2025年3月8日に国際女性デーを迎えることを受け、Xbox Game Studio Publishing Japan シニアテクニカルプロデューサーを務める吉野ジェニファー氏にメールインタビューを実施した。
吉野ジェニファー氏は、さまざまなタイトルのテクニカルプロダクションを統括するプロデューサーとして活躍。先日発表となった「NINJA GAIDEN 4」ではXbox、Team NINJA、プラチナゲームズのプロジェクトチーム間でのプラットフォームサポートや品質管理などを含む幅広い業務内容を担当しているとのこと。
カナダ出身でありながら日本のゲーム業界に携わるという長年の夢を実現するために東京に移住したという同氏。どのようなキャリアを積み上げていったのかを伺うとともに、ゲーム業界における女性の活躍のための課題にも触れていただいた。

※吉の表記は正しくは土の下に口。
――簡単にご自身のことやMicrosoftでどのような業務に携わっているかお聞かせください。
初めまして、吉野ジェニファーです。私は東京にあるXbox Game Studios Publishingでシニアテクニカルプロデューサーを務めています。簡単に言うと、世界中のマイクロソフトの技術チームやサービスと、日本国内でゲームを開発しているパートナーをつなぐ役割を担っています。仕事では、海外オフィスとの調整をすることが多く、技術関連の資料を英語から日本語、またはその逆に翻訳することもあります。また、国内の開発チームを支えるために、ネットワークやサーバーなどの開発インフラの管理も行っています。
プライベートではアウトドアが好きで、よくサイクリングをしたり、カフェ巡りをしたり、愛犬の柴犬と一緒に散歩したりしています。

――学生時代からゲーム業界に携わるビジョンはあったのでしょうか?
はい、ゲーム業界に入ることは昔からの夢でした。コンピュータサイエンスを学んでいるときに、新しい世界を作り、物語を語ることに情熱を持つクリエイターたちのリーダーシップやビジョンに大きく影響を受けたんです。
学生時代には、BioWareの「Mass Effect」やUbisoftの「アサシン クリード」に夢中になり、ゲーム業界で働くことが、プログラミングの論理的な面とクリエイティブな世界観を組み合わせる最高の機会だと感じました。それ以来、この夢を追い続け、ゲーム業界で働くことを目指してきました。
――2014年に東京に移住してキャリアを積まれたのにはどのような理由や決断があったのでしょうか?
少しご質問から時期が巻き戻りますが、高校時代に日本語のレッスンを受け始めたのは、「ファイナルファンタジーXI」に深くハマっていたからでした。英語版のローカライズが出るまでに約2年もかかると知り、待てないとお金を貯めて日本からゲームを輸入しました。
このゲームはオンラインでのコミュニケーションが重要だったため、日本のプレイヤーとやり取りできるように日本語を学び始めました。長年のプレイを通じて、日本語が上達し、日本各地に友人もできたことから、ワーキングホリデーに挑戦してみることにしました。
その旅の途中、とても幸運なことに都内で素敵なソフトウェアのお仕事を見つけることができ、最終的に日本に永住することを決めました。新しい国で新しい生活を始めるのは少し後戻りするような気持ちもありましたが、日本は私の母国であるカナダと同じように快適な暮らしができる場所だと感じています。
――現在のMicrosoftに入社した理由をお聞かせください。
マイクロソフトは、入社前から私のキャリアの成長において非常に大きな役割を果たしてきました。学生の頃、マイクロソフトの担当者が、私を含む学生たちが運営するゲーム開発クラブで「XNA」というゲーム開発ツールキットを紹介し、C#を使ってシンプルなゲームを作る方法を教えてくれたことがありました。それがきっかけで、ゲーム開発に一気に引き込まれました。
その後のキャリアでも、マイクロソフトが多様なリーダーシップチームを築くことに力を入れている姿勢に強く感銘を受けました。特にGaming部門では、私と似たバックグラウンドを持つ女性たちが多くのシニアリーダーのポジションに就いていて、「自分もここで成功できるかもしれない」と大きな自信につながりました。
実際にマイクロソフトでの仕事や企業文化について、未来のマネージャーやチームメンバーたちと話す機会を得たとき、とても親しみやすく、安心感を覚えたことを記憶しています。単に最先端のテクノロジーを生み出すだけでなく、社員の成長を本気で支えてくれる会社だと感じ、ここで働きたいという気持ちが強まりました。

――現在「NINJA GAIDEN 4」などのタイトルにも関わられているということですが、プラットフォーマーとしての視点から、いわゆるセカンドパーティ、サードパーティタイトルに関わることで得られるものがあればお聞かせください。
ビデオゲームの制作は、創造的要素と技術的要素が融合した複雑なプロセスです。魅力的で高品質なゲームを作るためには、デザイン、ストーリーテリング、エンジニアリングがシームレスに連携することが求められます。
「NINJA GAIDEN 4」の開発において、 Xbox Game Studio Publishingの国内チームはTeam NINJAやPlatinumGamesと密接に連携し、テストや最適化の支援など、技術面で最大限サポートできるよう努めています。開発者が純粋に素晴らしいゲームプレイ体験の創造に集中できる環境を整えることが、私たちの目標です。
――今回は国際女性デーに合わせた取材ということで、女性ならではの視点でこれまでのキャリアの中で特に印象に残っていることはありますか?
私はこれまでのキャリアの中で、仲間やメンター、先生、友人、そして何よりも家族に支えられてきました。そのおかげで、自分の目標を追い続けることができています。
しかし、テクノロジーやゲーム業界における女性の役割に対する無意識のバイアスには驚かされることが多いです。女性はクリエイターとしてではなく、「クリエイターを支える側」として見られる傾向があるのです。私のキャリアはプログラミングやテクノロジー管理の分野に偏っていて、こうした職種では女性が少ないこともあり、時には孤独を感じることもあります。正直なところ、チーム内のジェンダーバランスがもう少し取れていれば、自分の仕事ももっとやりやすくなるのではと感じることがよくあります。
そうした中、特に印象に残っている経験があります。キャリアの初期に、新しい職場で既存のエンジニアチームに加わったときのことです。そのチームはほとんどが男性で、一方でプロジェクトマネジメントチームはほぼ全員が女性でした。「なんでこんなに極端に分かれているんだろう?」と疑問に思い、同僚に聞いてみたところ、意外な答えが返ってきました。エンジニアチームは競争が激しく、会議やチーム内の議論では一部の男性メンバーが声を荒げることがあり、かなりピリピリした雰囲気だったそうです。エンジニアの管理職側も男性ばかりだったため、こうした問題に気づきにくかったのかもしれません。
でも、そう聞いたとき「なるほど、それなら女性のエンジニアが少ないのも無理はないし、いたとしても長くは続かないな」と納得してしまいました。
――業界に携わった頃と今とを比べて、女性クリエイターの参画などの観点から変化が生まれたことはありますか?
特に日本では、私が子どもの頃にプレイし、この業界を目指すきっかけとなったゲームのクリエイターたちが次々と後進へとバトンタッチし、新しい才能がゲーム業界で頭角を現し始める時代へと移りつつあります。
ここ数年で特に心強く感じているのは、大手企業やインディー開発スタジオの両方で、女性がリーダーシップの役職に就く機会が増えていることです。こうした女性リーダーの活躍がメディアで取り上げられることで、若い世代の女性たちがゲーム業界を目指し、キャリアを築いていくきっかけになるのではないかと期待しています。
――この先、ゲーム業界での女性のさらなる活躍に向けて必要なこと、もしくはご自身でも取り組んでいきたいことはありますか?
ゲーム業界で働く女性が、他の女性クリエイターを支援するために最も重要な行動のひとつが、メンターシッププログラム(編注:メンター(経験者)がメンティー(初心者・未経験者)に指導や助言を行う制度)への参加だと思います。私自身もキャリアを通じてその恩恵を受ける機会に恵まれてきました。
どのキャリア段階においても、自分と似た背景を持つ人が同じ業界で成功している姿を見られることは、とても大切です。私自身、メンターとしてもメンティーとしても関わった経験がありますが、その中で自分の思い込みを見直し、自信を持つことができるようになりました。ぜひ、多くの人に挑戦してほしいと思っています。
――最後にこの先ゲーム業界で活躍したい女性の方々にメッセージをお願いします。
ゲーム業界は、学び成長できる素晴らしい環境であり、あらゆる分野の専門性が活かせる場でもあります。
この業界には多種多様な役割があり、世界の舞台で自分の才能を発揮できる機会がたくさんあります。それに、ゲームを作る仕事は何よりも楽しいんです!
ぜひ業界の女性たちと積極的につながり、多様な視点を持つネットワークを築いてみてください。それが、自身のキャリアの可能性を広げ、成長につながる大きな原動力になるはずです。
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