました。
――超水道というサークル名の由来を教えてください。
ミタヒツヒト:秋葉原のメイン通りのミスドで1日中考えていたのですが、なにも思いつかなかったんですよね。コーヒーが飲み放題だから、ずっと飲んでいたらトイレに行きたくなってきて、帰りに蛇口の水道を眺めながら、「水道かー」と思いながら席に戻りました。そこで水道に超を付けて超水道にしようかとメンバーに提案しました。
――超はどこから出てきたのでしょうか?
ミタヒツヒト:勢いをつけるみたいなイメージです(笑)。
――海外展開でも「超水道」のままなのでしょうか。
ミタヒツヒト:まぁ、英語にすると余計に意味が分からなくなりますからね(笑)。
山本すずめ:いちばん最初のころはスーパーウォーターワークスという表記にしていましたね。
ミタヒツヒト:そうですね。ただ、もともと無意味なのになんでこんな長い表記にしないといけないんだと思い、今はローマ字で「Chosuido」にしています。
――超水道さんはオリジナルゲームをスマートフォンで発表されていましたが、当時はPCのゲームが多いなかスマートフォンにした経緯を教えてください。
ミタヒツヒト:大学の講義で外部講師の方がiPhoneのアプリを個人で作れるようになったことを話していたのがきっかけです。授業が終わった後にiPhoneで動くノベルゲームエンジンがあるのか調べてみたところ、見つかったのでサークルのみんなに作ってみないかと相談してみたんです。なお、僕は当時プログラミングはできなかったのですが、すずめくんがプログラミングも出来る人だったので制作することができました。
山本すずめ:できるというか、頑張った感じですね(笑)。
――エンジンがあるとはいえ、プログラムは大変だったのではないでしょうか?
山本すずめ:小学校ぐらいの時期にHSPというプログラミング言語をちょっとやっていたんです。大したコードが書けていたわけではないですが、中学生ぐらいのときは自分でサイトを作ったりしていたので、なんとかその知識を総動員して頑張って作っていました。最初のiPhoneアプリを作ったときに使ったゲームエンジンが素晴らしくて、iOS用のプロジェクトファイルをコマンドを打つだけで自動で生成してくれたのでかなり助けられました。まだ2011年ぐらいだったので、前例もなくて苦労した記憶はありますね。
――超水道さんは当時、小説なども発売していて精力的に活動されていましたね。
ミタヒツヒト:そうですね。小説をきっかけに自信にもつながりましたし、超水道を知ってもらうこともできたので、ありがたく思っています。
――その後はゲーム制作が中心になっていきましたが、そこはやはり演劇的な表現を生かすためにはゲームがいちばん合っていると思ったからでしょうか?
ミタヒツヒト:そうですね。今はその考えが強くなっていますね。
――ここからは「ghostpia」についてお聞かせください。クラウドファンディングで資金を募った経緯は?
ミタヒツヒト:確かに今まで超水道のアプリはスマホの無料アプリだったので、クラウドファンディングは変化球でした。実施の経緯としては、ちょっと大きな作品を作りたくなったという部分が大きいです。そのためにはパソコンなどの設備も強化したいと思いました。
今までの超水道の作品はずっと無料でやってきていたので、これまでの作品を無料から有料に変えるというのもどうかなと思いました。
そんななか、世の中でクラウドファンディングが流行していることありましたし、クラウドファンディングを事業として新しく始められた会社さんとも繋がることもできたので挑戦してみようと思いました。
――山本さんはいかがですか? 資金を集めて制作するとなるとプレッシャーもまた多くなると思いますが。
山本すずめ:そうですね。その話をしてたのが大学3年から4年ぐらいのときで、卒業後はどうしようという悩みもあるなかでした。すでに「ghostpia」は作り始めていましたが、このまま無料で出し続けられるかどうか考えていました。自分たちが作った作品でお金をもらうっていうことに当時は慣れていなかったですが、作品がどれぐらい求められているものなのか知りたくもありました。
もちろんプレッシャーもありましたが、それよりも、このクラウドファンディングによって、何か見える世界が変わるのかなという期待のほうが大きかったですかね。
――「ghostpia」は企画のスタートから数えると膨大な製作期間になっていますが、これはやりたいことが膨らんできた結果でしょうか?
山本すずめ:当時は大学で学びつつアルバイトでお金を稼ぎながら制作していたので、どうしても時間が足りなかったですね。その分、クラウドファンディングのおかげで、制作に集中できるようになったことは非常に大きいことでした。
――資金の不安もなくなって、制作に集中する時間が増えたと。
山本すずめ:そうですね。ただ、クラウドファンディングで集まったお金ですべてが解決したわけではないですね。作り続けるには資金が必要ですし、現在も兼業で制作しているのは、そういった課題によるところも大きいですね。
――クラウドファンディングは成功したときの資金額が話題になりますが、毎月の人件費や必要な機材のことを考えると足りないですよね。
山本すずめ:そうなんですよね……。支援はとてもありがたいのですが、実際のところそれだけでぜんぶ賄えるかというと、全然そんなことはないですね(苦笑)。
選択肢を入れない理由
――「ghostpia シーズンワン」をラストまでプレイさせていただき、その演劇的な表現に感動しました。シナリオだけではなく、イラストや演出も同時に作るチームワークがないと、こういったものは制作できないだろうなと感動しました。
ミタヒツヒト:ありがとうございます。
――本作の死んでも蘇るキャラクターたちや雪が降る町というシチュエーションは最初から決まっていたのでしょうか?
ミタヒツヒト:雪というモチーフと幽霊というモチーフはそれぞれ別のところから来ています。幽霊という概念は大学時代にあるゲームのディレクションのアルバイトをしたことがあったのですが、かなりキツくて、完全に昼夜逆転してしまったんです。朝の5時ぐらいに寝て、その後に寝過ごして夕方ぐらいに起きると、ずっと夜の状態で、「やばい! 夜から出れない!!」と思ったんですよ。そんな状況が幽霊みたいな暮らしだなと思って、作品のモチーフにしました。
――自分も不規則な生活なので気持ちは分かります。人のいない夜中に散歩をするのが楽しかったりしますね。
ミタヒツヒト:そうですね。ダメな感じと、ちょっといい感じがない交ぜになっていて、すごくいいモチーフになると思いました。
――雪に関してはいかがでしょうか?
ミタヒツヒト:お世話になったゲーム制作者の作った、雪の降る町を舞台にした同人のノベルゲームがすごく心に残ったんです。僕はずっと東京で暮らしていますし、それまで寒いところを舞台にした作品もやったことがなかったので、あまりピンと来ていなかったのですが、自分も雪をテーマに作りたくなりました。そこから、夜の町で雪が降ってて、そこに幽霊が住んでいたらとても面白そうだと思いました。
――山本さんがそのテーマをお聞きしたときの感想はいかがですか?
山本すずめ:当時は僕も彼と同じアルバイトをやっていて、まったく同じような状態だったので、夜というシチュエーションは実感がありました。雪の降る町というシチュエーションも、大学の研修旅行で行った、まだ雪が高く積もっていた5月の青森の景色が目に浮かんだりして。泊まりの研修旅行で、夜に温泉宿の露天風呂から見える雪原が月に照らされ、とても美しく印象的でした。そのため、雪の降るシチュエーションもすごくいいなと。
また、よく覚えているのが、ミタくんが当時いつも同じ夢を見るという話をしていたことです。知らない路線にずっと乗っていて、遠くの町まで行き、気づいたら知らないところに来ているという内容で、それが「ghostpia」の終着駅というモチーフにも繋がっていったそうです。彼が話すアイディアは、非常に魅力的だなと思いました。
――超水道さんの作品はシリアスとギャグの切り替えが激しいというか、曖昧になっているシーンが多いと感じています。これは演劇からの影響が強いものなのでしょうか?
ミタヒツヒト:確かに演劇の影響もあると思います。ただ、基本的なベースになっているのは海外アニメ、いわゆるカートゥーンだと思います。日本のユーモアとは少し違った軽妙なやり取りでシリアスを茶化す感じがすごく面白いと思っているので、そのノリを意識しています。展開のアップダウンが激しいのは、そこに影響を受けている部分が大きいです。
また、笑いながら泣いてもらったり、泣きながら笑ってもらいたいという気持ちもあります。「どっちなのか分からないけど、なんかすごい」という感覚が自分はとても好きなので、ギャグだけ、感動だけというのはあまりやらないです。「整理されていない感じが素敵じゃない?」ということを「ghostpia」ではしばしばやっています。
――死が軽いというのも「ghostpia」の特徴ですね。
ミタヒツヒト:そうですね。バイオレンスについては、多分に海外アニメの影響を受けているかなと思っています。キャラクターの倫理感もちょっとカラッとし感じは海外アニメ調なのかなと思います。
――選択肢やQTEが無いのはカートゥーンのような演出部分に力を入れて制作したいからでしょうか? ヨルがPCをいじるところなどは、シーンひとつに5カットも用意されており、すごく労力がかかっていると感じました。
ミタヒツヒト:細かく見ていただいて、ありがとうございます(笑)。
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