クラウディッドレパードエンタテインメントがNintendo Switch版を2025年6月19日、ドリコムがSteam版を2025年7月31日に発売する「はらぺこミーム」。開発陣へのインタビューをお届けする。

目次
  1. 西健一氏のキャラクターを育成するゲームを作りたいというアイデアがすべての始まりに
  2. 「はらぺこミーム」なのに「はらぺこ」感がなかった!?
  3. 生成AIではなく王道のニューラルネットワークのAIを採用
  4. 序盤の混乱はニューラルネットワークならではの過程
  5. クリエイター陣がほとんど話し合わずに完成したOP絵本
  6. 最初は三日月が満月になっていくゲームだった
はらぺこなAIキャラたちによるカオスな世界!「moon」や「がんばれ森川君2号」のレジェンドクリエイターたちが集結したコロニーSLG「はらぺこミーム」開発陣インタビューの画像

コロニーシミュレーションゲームとしてリリースされる本作は、ドリコムとE-ONEが共同開発したタイトルだ。「moon」や「ちびロボ!」などで知られる西健一氏が原案を担当。「がんばれ森川君2号」や「アストロノーカ」などを手掛けた森川幸人氏が、世界観アートとAI設計で参加しているという豪華な布陣になっている。

以前Gamerでもレビュー記事をご紹介しているが、そこからもわかるように並あるタイトルの中でもかなり奇抜で尖った作品になっている。そこで、「はらぺこミーム」の開発陣の中から森川幸人氏と、ディレクターとして参加しているドリコムの人見楽氏にインタビューを実施。どのような経緯でこうした作品が生まれることになったかなど、気になる部分をいろいろとお伺いしてきた。

(写真右から)森川幸人氏、人見楽氏
(写真右から)森川幸人氏、人見楽氏

西健一氏のキャラクターを育成するゲームを作りたいというアイデアがすべての始まりに

――最初に気になったのが、ゲーム性や世界観など、すべてぶっ飛びすぎていて、どうやったらこんなゲームが生まれることになったのかということです。本作が誕生するまでの経緯があれば教えていただけますか?

森川氏:「moon」などを作った西健一さんが、キャラクターを育成していくゲームを作りたいという話からはじまりました。そのキャラクターがいきいきと遊び回る世界を作るために、AIを使えますかねという相談をされたんです。

西さんが作られた「はらぺこミーム」の原型のようなゲームを、いろいろなところにプレゼンしに行きました。その結果、ドリコムさんに手を上げてもらい実現しています。Free-to-Play版の途中から、ディレクションが西さんから人見さんに引き継がれています。

人見氏:そもそも森川さんと西さんで温められていた「はらぺこミーム」ですが、最初は売り切りでもFree-to-Playでもない、原型みたいなものでした。弊社は当時、Free-to-Playとしてこの企画を一緒にやらせていただけないかと提案させていただきました。

最初は「Sky 星を紡ぐ子どもたち」などのような世界的なユーザー数を獲得できるゲームを目指していました。しかし、ゲーム作りはなかなか難航して……(笑)。森川さんの「がんばれ森川君2号」みたいなステージをクリアしていくタイプと、「リヴリーアイランド」のホーム画面がくっついているようなゲームとしてスタートしています。

今はオープンワールドっぽいですが、当時はステージ制になっており、村もなかったんです。鍋もなくて、絵本もありませんでした。そのときに、現状のものをFree-to-Playのオリジナルタイトルとして出すのは厳しいという話になりました。

プロジェクトを継続すべきかどうかという判断になったのですが、そのときに企画を練り直してコンソール向けにしたほうがいいのではないかということになったのが「はらぺこミーム」の最初の経緯です。

はらぺこなAIキャラたちによるカオスな世界!「moon」や「がんばれ森川君2号」のレジェンドクリエイターたちが集結したコロニーSLG「はらぺこミーム」開発陣インタビューの画像

――ちなみに、最初はどんなゲームだったのでしょうか?

人見氏:私は最初プロデューサーで入りましたが、森川さん以外はAIゲームを作った経験がありませんでした。正直言って、どうやってゲームデザインに組み込んでいいのかがわからず難航していましたね。「ワンダープロジェクトJ」のような形だともう少し綺麗にまとまったと思いますが、種族があって遺伝があり、それをどうAIと絡めるのかという部分が難しかったですね。

ステージ制でクリアしていくのですが、遺伝の必然性があまり感じられず、「がんばれ森川君2号」の焼き直しにもならないという感じで進んでいました。世界観に関しては、最初から練っていた部分があったので、それを活かして今あるもののなかで最適なゲーム性をもう一度探していこうという感じでした。なので、「がんばれ森川君2号」に「リヴリーアイランド」がくっついた感じというのが、一番正しいイメージだと思います。

森川氏:最初は世界樹しかなかったんだよね。ものすごく太い世界樹が1本だけあって、それが階層になっていて、ひとつの層をクリアすると上に行くことができて、どんどん上に上がっていくという。パズルゲームではないけど、ミッションがあって。

人見氏:そうですね、シミュレーションゲームではなかったですね。ステージクリア型のゲームでした。

――ジャンルでいうと何になりますか?

森川氏:これまで作ってきたゲーム、全部「エトセトラ」だったんですよ。どこのジャンルにも入れてもらえないという(笑)。

人見氏:あえていうなら、AIを使ったパズルアドベンチャーゲームですね。シミュレーションゲームではなかったです。今は、どちらかというとシミュレーションゲームに近い形ですけどね。

はらぺこなAIキャラたちによるカオスな世界!「moon」や「がんばれ森川君2号」のレジェンドクリエイターたちが集結したコロニーSLG「はらぺこミーム」開発陣インタビューの画像

「はらぺこミーム」なのに「はらぺこ」感がなかった!?

――飛び出す絵本のようなアートワークもかなり素晴らしいです。ゲーム内に登場するミームたちもかなり個性的な見た目をしていますが、こちらで特にこだわったという点があれば教えていただけますか?

人見氏:そもそもの経緯からお話すると、GODゲーム(神視点のゲーム)によくある観点として、プレイヤーが誰かわからず、感情移入できないというのがあります。そのプレイヤーの設定で、絵本の読者がバッドエンドを良い方向に進めていくというものと、ミームというキャラクターを作りたいというのがありました。そのためには、生活を作っていく必要があります。そこで世界樹だけではなく、村を作ったという感じですね。

森川氏:なんかね、雪だるま式に仕事が増えたよね(一同大笑)。途中で電車とか出てきたもんね。

――あの村にですか!?

人見氏:ゲームになっているのは、全体の世界の何分の1かです。

――あ、当初構想したものから絞られているんですね。

人見氏:そちらがある前提で、あのゲームの中の世界観を作っています。

森川氏:もう、駅の絵とかも利用されることないもんね。

人見氏:村の部分でいうと最初は鍋もなかったのですが、森川さんや他のスタッフとプロジェクトを見直していたときに、「はらぺこミーム」なのに「はらぺこ」感がなかったことに気が付きました。そこで森川さんに、村全体にはらぺこ感を入れてくださいって提案したんです。私が提案したのは、鍋が真ん中にあってみんなでご飯を作るというものでしたが、森川さんに村のアートを1枚描いてもらいました。はらぺこを中心に行動しているというアートを全部描いてもらい、村はそこから設定していますね。

――はらぺこから広がっていったんですね!

人見氏:まずは、そこをちゃんとしようと。

森川氏:そこだけは、とうとう最後までブレなかったですね。

―人見氏:はらぺこになると、ヤバヤバミームになっちゃいますが、あれは「グレムリン」からきている発想です。

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――あれは時間でおかしくなっちゃうのでしょうか?

人見氏:時間と霧ですね。嫌なことがあるとメンタルが下がっていきます。あと、お腹が空くと毎日下がっていちゃいます。

――ゲーム序盤のはらぺこ感がヤバイですね!

人見氏:やばいですね、あれは。

生成AIではなく王道のニューラルネットワークのAIを採用

――ゲームとAIの組み合わせというのは、最近は欠かせないものになってきています。本作でもAIキャラクターのミームを誘導してアイテムを集めるといった遊びがメインになりますが、このAIのミームたちはどのような思想で開発が行われているのでしょうか?

森川氏:これはガチのニューラルネットワークです。最近はAI=生成AIのようにいわれます。グラフィックができますとか、アイテムやモンスターのデザインができます、キャラクターのメッセージが作れますとか、シナリオの一部が作れますとか。

そういうものとはちょっと違っていて、王道というと差し障りがありますが……(笑)。ベースになるのが、人間の脳を元にしたAIを使っていて、人間らしい行動ができます。最初から何もかもわかっているわけではなくて、いろいろ体験して良かったとかまずかったとか、楽しかったみたいな経験を元に学習を進めていきます。

それを元に、未知のものにたいしても推測していきます。そういうAIのニューラルネットワークの王道の使い方を今回はしています。

――そういえば、初回の冒険だと必ず落ちているものを食べていましたね!

人見氏:そうですね、いろいろ試して学習していきます。ただ、同じミームでも途中経過で行動が変わってしまいます。森川さんはたぶん国内で最もキャラクターAIをやられてきた方だと思いますが、ゲームデザインとしてはプレイヤーが初期にやる経験は固定したいんですよね。

たとえば、2回攻撃しなければ倒せなかった敵が1回で倒せるようになるというように、国内のゲームデザインは組み立てることが多いですが、AIを組み込もうとするとそれができません。ある程度枠組みを決めて、だいたいこういう経験をするだろうみたいな感じでやっているのですが、チェックのために通しプレイをしていたときに、最後に必要なあるスキルをミームがなかなか使ってくれなくて……これをクリアしないと申請ROMが作れないぞというところが辛かったです(笑)。

はらぺこなAIキャラたちによるカオスな世界!「moon」や「がんばれ森川君2号」のレジェンドクリエイターたちが集結したコロニーSLG「はらぺこミーム」開発陣インタビューの画像

――AIごとに性格が異なったりするのでしょうか?

森川氏:ニューラルネットワークは、元々そういう予定調和的なことはできないようになっています。ゲームのように、追加で学習していくということをやると個性が出てしまいます。そうした中には、プレイヤーが矛盾したことを教えてしまったり特定のことばかりを教えてしまったりという場合もあります。勉強ができる子とできない子にわかれるのと、まったく同じことが起きるんです。

――ミームが施設を壊してしまうのは、性格的なものも影響しているのでしょうか?

人見氏:あれはゲーム的に用意したものです。

森川氏:その辺のハイブリッドにするあたりが、人見さんが苦労された部分ですね。

人見氏:そうですね。こんなに大変だとは思わなかった(笑)。

――ミームたちが世代交代でスキルを受け継いでいきますが、AI的に影響を受けている部分はございますか?

人見氏:AIというかスキルで、ミームたちができることの幅が変わってきます。どんなミームも生まれたときは、経験は0です。そこから構築されるニューラルネットワークは、みんな違います。こんなスキルをもってこんな環境に入ったから、こんなことを覚えていくというようにどんどん動いていきます。同じミームを作ったとしても、違う子になっちゃうことがありますね。

――初期に覚えるスキルは限られているので、行動自体も限られている感じがしましたね。

人見氏:先ほど森川さんがしていた子どもの話に似ていて、同じような子どもでもどんな先生についたか、どんな体験をしたのか。それをいいものとするか悪いものとするかでも変わってきます。育成のスピードが違ったり、なぜか落ちているものを拾ってくれなかったりするミームもいます。

最近は親切なゲームが多いので、ユーザーからは生き物らしくてカワイイと感じる面と、サクッと拾ってくれよと思われてしまう両方の面がこのゲームにはあります。

森川氏:キャラクターAIの宿命ですよ。この30年間変わってない。ゲームプランナーの人は、自分が考えた通りに進めたい。AI側の人は、AIのポテンシャルを発揮したい。野生児のように予定調和的にならないのがAI魅力だといって、必ずぶつかる。

――予定調和をぶち壊したいんですね。

人見氏:なので、今は環境で押し込んでいるところがあります。世界樹がいきなり全部広がった状態からスタートだと、たぶんクリアできません。それが少しずつ(探索エリアが)広がっていきます。一応、学ぶことや行動の制約があるので、無限には広がっていかないようになっています。

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序盤の混乱はニューラルネットワークならではの過程

――実はこのゲームを始めてから、一番悩んだポイントがチュートリアルでした。最初は何をしていいのかわからないうちに、ミームたちがヤバヤバミームになって暴れだしてしまったんです。

人見氏:AIゲームのひとつのアプローチとして、クリアすべき課題を作っていきます。自キャラ自体が課題になるのが、ひとつのやりかたです。自キャラをマネージメントしていかなくてはならない。そのアプローチのひとつが、はらぺこです。結構強引にやっていますけどね(笑)。

森川氏:キャラクターデザインは難しかったですね。というのも、今回は最初から集団で出ることがわかっていました。同じモンスターが何匹も出てきます。そうしたときに、例えば「ポケモン」のピカチュウなどキャラ立ちしたものが2匹出てくるとすごく違和感が出てくるじゃないですか。

あまり際だった個性的なデザインにしちゃうと、集団感がなくなってしまうなと思って。でも、味気ないキャラクターをいっぱいつくってもしょうがないしというあたりが、悩みましたね。AIを使ったゲームの中でも、1体のキャラクターに組み込むのではなく、集団の中に組み込んでいるタイトルは、あまり多くありません。そこが難しかったですね。

人見氏:先ほど森川さんからハイブリッドなゲームというお話がありましたが、このゲームはセールスポイントをユーザーに説明するのがすごく難しくて。森川さん的なゲームの雰囲気もあれば、私はシミュレーションゲームを作ることが多いので洋ゲー的なアプローチもあって。そこに西さんのアプローチやほかのゲームデザイナーのアプローチも入っているので、すごく多面的なんです。

それを順に教えていくのはすごく大変なゲームだと思っています。あのチュートリアルで本当に最適だったのかは、いまだに悩んでいます(笑)。

森川氏:赤ちゃんは、なんでも口に入れてしまうことで経験をしていきます。ニューラルネットワークを使うと、学習していくときにそういう過程を踏まざるを得ないんですね。なので、序盤はプレイヤーにとっては混乱するところですね。

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――このゲームで面白かったのが、壁にぶつかったときにとある行動をしたことで新しくできることが増えていくというような、発見をする瞬間がいくつもあったところでした。最も単純な例でいうと、「トーレン様のお願い」(クエスト)をこなしていくだけでも結構ゲームを進めていくことができるんだなとわかったときでした。

人見氏:あれはカタルシスが生まれるようにゲーム設計をしています。ストレスを掛けて解放する。しかし、それをこのゲーム性に組みこむのは正直大変でした。

「トーレン様のお願い」もそうですが、最初「ミームのお願い」はありませんでした。ゲームの進め方がわからなくならないように「トーレン様のお願い」を入れています。また、ミームとプレイヤーの距離感もわかりにくかったので、関係値を作るために「ミームのお願い」を入れています。ここはゲーム的なものですが、これによりずいぶんと回るようになりました。

――最初に行ける世界樹のポイントにお菓子がひとつだけ落ちていますが、あれはお助け要素でしょうか?

人見氏:あれはお助け要素です。村中のミームがヤバヤバミームになってしまったときにロードし直すか、立て直すかになります。日本のゲームではあまり見ませんが、洋ゲーの集団シミュレーションゲームではパンデミックが発生します。

そうした要素が入っているのですが、こうしたゲームはちょっとやり直してもだめでかなり戻らないとやり直せません。なので、お菓子は置いてありますが、もっとパンデミックの根本の部分まで戻った方がいいですね。

はらぺこなAIキャラたちによるカオスな世界!「moon」や「がんばれ森川君2号」のレジェンドクリエイターたちが集結したコロニーSLG「はらぺこミーム」開発陣インタビューの画像

――全員のミームがヤバヤバミームになってしまうのは、まぁまぁの末期状態だったんですね。でも、そこからなんとか立て直すことができました。

人見氏:ゲームの流れでそれを楽しみたいという人もいますが、一応ゲームの難易度も選べるようになっています。なかなか苦戦しまして、やることがないゲームになってしまいがちだったんです。そのため、飢餓になったり家がなくなったりするとストレスが溜まるなど、あらゆる困難を村に掛けていきました。

そうしたストレスを掛けることで、プレイヤーがやらなければいけないことができたのは良かったのですが、今度は難しすぎて普通の人が遊べなくなってしまいます。そのため、この数ヵ月で難易度を緩和するなど設定を調整していきました。

クリエイター陣がほとんど話し合わずに完成したOP絵本

――グラフィックとは別に、サウンドもかなりユニークな印象です。とくに、世界樹の探索をしているときの音楽がお気に入りですが、こちらも世界観をよく表したものになっています。こうしたサウンドのように、グラフィック以外に力を入れた点があれば教えていただけますか?

人見氏:サウンドは「moon」や「ちびロボ!」を手掛けた谷口博史さんが作られています。でも、森川さんとオープニングムービーを作った動画制作者の方、谷口さんと私で、OP絵本は実はそんなに話し合って作ってはいないんですよ(笑)。

森川氏:完全に放置されていました(笑)。

人見氏:みなさんベテランで自分が貯めてきたものをいくつかやってやろう的なものをお持ちの方たちなので、あえて戦ってもらおうかなと思いました。谷口さんは、これはというものを出してきてくれるんですよね。オープニングの飛び出す絵本も、そもそも注文していなかったのですが、動画制作の方が飛び出す絵本にしてしまったんですよね。

――え? そうだったんですか? 飛び出す絵本のイメージがかなり強かったですが。最初はこういうゲームなのかなと思ったぐらいでした。

人見氏:私もディレクターとしてこれ間に合うの? と思いましたが、それと同時に森川さんにも素材を作ってもらわなければいけなくなりました。

森川氏:そう、鍋は絵に張り付いちゃっていたので。「鍋だけの絵をください」と言われたときに、切り抜くのかよと思いましたね(笑)。

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人見氏:サウンドの谷口さんも、「音はどうするの?」という感じになって。ちなみに、谷口さんのサウンドは、オープニングとエンディングなどいくつかありますが、ストーリーに沿ったものになっています。あれはすごくこだわって作っていますね。脚本や流れができてから、谷口さんがそれに沿ってチューニングを行っています。これはできる人とできない人がいるので、谷口さんが参加したのはすごく大きかったですね。

――探索中のサウンドもどんよりとしたシーンにピッタリ合って素晴らしいですね!

人見氏:ちょっと「ツインピークス」感がありますよね。不穏な感じが出ています。谷口さんにお願いしたのは、村と世界樹の中の空気を一変するようにしてもらったことが大きいです。村はすごくハイテンションじゃないですか。

――宴とかもあるし。

人見氏:あそこは、谷口さんのほうでくっきりと分けてもらいました。ゲームサウンドを長く作られているので、ゲームでどう使うのか、ユーザーの体験にどう影響を与えるのかというのを、汲み取った上で作っていただけました。

――最初はあまりできることが少ないなと思いつつ、ふとしたことがきっかけで探索できる範囲が広がっていくなどのゲームの世界が緻密に作られていることに感動しました。こうしたレベルデザインを作りあげていく上で、気を使ったポイントはございますか?

人見氏:1年半ぐらい前はもっとざっくりしていて、世界樹が大きくなるとワールドが広くなっていくぐらいでした。でも、自由過ぎるとプレイヤーがやることがわからなくなってしまいます。そこで、小さなマイルストーンをたくさん置くことにしました。そのときのひとつが、マップの中でトーレンポールを見つけるとゲートが開くというものです。

ワールドを見つける前に、最初にゲートを見つけるという到達点。「Neo ATLAS」や「大航海時代」のアプローチに似ています。そうした冒険の醍醐味は、中間マイルがないと面白くありません。

アウトゲームだと、いきなり宴を開くのは難しいため、ミームがスキルを覚えたときにシンボルを造ります。あれを置くようにしたのは、昨年の9月ぐらいです。これはテストプレイをしている方から進め方がわからないと言われたのがきっかけですが、スキルを覚えたらシンボルを造るようにしました。

シンボルを造ると、村で造ることができる施設も増えていくようにするなど、循環していくのがこの辺りから生まれています。大きな体験から小さなところに落とし込むという、大・中・小のマイルを丁寧に置いています。

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――村が発展していくと、村の中でいろいろなアイテムが取れるようになっていきました。なにか別のゲーム性というか面白さが増えていくという感じがしましたね。

人見氏:資源系ゲームのやり方のひとつですが、メインの資源にストレスを掛けて、いきなり村で開放せずにミームの活躍によって世界樹でいっぱい取ることができる。それが村で作ることができるようになる。すると、今度は新しいストレスが掛かってくるような循環で考えていますね。

――最初はとにかく木の数が圧倒的に足りなくて大変でした。あれがないと、お菓子が作れなくてミームがおかしくなっちゃうんです。

人見氏:あれはわざとやりました。枯れ木拾いゲームです(笑)。

――あと、朝起きたらミームの数が減っていたというのも悲しいですよね。やっと宴が開けると思ったら、人数が足りなくなってしまって。

人見氏:最初はミームが死ぬ生き物なのかという部分は、開発チーム内でも二転三転しました。Free-to-playのときは、死なない設定も考えていました。

――ミームは最大何人まで増やせるんですか?

人見氏:あの村だと20人までです。10人以上になると管理が大変ですね。

最初は三日月が満月になっていくゲームだった

――ミームたちがヤバくなる「まっくろ月」という要素がゲーム内に盛り込まれていますが、こちらはどのような経緯で導入されることになったのでしょうか?

人見氏:あれも去年の12月までなかった要素だったんですよね。今は月が暗くなって「まっくろ月」になりますが、最初は三日月が満月になっていくゲームでした。それで、満月のときにしか宴が開けないようにしていたんです。

でも、それはプレイヤーの足止めになってしまいます。あと、意図的にプレイヤーが準備していることをリセットしたりストレスを計画的に掛けるために、満月を「まっくろ月」に変えています。

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――ミームたちをブリーディングして、新たなミームを生み出していくというところもこのゲームの醍醐味のひとつです。こうしたブリーディングで生まれるミームの種類はどれぐらいいるのでしょうか?

森川氏:最初に出てくる個体だけだと飽きてしまうので、プレイヤーがオリジナルのキャラクターを生み出した方が絶対にいいよねということで入れています。

――世代交代をさせて遊ばせていくというところを意識したのでしょうか?

森川氏:合成です。

人見氏:ブリーディングのゲームってなかなかないので、作るのは大変でしたね。

森川氏:ブリーディングとAIは足しちゃダメですよね(笑)。

――スキルはどのように作られていったのでしょうか?

人見氏:途中まで作ったゲームにもスキルはありましたが、1年半ぐらい前にそれを体系化するときに見直しています。このゲームは、ものすごくミニマム化した文明発展シミュレーションゲームなのです。「シヴィライゼーション」をミニマム化したようなものですが、やれることが増えていくのは文明をモチーフにしています。

森川氏:ブリーディングをするときに、指標のようなものが必要です。最初はそこから出てきたものですね。

人見氏:それを体系化して見た目と連動させるのは、ゲームを組み立てて行く中でやりました。

――ミームたちの能力で、ユーザーから見えていないものはございますか?

人見氏:それはないですね。現状のアクティブスキルとAI、3体冒険に連れて行くシナジーのところで手が余ると思います。こうしたマネージメントゲームは、後半はマネージメントすることが辛くなって辞めてしまいます。ある要素はどんどん楽になっていき、後半はミームのマネージメントに専念できるような作りになっています。

――ゲーム全体としてはどれぐらいのボリュームがあるのでしょうか?

人見氏:プレイ時間でいうと、20~25時間でおそらくクリアできると思います。長かったとも短かったとも、どちらとも思わない、満足できるゲームになっています。

――続編の構想や今回盛り込めなかったものなどはございますか?

森川氏:1が終わるときって必ずそうですよね。これは入れられないから、売れてくれたら2に入れたいという。

人見氏:あれがやりたかったですよね、壁に絵を描いていくやつ。

森川氏:ミームたちが絵を描いていくという要素を、2023年に生成AIが流行りだした頃に入れようという話になったんです。今なら全然できますが、そのときはちょっと時期尚早でした。

人見氏:小学校の子どもたちが壁に絵を描いていくように、ミームたちが世界樹や村で見たものを壁に絵で残していき、死んだミームも含めてユーザーだけの体験が思い出として残るようにしようとしていましたね。

――ミームの見た目はどれぐらいあるのでしょうか?

人見氏:組みあわせで作っていますが、森川さんにベースの種族を7つ作ってもらい、フレームの組みあわせは42パターン、そこからスキルなどの要素で模様や色も変わっていきます。能力と見た目が密接に関係しているようには作ってあるので、見た目だけでいうと1000以上のパターンはあります。

はらぺこなAIキャラたちによるカオスな世界!「moon」や「がんばれ森川君2号」のレジェンドクリエイターたちが集結したコロニーSLG「はらぺこミーム」開発陣インタビューの画像

――最後に本作の発売を楽しみにしているファンに向けて、メッセージをお願いします!

森川氏:グラフィックは緩い世界なので、メインイベントではないところでもぶらぶらしてもらえるとクスッと笑ってもらえると思います。AIに関しては、最近は生成AIばかりが注目される中でキャラクターAIを真ん中にどしんと置いたというのは、久しぶりのゲームです。自分としてはすごく嬉しかったです。

AIで生き物のようにミームが行動するというのはこういうことだというのを、体感して欲しいですね。従来のルールベースでの動きものとはちょっと違う、機械的ではない動き方や判断をします。そこを楽しんで欲しいです。

人見氏:絵本の部分やゲームもそうですが、森川さん、西さんなどクリエイターの人と他のゲームと類似しないものを作ろうと頑張った世界観になっています。そこに魅力を感じてプレイして欲しいなと思っています。その世界観の部分は、限定版のアートブックに集約されていますので、気になった方はそちらを買っていただけると嬉しいです。

ゲーム性の部分でいうと、チャレンジされることが少ないジャンルにチャレンジしたと思っています。まず、自立型キャラクターゲームという枠組みというところ。あとは、バトルゲームにしなかったことです。これは西さんの考え方が強いのですが、正直バトルゲームだったらもう少し作りやすかったのですが(笑)。あとは、世代交代ゲームです。ひとつでもあると辛いのですが、3つの要素を成立させたことによって、唯一無二のゲームができました。

いろいろなクリエイターのとっておきの材料を集めて作った、料理のようなゲームになっています。偶然できた部分も正直ありますが、どこかの要素にひとつでも引っかかったならばプレイしてもらえると、その人にとって一生に1本のゲームになるので、ぜひ触っていただければと思います。

ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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※画面は開発中のものです。

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