【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯に

中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN
0コメント UCG JAPANのアイコンUCG JAPAN

中国ゲームメディアUCGによる連載企画スタート! 第1回は現在の中国ゲームシーンを象徴するAAAタイトルを紹介する。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

「黒神話:悟空」は、中国のゲームメーカー Game Scienceより2024年8月に発売されたアクションRPGで、いわゆるソウルライクのゲームとして位置づけられる。対応プラットフォームはPC(Steamなど)、PS5、Xbox Series X/S版。

本作は私たちがこれまでに見てきた中でも、最も“クレイジー”な作品のひとつだ。開発チームにとっては大規模・高品質な買い切り型シングルプレイ作品としての初挑戦であり、同時に中国ゲーム史においても最も注目を集めたタイトルの一つでもある。そんな「黒神話」が選んだのは、極めてリスクの高いアプローチだった。すなわち、ゲーム開発の経験がまだ十分とは言えず、開発期間も決して長くないという前提のもとで、自らの限界に挑み、その可能性を極限まで押し広げるという選択である。

広大なマップは、もはやゲームと現実の境界が曖昧になるほどで、登場する大小の妖怪の数はまるで「西遊記」のテーマパークのよう。各種の背景設定は、そのまま一冊の小説にできそうなほど濃密で、アクション面でも「やりたいことは全部やる」と言わんばかりの大胆さが際立っている。美術や音楽に至っては、限界までリソースを注ぎ込んでいる印象だ。さらに、賛否が分かれやすいストーリー面においても一切の保守性はなく、語り口や展開の両面で果敢な挑戦が見られる。ゲーム内容から自己表現に至るまで、あらゆる要素を詰め込んだうえで、それを実際に形にしている点は驚異的であり、まるで初心者ドライバーがいきなり時速180キロでドリフトを決めるかのような勢いすら感じさせる。

こうした作り方は、必然的に二つの結果をもたらす。一つは、多くのプレイヤーの予想を大きく上回る驚きと満足感である。もう一つは、経験や開発期間の制約により、細部の作り込みに甘さが残り、さまざまな問題が生じてしまう点だ。要するに、長所も非常に多いが、同時に短所も少なくない作品なのである。

例えば、「黒神話」をクリアしたプレイヤーに長所だけを語らせれば一日中でも話し続けられるだろう。だが同じ人物に短所だけを語らせたとしても、おそらく同じように一日中語れるはずだ。ではその人は、この作品を絶賛する“信者”なのか、それとも酷評する側なのか。答えはどちらでもない。ごく普通のプレイヤーだ。そして、その人が「黒神話」を好きかどうかもまた、一概には言えない。結局のところ、ゲーム体験は主観的なものであり、正解は存在しないのだ。

「黒神話:悟空」の総合的な出来は、現在の評価や実績に十分見合うものであった。手前みそながら、UCGが毎年発表しているゲーム賞「UCG GAME AWARDS 2024」にてゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞している。全力を尽くして作られた本作は、いくつかの欠点を抱えつつも、それを補って余りある魅力を備えている。以下では、私たち自身の体験に基づき、その印象を共有していく。

手応えと癖のある戦闘システム

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

「黒神話:悟空」の戦闘体験は、プレイヤーごとのプレイスタイルや求めるものによって大きく印象が変わる。戦闘システムには多くのアクションRPGの要素と楽しさが詰め込まれている。敵の種類や行動パターンは非常に豊富で、遊びごたえ・難易度・派手な演出を兼ね備えている一方で、開発経験や調整不足に起因するストレスフルな場面も少なくない。

本題に入る前に、まず触れておきたい点がある。多くのプレイヤーが序盤で感じるのが、主人公の操作感にどこか“引っかかり”があることだ。動きにわずかな重さや粘りがあり、イメージするような軽快な“猿らしさ”とはやや異なる。これはモーションの一連の流れを重視しているためだが、アクションゲームとしては本来キャンセル可能であるべき前後の動作がそのまま残っているケースもある。たとえば初期状態での回復(酒を飲む)動作で、ボタン入力から実際に回復が発生するまでに「手を後ろに回す→瓢箪を取り出す→口元に運ぶ」といった一連の動作をすべて完了する必要がある。このため、慣れないうちは回復が発動していないと錯覚し、戦闘のリズムを崩しやすい(新たな瓢箪を入手後は改善可能になる)。

こうした“もっさり感”は本作のアクション全体に見られる特徴で、もしこれに適応できない場合、戦闘はかなりストレスフルに感じられるだろう。この操作感にある程度慣れること、奥深い戦闘システムを本当の意味で楽しめるようになる。

基本となる棍のアクション自体は派生が少なく、戦闘の核となるのは「棍勢」の蓄積と消費だ。このリソースを活用して強力な重撃を叩き込むのが基本となる。三種類の棍法はそれぞれ戦闘スタイルが大きく異なり、アクション面での差別化もはっきりしている。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

また、術や回避に加えて、「切り替え技」が対処の幅をさらに広げている。たとえば、劈棍はガードポイントを利用してダメージを無効化し、戳棍は敵の攻撃を避けつつ、リーチを活かして反撃することができる。

こうした“受け”と“攻め”を一体化させた設計により、駆け引きはより緊張感のあるものとなり、成功時の爽快感も非常に高い。見た目の派手さやスタイリッシュさを重視するプレイヤーにとっては強い魅力となる一方、難易度やリスクも跳ね上がる。

「切り替え技」は通常攻撃の後にしか発動できず、前の動作が終わるのを待つ必要がある。入力タイミングはシビアで、先読みも求められる。さらに敵の攻撃は非常に素早く、戳棍は距離を活かして安全を確保しやすいが、劈棍のガードはダメージを無くせるが、相手の連続攻撃を中断できるわけではない。そのため、追撃を行うかどうか、どのタイミングで「切り替え技」を挟むかなどはパターン理解(いわゆる“覚えゲー”)が前提となる。効率や実用性の観点で見ると、習得難度が高く、リスクも大きく、使用機会も限られる割にリターンは見合っているとは言い難い(ただし非常に格好いい)。一方で、長槍系の武器は「切り替え技」の連携がスムーズで、実用性は大きく向上している。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

敵への対処という観点でより分かりやすく有効なのは、むしろ“攻め続ける”立ち回りだ。攻めるべき時に攻める、いわば“圧”をかける戦い方である。本作では敵の体勢崩しが蓄積式ではなく、条件を満たした強攻撃でひるみを取れるため、積極的に行動を潰すことで被ダメージを抑えやすい。個人的には三段回避の設計が非常に優れていると感じており、スキルを習得すれば通常攻撃の連携を途切れさせずに回避を挟める。相手の攻勢の合間に差し込んだり、位置調整を行って攻撃を確実に当てたりと、結果的にこちらが主導権を握る展開に持ち込みやすい。

さらに、本作にはこの“圧”をかける戦い方と非常に相性の良い設計がある。それが、スキルの振り直しが無制限かつノーコストで行える点だ。これにより、敵ごとにスキル構成を最適化することが可能となり、攻略の効率を大きく高めることができる。

多彩な成長とビルドの自由度

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

続いて、本作のRPG要素について触れていきたい。プレイヤーの成長システムは非常に多彩で、探索や収集、ボス戦、サブクエストなど、あらゆる行動がしっかりとキャラクターの強化につながる設計になっている。成長は常に実感できるが、直線的ではなく、プレイ次第で大きく幅が広がるのが特徴だ。

新たなスキルや装備、アイテムを獲得するたびに、プレイスタイルはさらに拡張され、多様なビルドが成立していく。たとえば、拘束技を軸にした棍術や、隠身からの溜め攻撃、極端な火力特化など、研究と調整を重ねるほど戦闘はどんどん爽快になっていく。周回プレイでは装備効果もさらに充実し、悟空に近づいていく実感がより強まるだろう。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

また、「化身技」や「妖怪技」も戦闘体験を大きく広げる要素だ。特に妖怪技はコンボ中に組み込むことができ、攻撃のテンポを崩さずに追加効果を発揮しつつ、スタミナ回復まで兼ねるなど実用性が高い。

変身システムも非常にユニークで、それぞれに独立したモーションと専用のゲーム性が用意されている。単なるギミックにとどまらず、実用性と遊び心、さらには物語的な意味合いも備えている点が魅力的だ。たとえば石頭の巨人になる変身は、動きは鈍重で見た目もコミカルだが、特定の場面では大きな効果を発揮する。また、自分が倒したボスに変身できるというだけでも、純粋に“格好いい”体験だと言える。

作り込みと粗さがぶつかるボス戦

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

ボスに関しては、その数の多さにまず圧倒される。技やモーションのバリエーションも非常に豊かで、想像力に満ちている。まるで「西遊記」テーマパークのように、見覚えのある妖怪から未知の存在まで、大小さまざまな敵が次々と登場し、プレイヤーの前に立ちはだかる。その過程は、まさにかつての悟空の旅路をなぞるかのようでもある。

ボス戦には、爽快感のある攻防や緊張感あふれる駆け引き、さらには迫力ある演出も数多く盛り込まれている。あるボスは難易度自体は高くないものの、巧みなモーション設計と特殊演出によって「技の応酬」の気持ちよさを強く印象づけ、キャラクター性の表現にも成功している。中には予想外の動きを見せる攻撃もあり、たとえ被弾しても思わず唸るほどの楽しさがある。また別のボスでは、戦闘と物語演出が高度に融合しており、「戦って楽しい」だけでなく「見て楽しい」体験を提供してくれる。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

名匠として登場する寅虎は、初見では理不尽に感じられるほどの難しさを誇るが、動きを理解していくことで、まるで刃の上で舞うような緊張と快感を味わえるようになる。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

また、複数ボス戦の設計も秀逸だ。単純に敵を増やすのではなく、「どちらが牽制役か」「どちらが主攻か」「いつ役割が入れ替わるか」といった攻撃リズムが丁寧に設計されている。常に“多対一”のプレッシャーを感じさせながらも、敵の行動は秩序立っており、掛け合いや演出も含めて非常に完成度が高い。

もちろん、すべてが完璧というわけではない。多くのボスには“理不尽技”も存在し、予備動作のない投げ技や、タイミングの読みづらい攻撃、異常に長い連続攻撃など、時にプレイヤーのストレスとなる要素も見受けられる。一部では入力を読んでいるように感じられる挙動もある。ただし、全体的にAIは素直でパターンを把握しやすく、無制限のスキル振り直しと組み合わせることで対策は立てやすい。攻略法さえ見つかれば、これらのボス戦は再び“格好よくて爽快”な体験へと変わる。

一方で、冒頭でも触れたように、「すべてを詰め込む」方針はどうしても調整不足を招く。特に膨大な数のボスにおいてその影響は顕著で、単調なギミック主体の敵や、戦っても印象に残りにくい敵も少なくない。逆に、簡単すぎることで、せっかくの豊富な設計が活かしきれていないケースもある

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

そして最も大きな問題のひとつが、カメラ視点の扱いだ。リリース当初、「3D酔いする」という声が上がった要因の一つでもある。動き回る敵はロックオンしないと攻撃が当てにくく、ロックオンすると今度はカメラが激しく引き回される。しかも追従がわずかに遅れるため、画面は大きく揺れるのに敵自体は見えない、という状況すら発生する。

たとえば亢金龍のような典型例に加え、序盤の黒風大王も同様に激しい移動を繰り返し、ロックオン視点が大きく揺さぶられる。短い間隔で連続して戦うことになるため、長時間のVRプレイにも耐えるようなプレイヤーでも、さすがに酔いを感じるレベルだった。

さらに、主人公の攻撃が直感に反して空振りすることも多く、特に方向補正の挙動が微妙だ。隠身からの一撃や、劈棍の重撃などは、見た目通りに当たらないケースもあり、距離感の把握が重要になる。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

加えて、大型ボスの当たり判定も非常にシビアで、細かく作られすぎているがゆえに逆に当てづらい場面がある。長い脚を持つ敵などは特に顕著で、攻撃が上半身にしか当たらず、足元では空振りが頻発するうえ、見えない当たり判定に引っかかることすらある。

もちろん、カメラの遮蔽や壁際での挙動といった問題は、アクションゲーム全般に共通する課題でもある。海外の大作ですら完全には解決できていない問題だ。しかし、「黒神話」はボスの数と密度が非常に高いため、その影響がより強く体感されてしまう。理解はできる。それでも、思わずイライラしてしまう場面があるのもまた事実だ。

豊富な隠し要素とその代償

戦闘について語ったところで、次はステージデザインに触れていこう。まず美術面に関して言えば、まさに圧巻の一言に尽きる。制作チームのディテールへのこだわりは執念に近く、特に序盤の数章における景観は息をのむほど美しい。どこを見ても細部まで作り込まれている。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

山水の豊かな自然風景から、古風で趣のある建築、さらには荘厳で畏敬の念を抱かせる仏像や壁画に至るまで、あらゆる要素が中国文化ならではの魅力を際立たせている。美術や文化に詳しくなくとも、これらの表現は直感的に心を打つ力を持っている。

たとえば、トレーラーの時点でも話題を呼んだ黄風嶺は、陝北の語り芸と組み合わさることで強烈な印象を残す。内容が分からなくても、海外プレイヤーですら思わず「Chinese Rap!」と称賛したくなるほどだ。優れた文化というものは、時間の積み重ねによってこうした普遍的な魅力を獲得するのだろう。

こうした観点から見ると、「黒神話:悟空」は“インタラクティブなサイバー観光シミュレーター”のように楽しむことすらできる作品だ。もっとも、この美しさへの徹底した追求は、プレイ体験に一定の影響も与えている。

まず、探索可能なエリアの多くが非常に広大で、分岐も多い。リアリティは増しているものの、その分だけ移動にかかる時間と労力も大きくなっている。分かれ道に差し掛かると、どちらを選んでも数分単位で走り続けることになりがちだ。さらに、リアル志向の結果としてランドマークが不足しており、進んでいるうちに方向感覚を失いやすい。そこにカメラの問題が重なると、気づけば自分の位置すら分からなくなってしまう。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

隠し要素にもこの設計は影響している。通れる場所と通れない場所の区別が曖昧で、見た目はどこもリアルなため、「行けそうで行けない」「行けなさそうで行ける」といった判断が難しい。結果として、一つひとつ試していくしかなくなる。

さらに厄介なのが、似たような地形における仕様の違いだ。見た目がほぼ同じ崖でも、ある場所には見えない壁があり進めず、別の場所ではそのまま降りられる。しかも降りた先が隠しエリアなのか、それとも即死なのかは実際に試すまで分からない。取りこぼしを防ぐためには、結局マップの隅々まで探索する必要があり、広大なマップと相まって負担は大きい。これだけの規模で隠し要素を配置している以上、簡易マップのような補助があってもよかったかもしれない。

もっとも、探索の見返り自体は非常に充実している。隠し敵との遭遇や、瓢箪や酒の入手、スキルポイントやステータス強化など、いずれもRPG的成長にしっかりと還元される設計だ。

各章ごとにエリアの方向性も異なり、一本道に近い構成のものもあれば、箱庭型で自由度の高いエリア、さらには広大なオープンフィールド風の構成も存在する。ただし全体としてはやや経験不足を感じさせる部分もあり、プレイ感は両極端になりがちだ。ひたすら敵を倒してアイテムを探す展開もあれば、逆に強い“意図的な仕掛け”を感じさせるエリアもある。

たとえば、一部のエリアでは限られた空間に多数の敵が配置されており、空中・地上を問わず敵が入り乱れることで、状況把握が困難になることもある。カメラは激しく動き、敵の位置も把握しづらく、プレイヤーが混乱する場面も少なくない。

もちろん、こうした“初見殺し”的な配置にも対処法は用意されており、多くの場合は隠身を活用することで安定して突破できる。ただし、このような攻略前提の設計を受け入れられるかどうかはプレイヤー次第だろう。

一方で、終盤の章に入ると、クオリティの低下も見られる。開発期間の影響か、美術面やゲームプレイの密度が薄くなり、一部のサブ要素も駆け足で締めくくられている印象だ。物語がクライマックスに向かう直前としては、盛り上がりに欠ける部分も否めない。

隠し要素の配置についても特徴的だ。本作ではコンテンツの30%〜40%が隠し要素として用意されており、その多くが重要なストーリーやゲームシステムに関わっている。何も知らずにプレイすると、大半を見逃してしまう可能性すらある。周回プレイでも、思い込みによって取り逃すこともあり得るだろう。

こうした“徹底して隠す”設計も、本作が持つ“挑戦的な姿勢”を象徴する要素のひとつだ。膨大なコストをかけて作り込んだコンテンツを、あえて前面に出さず、発見させる形にしている点は、初のAAA級タイトルとしては非常に大胆である。

総合的に見ると、「黒神話:悟空」のステージデザインには確かにいくつかの課題が存在する。それらは、美術への強いこだわりゆえのものもあれば、経験不足に起因するものもある。もしこれから本作をプレイするのであれば、焦らず、じっくりと進めることをおすすめしたい。多くの問題は、ペースを落として遊ぶことである程度緩和されるはずだ。
そして願わくば、今後の作品でこれらの課題に対する最適な解答が提示されることを期待したい。

挑戦的な語りとその賛否

ここからはネタバレを避けつつ、ストーリーについて触れていこう。冒頭でも述べた通り、近年のゲームにおいて物語は最も賛否が分かれやすい要素の一つだが、「黒神話:悟空」はその点においても攻めた作品といえる。語りの手法も展開も非常に大胆であり、その挑戦は驚きと戸惑いの両方を生んでいる。

まずはポジティブな側面から。本作は非常にユニークなナラティブ手法を採用している。他のゲームがキャラクターの背景資料で断片的なストーリーテリングを行う中、本作はそれを一歩進め、“設定資料の中に物語そのものを書き込む”ようなアプローチを取っている。

特にデータベース「影神図」に収録されたテキストは、量・質ともに圧倒的で、もはや常軌を逸していると言っていい。ゲーム本編から切り離して読んでも、ひとつひとつのエピソードがしっかりと成立しており、完成度も高い。これらは前提知識の補完や設定の掘り下げとして機能するだけでなく、多角的解釈の余地も残している。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

本編の会話だけを追えば「こういう話だ」と思えるが、影神図のテキストを読むと「いや、実はこうなのではないか」と別の解釈が浮かび上がる。真実と虚構が曖昧に交錯し、複数の読み方が成立する構造になっており、読み返すほどに味わいが増していく。

また、ステージやキャラクターデザインの一部も物語表現に寄与している。何気ない装飾や台詞、さらには敵の技の演出など、初見では気づかない要素が、後から振り返ることで意味を持ってくるケースも多い。

一方で、表層的なストーリーテリングも丁寧に作られている。物語を牽引する主要キャラクターたちはいずれも存在感があり、しっかりと血の通った人物として描かれている。たとえば猪八戒のような重要人物から、丹薬商人の戌狗のような脇役に至るまで、ビジュアルや台詞、演出によって強い印象を残している。特に猪八戒は、物語の進行役として機能するだけでなく、主人公を物語に自然に組み込みつつ、悟空という存在を間接的に描き出す役割も果たしている。

さて、ここからはやや気になる点について。本作は語りの手段が非常に多いため、結果としてストーリーが散漫に感じられる部分もある。ゲームプレイと物語の結びつきがやや弱く感じられる場面もあり、構造的な課題が見受けられる。

たとえば影神図は非常に優れた要素ではあるが、「いつ読むべきか」という問題がつきまとう。各章ごとに膨大な量が用意されており、進行中に読むとテンポが途切れ、後でまとめて読むと「このキャラ誰だっけ?」となりがちだ。かといって読まなければ物語理解の大きな部分を取りこぼすことになる。このようなテキスト提示とゲーム進行のバランスは、本来であれば開発側がコントロールすべき領域だろう。

メインストーリーの終盤における“余韻の弱さ”も気になる点だ。重要な対立やテーマが十分に展開されないまま終わってしまう印象があり、物語としての締めくくりにはやや物足りなさが残る。

中には意図的な余白(いわゆるオープンエンド)と捉えられる部分もあるが、プレイヤーの感情をゴールへと導く演出がやや不足しているため、プレイ後の印象は「余韻」よりも「戸惑い」に近い。「これは本当にエンディングなのか?まだ何か隠されているのでは?」と感じるプレイヤーも少なくないだろう。

さらに、本作は「西遊記」という既存作品をベースにしたアレンジでもあるため、原作解釈の受け止め方によって評価が大きく分かれる。こうした点も含めて、「黒神話:悟空」のストーリーに関する議論は、今後もしばらく続いていく可能性が高い。

“山を動かした”その意味

「黒神話:悟空」は、間違いなく非常に特別な作品である。数多くの長所と、決して少なくはない短所を併せ持ち、そのどれか一つを取り上げただけでも、賛否両論が何日も続くような議論が成立してしまう。それ自体が、本作の成功を何よりも雄弁に物語っている。これほど多くの人が真剣に向き合い、語りたくなる――それこそが最大の評価と言えるだろう。

私たちは「黒神話」を総じて、高く評価できる優れた作品だと考えている。その内側からは、「若さゆえの恐れを知らない挑戦心」とでも言うべきエネルギーが溢れている。もし時間を巻き戻し、発売前の体験会にいた自分たちに、「完成版はこの規模になる」と伝えても信じなかっただろう。

UCGは創刊からすでに28年以上にわたり、多くの優れた作品と、その背後にいる優れたクリエイターたちと出会ってきた。その中で見えてきた共通点がある。自分たちの道を切り開こうとする創作者に必要なのは、単なる「継続」だけではない。重圧に耐える強さ、時間と戦い続ける粘り、周囲の嘲笑を恐れないある種の“愚直さ”、そして自らの力で山をも動かそうとするほどの“狂気”が必要なのだ。

そして今、私たちの目の前にあるのは、まさにそうした“狂気”を持った創作者たちが、地に足をつけて作り上げた作品である。開発元であるGame Scienceにとって初となる大規模・高品質な買い切り型タイトル「黒神話:悟空」は確かに完璧ではない。だが、「山を動かす」ような試みに、最初から完璧を求める必要があるだろうか。

その“山を動かした”という事実そのものが、驚くべきスピードで中国ゲーム産業の新たな可能性を切り拓いた。そしてそれは、私たちを含む多くのプレイヤーや開発者に大きな刺激を与え、「中国ゲーム」に対する希望の火に、力強い燃料を投じた。

Game Scienceは「黒神話」シリーズの第2作として「黒神話:鍾馗」の制作を発表。新作は中国古代の神魔伝説を題材にしたアクションRPGとのことだ。

希望の火を灯し続ける道のりには、これからも困難が待ち受けているだろう。それでも私たちは確信している。山の向こうから差し込む光は、熱を帯びて私たちを照らしているのだから。

【中国ゲーム文化を読む by UCG JAPAN】第1回:中国ゲームメーカーの初AAAタイトル!「黒神話:悟空」に宿る“狂気” が新たな時代の灯にの画像

UCG Mediaは、創刊28年を迎える中国のゲームメディアです。ゲーム雑誌「ゲーム機実用技術」の出版をはじめ、WEBやオフラインイベントなど多様なプロモーションチャネルでゲーム情報を発信しています。この連載では、日本の皆さんに現在の中国におけるゲーム文化をお伝ええしていきます。 日本での活動拠点UCG JAPANとして、中国のゲーム最新情報を届ける「みーしゃゲームズ」をX・TikTokで運用中。ぜひフォロ―してね☆

Xみーしゃ:https://x.com/miishyagames
TikTokみーしゃ:https://www.tiktok.com/@miishyagames

本コンテンツは、掲載するECサイトやメーカー等から収益を得ている場合があります。

コメントを投稿する

この記事に関する意見や疑問などコメントを投稿してください。コメントポリシー

関連タグ

注目ゲーム記事

ニュースをもっと見る

ゲームニュースランキング

2026-04-10 18:56:09