コーエーテクモゲームスが2025年3月21日に発売した「ユミアのアトリエ ~追憶の錬金術士と幻創の地~」。プロデューサーの細井順三氏、ディレクターの安彦信一氏へのインタビューを前後編にわたってお届けする。

前編では主に開発のコンセプトを中心に作品の世界観やキャラクター造形についてお話いただいた。
※インタビューは3月の発売直前に実施。
インタビュー・構成:TOKEN
文:胃の上心臓
賛否を意識しながらも取り組んできたシリーズのグローバル化
――開発期間が長期にわたった「ユミアのアトリエ」がいよいよ発売を迎えましたが、今の心境はいかがですか?
細井:「アトリエ」シリーズは「秘密」シリーズでより多くのユーザーさんに知っていただくことができました。そこから「アトリエ」シリーズとして、今後どのように成長させるのかを考え、新しいシリーズとして過去最大級のチャレンジをしたタイトルが本作になります。皆様のお手元に届けられることが楽しみな反面、正直不安な面もあります。
我々としてはやり切ったと思っている部分が多いので、ユーザーさんからどんな反響があるのかはとても気になります。「アトリエ」シリーズのこれからを考えた時に色々なプランニングがある中でも、この作品はシリーズの分岐点になる作品だと思っています。
安彦:私も細井と同じ意見です。今回は今までの「アトリエ」シリーズから大きく作品の雰囲気を変えていますので、シリアス要素のあるストーリー等も含めて、発売前にお伝えしていた内容が、みなさんのご期待通りの形でお届けできるかどうか、かなりのプレッシャーがありました。
発売後にいただいた感想や、今回チャレンジした部分に対する反響など、今後の開発に活かせるところがたくさんあると思いますので、次回作以降にしっかり繋げていきたいです。一方で、今回はいつもより長い開発期間でしたので、「やっと終わった」という気持ちも大きいかもしれません。「やり切った」という思いが強く、嬉しい気持ちでもありますね。
――前回のインタビューは発表前のタイミングでした。実際に情報が出た際の最初の反応についてはどんな感覚を覚えましたか?
細井:覚悟していましたが、やはり賛否があると感じました。想定していたよりも肯定的な意見が多かったのですが、さまざまなご意見をいただきました。我々としては、良い面も悪い面も含めた賛否があるのはユーザーの皆さんに注目・応援していただいているおかげだと思っていますので、非常に嬉しく感じています。
さまざまなご意見がありましたが、これまでのシリーズからあえて変えた部分も多く、目指しているスケール感も違うため、賛否両論あってしかるべきだと思います。それを素直に受け止めて、我々なりのクリエイティブをどうしたらより多くの皆様に好意的に受け入れていただけるか、ということを常に考えています。
――改めてにはなりますが、本作は「アトリエ」シリーズの中でどういった位置付けのタイトルにしようと考えたタイトルなのでしょうか?
細井:今回は、次世代の「アトリエ」シリーズを目指すという目標を明確に打ち出しています。「アトリエ」シリーズは採取・調合・戦闘というミニマムなゲームサイクルの中で、さまざまな遊びを追及してきたシリーズだと思っています。それを「秘密」シリーズ以降はもっと広げていき、RPGとしてグローバルにより多くの皆様に楽しんでいただけるものを目指すというところが我々としての大きな位置付けになっていました。
RPGとして面白いものを目指すことが大前提に、これまでの「アトリエ」シリーズの良さを継承して、その良さをさらに多くの皆様にお伝えするということが次世代の「アトリエ」を目指すことだと定義しています。
そのため、我々として本作でそこを目指すと決めた以上は、賛否の分かれる部分や変化は当然あるものだと思っていましたし、開発メンバーの意識改革も含めて、本作は「アトリエ」シリーズの大きな分岐点になっています。
そうやって変えていく必然性のあるものと一方で、「紅の錬金術士と白の守護者 ~レスレリアーナのアトリエ~(以下、紅白レスレリ)」のように、今までのシリーズの流れをきちんと踏襲したものも大切にしていますので、現在はこうした二軸でシリーズの開発を続けています。
――RPGという観点で見た時に、本作はストーリーを楽しませることに軸があるように感じました。そのあたりの意識はかなり強くもたれているのでしょうか?
細井:本作ではオープンフィールドとストーリードリブン(※物語を軸として物事を進める考え方や手法)を重ね合わせることが合っていると考えまして、そこに注力してあえてフリーシナリオのようなものは採用していません。
一方で自由度も担保したかったので、Aから向かうのかBから向かうのかの選択肢によって物語の流れがちょっと変わったりするような選択の幅を入れています。フィールド上でのバラエティのようなものは担保しつつストーリードリブンにすることで、「アトリエ」シリーズらしいストーリーを楽しんでいただきたいと思い、今回はこういった位置付けになっています。
――ゲーム自体の全体の流れを作る上で、これまでのイベントフラグみたいなものを達成しながら進めていくというより、ストーリーの中での分岐がおきるような作りになっているように思いました。
安彦:今までのシリーズだと、拠点となるアトリエで発生するイベントが多かった印象があると思いますが、今回はストーリードリブンを意識しているため、フィールドで発生するイベントがたくさんあります。フィールドでイベントを発生させるためには、適切なシチュエーションを用意する必要もあると考えています。
本作ではその部分に対して、フィールドの設計部分とレベルデザインとストーリーの3軸で考えているので、そこに対しての難しさはありました。
今回は次世代の「アトリエ」シリーズとして、グローバル展開に力を入れた高品質なRPGを目指すにあたり、そこはマストで取り組まなければならない部分だと考えていましたので、フィールドの設計はより力を入れています。

――いい意味で「アトリエ」らしさがなかったといいますか、プレイヤーであるこちらの意思が介入している感覚があったのが面白いと感じました。
安彦:おそらくですが、クエストの目標を達成した後にいったんアトリエに戻るというプロセスが減っているので、そのあたりも寄与しているのではないかと思います。
――ストーリー自体もかなりシリアスな展開が序盤から入ってきていたと思います。今回はそのあたりのバランスをどのように意識されていましたか?
安彦:本筋のストーリーがシリアスで、例えば錬金術を禁忌として扱っていたり、周囲から危険人物として避けられるような部分があったりしますが、それとは別に、「アトリエ」らしいほんわかした雰囲気を感じられるものをきちんと用意しようという話は、開発の最初の段階からなされていました。
例えばキャラクターストーリーや、キャンプをした時に発生するイベントなどで、今までの「アトリエ」シリーズ作品のような雰囲気を踏襲しています。シリアスではあるものの、今までのユーザーさんが「アトリエ」らしさを感じられるように、そういった点はかなり意識して制作に臨みました。


善悪の観点から捉える錬金術、制作工程にも多くの変化が
――作品ごとに錬金術の捉え方はかなり分かれていますが、本作では禁忌とされています。本作の錬金術の扱いについては、どのような流れで決めていったのでしょうか?
細井:錬金術の善悪についてはテーマから作成しています。我々としては、今まで錬金術は肯定的に捉えることが大半でした。やはり錬金術は「アトリエ」シリーズにとって非常にウェイトが高く、この世界においては何でもできる技術という扱いになっています。
これはある種の強大な力だと考えていますが、それを各々の倫理観だけで悪用しないように抑えていたのが、これまでのシリーズの多くの主人公たちです。ただ、本質的には強大な力は善にも悪にもなると思っていて、そこをきちんと真っ向から描きたいと考えたため、錬金術が禁忌とされている世界観にしました。
マナの描き方については、我々が生きている世界でも、例えばガソリンも使い方ひとつによっては危険なものになりますが、我々の生活の上で原油や油はマストになっています。マナにおいてもそういった考え方で、自然界に溢れているものでも脅威になりうるものや生活を豊かにしてくれるものが存在しています。
基本的には全てに善悪があるのに、今までの「アトリエ」シリーズはその側面の良い部分側を見せていたところがあったと思います。そのため今回はもっと奥深いところの土着している部分を描きたかったというのがあります。ただ、当然のことながらマナの濃度などの描写はゲームデザインに依っている部分が存在しています。
――オープンフィールドになるということはそれだけ描く世界が広くなるということですが、本作ではその中で表現されるものに意図があるように感じました。
安彦:今回は、これまでのシリーズとは異なる工程でステージを制作しています。最初にコンセプトアートを作成し、それを基に膨らませてフィールド制作に移る流れになっていますので、今まで以上にストーリーとステージとの接続部分がスムーズになったと感じています。これが最も大きなポイントです。
今回は、ストーリーを構築する際に、キャラクターがフィールドに対してしっかりとした感想やアプローチを持っていなければなりません。そうでないと、「とりあえずそこにあるからそこに行きます」という流れにしかならないので、そうした展開は避けたいと考えていました。
例えば序盤の灯台のような場所の場合、「これは何だったんだろう?」と考えながら向かって、そのフィールドで特定のアイテムを手に入れることで、その場所の存在意義を理解できるようになっています。また、ストーリー上ではかなり後半になってしまうのですが、ニーナがとあるフィールドについて語るイベントも用意しています。このようなイベントを今回改めて実装できたことで、「アトリエ」シリーズとしてもひとつ先に進むことができたのではないかと感じています。
単にフィールドに行くだけではなく、あらかじめ調査団として「こういう場所がある」と調べて、みんなでその場所に向かい、「ここはこういう場所だったのではないか」とプレイヤーと共に想像しながら進んでいける構造を今回うまく作れたのではと思っています。この部分はかなり力を入れた部分ですので、ユーザーさんが楽しんでいるような感想をいただけたのは本当に嬉しいですし、作って良かったと感じています。

より人間味を感じさせるキャラクターを生み出す表現のバリエーション
――今回はキャラクターたちの表情や仕草もこれまでより人間味を感じる部分がありました。そういった描写にこだわった点も教えてください。
安彦:表情のパターンは前作よりも圧倒的に多いです。それだけたくさん用意しているので、より表現が豊かにできるようになったところはあると思います。加えて、例えばレイニャのような獣耳のキャラクターの耳は個別に制御していたりしますし、ユミアのいわゆる「アホ毛」についても同様です。やはり表情以外の部分でも表現できる場所があるよねということで、そういうところまで作り込むようにしています。
後はルトガーのように目つきが鋭かったり歯がギザギザになっているキャラクターは、きちんと口を動かすことで目に見える感情があると思ったので、イベントごとに表情の設定は細かく確認しています。

後は目の中の表現ですね。新たな機能追加がたくさんあるのですが、そのあたりは「BLUE REFLECTION TIE/帝」あたりからずっと継続的に取り組んできたもので、それが今回でかなり強く押し出せるようになったと思っています。
――さまざまなイベントシーンでキャラクターたちに細かく表情を付けていくのはかなり大変そうな作業ですね。
安彦:担当スタッフは相当大変だったと思います。表情が多いとその分制御が大変ですので、そのあたりも結構苦労していたようです。
――キャラクターのバックボーンも丁寧に描いている印象がありますが、ユミアの自然体なキャラクター像などは初めから意識されていたのでしょうか?
細井:元々、今までの「アトリエ」シリーズより、さらに自然体なキャラクターを作りたいと考えていました。これまでは「キャラクターである」ことを前面に押し出しているところがありましたが、今回ユミアを演じる倉持若菜さんには、ユミアは倉持さん本来の声を活かしていただきたいとお伝えしました。
滑舌が良ければ良いほどキャラクター性は強まると思うのですが、人が日常会話をしている時はそこまでハキハキとした滑舌ではないと思うんです。ですので、ユミアはあえて滑舌などはそこまで意識しすぎなくてもいいと思っていました。そうした部分も含めて、キャラクターとして逸脱しない範囲でナチュラルな雰囲気が出るような造詣にしています。

――基本的にユミア以外のキャラクターもそういった方向性なのでしょうか?
細井:そうですね。ただ、他のキャラクターに関しては、全編にわたって同じアプロ―チをするのは良くないかなとも思いましたので、キャラクターごとに調整しています。ルトガーはあえてあのようなキャラクターとして設定しているので、ルトガーらしく誇張気味になっていると思います。アイラに関してはユミアと接する時の距離感が若干ナチュラルに見えるようにしたり、キャラクターそれぞれに我々としての設計があったので、必ずしも全キャラクターをナチュラルな雰囲気にしてはいるわけではありません。
――発売後ということで、ストーリーの注目ポイントや実際に遊んだ方へ向けて各キャラクターの個性や注目して欲しい部分をお教えください。
細井:基本的に全キャラクターのバックボーンは、これまで以上に深く描いています。そのため、全キャラクターに注目していただきたいところではあるのですが、私個人としてはルトガーのキャラクターエピソードはショッキングなものだと感じています。「こんなキャラクターだったんだ!?」といった驚きがあると思いますので、ぜひご覧いただきたいです。
安彦:確かに言動と印象がストーリーを追うと違いますからね。私としても、今回のキャラクターたちは全てしっかりしたバックボーンがあって、それがキャラクターストーリーや普段の言動に繋がっているという印象があるので、そういう点では全編通して見どころだと思っています。キャラクターの言葉尻や言葉のニュアンスとかから推測していってもらうと面白いかなと。
その中でも、私個人はヴィクトルが一番オススメです。みんなのリーダーで正義感に溢れた堅物な青年なのですが、意外と抜けているところがあったり、突然謎の張り合いをしたりするキャラクターなので、そういうギャップ性みたいなところが凄くいいなと思っています。後はレイニャがどんどんハキハキと喋るようになっていくので、成長が見えるキャラクターとしては好きですね。
――確かにレイニャは登場したばかりの頃は喋るのもいっぱいいっぱいという印象でした。
安彦:ストーリーを通してそれぞれのキャラクターの成長が見える部分もあったりしますので、そういった部分を意識しながらストーリーを追いかけていただくと、より深いところまでお楽しみいただけるのではないかと思います。

――キャラクターデザインを実際のゲームのモデルに落とし込む上でどういったところに注力されましたか?
細井:キャラクターに関しては、キャラクターデザインを担当されたべにたまさんと相談しながらいっしょに作っていった部分が大きいです。「秘密」シリーズからキャラクターのシルエットは大分シンプルになっていますが、オープンフィールドというところもあり、今回もその方針は継続してシンプルにしたいなと考えていました。
また、今回のオープンフィールドは高さという縦軸の動きもあり、これまで以上に縦横無尽に進めるようなものにしたかったので、特に足回りのガジェットに関しては早く固めたいと思っていました。そこは特に注目していただきたいですし、足回りのガジェットが決まった時からユミアは足技などの体術をメインとしたキャラクターにしたいと考えていました。
これは本作のキャラクター全員に言えることなのですが、とにかくこれまでの「アトリエ」シリーズを踏襲しつつも、現代的なシルエットボリュームにしたいと考えていましたので、そこは凄く意識しています。加えて、今回はトリッキーすぎることはしないとも決めていましたので、そういったことはあまりしていません。
そのほかですと、武器や服装に関しては可変するような形にしています。途中で武器の形が変わったり、ユミアがスカートのボタンを外したり、プレイしていると、キャラクターが何か変化するようなものはキャラクターデザインで入れ込んでいます。

――現代的なシルエットはバランスが難しいように思うのですが……。
細井:シルエットについては、今回に限らずつねにバランスは意識していて、プレイ中に違和感がないようにすることを重視しています。そうした部分も含めて、今回のキャラクターデザインは、ナチュラルなキャラクターにしたいというのがいちばん目指したところです。一方で「紅白レスレリ」は、これまでの「アトリエ」シリーズを踏襲して制作していますので、両タイトルでキャラクターデザインの方向性が違うものであることは感じていただけるのではないかと思います。ただどちらのタイトルにおいても、ユーザーさんから「このデザインは『アトリエ』ではない」と思われるものにはしたくなかったので、このあたりのバランスはすごく意識して調整しました。
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※画面は開発中のものです。
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