Gamerで執筆しているライターに、年末年始に合わせて自由に書いてもらおうという企画。小林白菜による、個人サイト「Find Nice Games」に関する記事をお届けします。

この記事でご紹介するのは、僕がゲームライターとしての活動を通して知り合った友人、ドラゴンワサビポテトさん(以下、ドワポンさん)が運営する個人サイト「Find Nice Games」について。

「Find Nice Games」はPCゲーム配信プラットフォーム、itch.ioで配信されている作品を中心に、“ナイスなインディーゲームを見つけて発信していく”サイト。紹介されるゲームはほとんどが無料でプレイできて数分ほどの短時間で楽しめる、大手ゲームメディアでは取り上げられることのない作品ばかりです。2024年12月時点で、250を超えるゲームが紹介されています。

商業メディアではほとんど取り上げられないインディーゲームを紹介する個人サイト「Find Nice Games」とは?運営するゲームライターに話を聞いてみた【年末年始企画】の画像

Gamerでほかのゲーム紹介サイトを紹介するというのは、媒体にとってのメリットはあまりないと思います。けれど、「ふだん商業ゲームメディアではほとんど紹介されないゲームを紹介しているサイトを商業ゲームメディアで紹介する」という試みは個人的におもしろい。それに読者の皆さまには「ゲームという表現が持つ多様さの一端を知ってもらう」切っ掛けのひとつになるかもしれません。ライターが自由にテーマを決められるGamerの年末年始企画に今年もまた参加させていただくことになり、すぐに思い付いた企画でした。

紹介されている魅力的なゲームの一部にも触れつつ、ドワポンさんに「Find Nice Games」について語っていただきましたので、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

Find Nice Games(Beta)
https://findnicegames.com/

“誰かが必要としているゲーム”を探し続けた経験から、チームでのゲーム制作にも挑戦中

――「Find Nice Games」を立ち上げるに至った経緯を教えてください。

ドワポン:これまでにライターとしていくつかのメディアで記事を書いてきて、広く読んでいただけたものもありました。ただ、僕が記事を書いたゲームを実際にプレイしておもしろいと思ってくれた読者の方もいると思うんですけど、SNSで大きな反響があっても、そのゲーム自体が拡散されていく以上の広がりが生まれづらいのかなという感覚も大きくなっていったんです。

“数字が取れる記事”がメディアにとって重要なことは理解していますし、高い評価を得ているゲームやインパクトの強いキャッチーなゲームとの出会いも、自分にとって大事な出会いであることは間違いありません。けれど、その中で取りこぼされてしまったり、埋もれてしまうゲームにも素晴らしいものがあって、そちらに目を向けてもらうことができないもどかしさを感じるようになっていきました。

そういったさまざまなゲームをカタログ的に閲覧できるサイトを作ることで、数字だけでは測れない“ゲームの多様さ”を感じてもらえるんじゃないかな? という想いから始めたのが「Find Nice Games」でした。

――「Find Nice Games」で紹介するゲームの条件や基準などはあるのでしょうか?

ドワポン:“プレイ時間が短い”というのは特徴だと思います。1回のゲームプレイが5分~10分で終わるものや、中には数十秒で終わるものもあります。僕自身、集中力が長くは保てない人間で、ボリュームが大きいゲームをたくさんプレイすることができないのですが、同じような悩みを抱えていたり、忙しさでなかなかゲームができない人もいると思うんです。

――同じようなゲームを必要としている人に届けようとしている?

ドワポン:人生にゲームが必要だと感じているのに、プレイする時間が取れなくて辛さを感じている人をときどき見かけるので、「こういうゲームの世界もあるんですよ」と伝わればいいなという気持ちはあります。

サイトを立ち上げたばかりのころは、「どんなゲームを紹介するサイトですか?」と問われると言葉にしづらいところがありました。「プレイ時間が短い」という意味で“ショートゲーム”とか、小規模なゲームという意味で“スモールゲーム”みたいに言い切るのも、ぶしつけな感じがして……。

たとえば「Just sit with me for awhile」という、海辺に腰かけて夕日を眺めるゲームがあるんです。作者を投影したキャラクターから「現実の忙しさを忘れて、好きなだけここに居ていいよ」と実際に呼びかけられるゲームで。それってプレイヤーによっては30分でも1時間でもそこに浸っていたいと感じる人がいるかもしれないですよね。

それで、最近思いついたのが「ワンシッティングゲーム(one sitting game)」という表現です。一度座ってから立ち上がるまでのひとときで楽しめるゲーム、というのが「Find Nice Games」で紹介している作品への向き合い方のイメージとして提示できる表現だといまは思っています。

商業メディアではほとんど取り上げられないインディーゲームを紹介する個人サイト「Find Nice Games」とは?運営するゲームライターに話を聞いてみた【年末年始企画】の画像

「Just sit with me for awhile」
https://findnicegames.com/just-sit-with-me-for-awhile/

――以前、ドワポンさんが熱を上げて紹介していた「Life Runs Through」というゲームは、僕もプレイしてみて非常に感じ入るものがある作品でした。また、お話をうかがうにあたって新たにいくつかのゲームをおすすめいただいてプレイしましたが、その中では作者がコロナ禍の都市閉鎖で帰宅できなくなった自宅に想いを馳せて制作したという「Apartment」が心に残りました。

「Life Runs Through」
https://findnicegames.com/life-runs-through/

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「Apartment」
https://findnicegames.com/apartment/

――一方、今回おすすめいただいた中でドワポンさんがとくにイチオシしていた「crockpot」というゲームは、サイトの紹介文によると「高校の友人と他愛もない話をしつつ退屈な時間をしのぐゲーム」。英語のリスニングがほとんどできない僕にはややハードルが高かったのですが、この紹介文のお陰でゲームで表現された空気感を少なからず楽しめたように思います。

ドワポン:プレイフィールを通していろいろと感じてもらえるのが理想ではありますが、言語の壁があるゲームのことも踏まえ、4枚のスクリーンショットに補助線となるワンセンテンスの文章を添える構成にしています。ただ、それが最適かはわからないので、X(Twitter)ではゲームプレイを録画した動画に加え、自分が感じたことをもう少し踏み込んで言語化してみるなど、試行錯誤しています。

「crockpot」はアメリカの高校を卒業して大学に進む直前の、2人のティーンが生きるモラトリアムな期間を描いた作品です。とりとめのない会話が続く中、ファミレスや家を行き来して、注文した料理が届くまでテーブルの上で砂糖の小袋を弾いて遊んだり、テレビのチャンネルをリモコンで奪い合ったりする。そんなささいなやり取りの数々はちょっとしたミニゲームのようでもあり、退屈な時間を満たしてくれるゲームの側面を物語構造やプレイ体験に落とし込んでいる点で批評性の強い作品だと思いました。こうした部分は簡易な説明では伝わりづらいので、また別の形でしっかり触れられたらとも考えているのですが……。

商業メディアではほとんど取り上げられないインディーゲームを紹介する個人サイト「Find Nice Games」とは?運営するゲームライターに話を聞いてみた【年末年始企画】の画像

「crockpot」
https://findnicegames.com/crockpot/

――itch.ioのゲームを頻繁にチェックするようになったのは、なにか切っ掛けがあったのでしょうか?

ドワポン:切っ掛けのひとつになったのは、かつて勤めていた出版社を休職して、改めてゲームと向き合いたいと考えたときに「Gradually|じょじょに」というゲームをitch.ioで見つけてプレイしたことです。忙しなく走るのをやめて、立ち止まることで世界の感じ方が変わっていく体験ができる短いゲームで、休職中の自分と重なるところがあったんです。この作品に支えられた経験を伝えるためYouTubeで初めてプレイ動画を投稿したのを機に、itch.ioの新着ゲームをほぼ毎日チェックするようになりました。

――itch.ioはSteamなどと異なり、審査もなければ手数料もない、世界中から誰もが自由にゲームを公開できるプラットフォームとして知られています。極めて個人的な感覚を抽出したゲームが公開されやすいitch.io独特の空気というのは、そういった仕組みから来ているのでしょうか?

ドワポン:審査や手数料などの負担がないことで自由なクリエイティビティが持ち込めるのもあると思いますが、その結果としてアートなど、ゲーム以外の分野を中心に活動しているクリエイターがゲームという媒体を用いて表現の幅を広げようとするときなどに、公開先として選ばれることが多い印象です。

「monarch」という蝶の群れを操作してさまざまな障害を乗り越えるゲームを開発したクリスチャン・ミーさんは、ニューヨーカーという雑誌の表紙などを描いているイラストレーターの方なんです。同じく有名なイラストレーターの方やウェブコミックの作家、バンドや実験的な音楽に携わるミュージシャンの方などがゲームを公開するケースも最近増えてきている印象です。

商業メディアではほとんど取り上げられないインディーゲームを紹介する個人サイト「Find Nice Games」とは?運営するゲームライターに話を聞いてみた【年末年始企画】の画像

「monarch」
https://findnicegames.com/monarch/

――競技性があって勝ち負けがあってみたいな「ゲームとはこうあるべき」という観念に囚われない、けれどゲームだから可能な表現を目指している方にとっての入口として機能している部分はありそうですね。

ドワポン:Steamだとユーザーレビューが大きな影響力を持っていますよね。「ゲームとしてどうなのか?」という点で低評価を付けられる可能性がある作品や、政治的なテーマ、個人的な問題などを扱った作品がitch.ioに多く集まる傾向は、そのあたりの文化の違いも影響しているような気がします。

――ここまでいろいろお聞きしてきた「Find Nice Games」ですが、現状2024年10月末で更新が途絶えています。ドワポンさん自身もまたゲーム制作を始められたということですが、更新が止まっている理由はこのゲーム制作ですか?

ドワポン:11月に開催された「京都創造ゲームジャム」で優秀賞をいただいてからチームによるゲーム制作を行うことになりました。自分が作品のコンセプトを担当していることもあって、いまはそちらに注力しています。投稿の再開はしたいので、うまい落としどころを見つけたいとは思っているのですが……ただ、実はこのゲームが生まれた大きな切っ掛けのひとつは「Find Nice Games」なんです。

――なるほど。ゲームの内容と合わせて、そのあたりの経緯もお聞かせください。

ドワポン:タイトルは「TELE」と言います。「京都創造ゲームジャム」では“社会課題の解決のためのゲームのアイデアを考える”というテーマがあって、僕たちはコロナ禍以降のリモート環境をモチーフにしました。リモートで仕事や活動をすることが一般的になって、コミュニケーションする相手の置かれた状況を想像することが難しくなりましたよね。ちょっとしたすれ違いが生じたり、相手に気を使った結果として作業が滞ったり……。僕自身、そうしたことが積み重なって心が弱ってしまい、以前の仕事を退職しているんです。

「TELE」では“オンラインの向こう側にいる相手を想像する体験”をゲームに落とし込むことを目指しています。ビジュアルからは分かりづらいかもしれませんが、河川敷のような場所に佇んでいる人はバーチャル空間にいるアバターで、その人に注目すると現実にその人が居る部屋の一部をのぞき見ることができるんです。そこからどんなことを抱えている人なのか、考えていけるようなゲームデザインを構想しています。

相手のことをすべて知ろうとするのは傲慢かもしれないのですが、“想像しづらさ”をゲームとして体験することで、「この人にもなにか事情があるんじゃないか?」とか、想いを馳せる切っ掛けにはできるんじゃないかと考えています。タイトルは対象の一部分だけがのぞける“Telescope(望遠鏡)”から来ていて、“Tele”自体が持つ「距離の遠さ」という意味合いから、自分と他者との間にある物理的、心理的、さまざまな距離についてのゲームであるというニュアンスも込めています。

ドワポン:アートワークを担当してくださっているサヌキナオヤさんは、雑誌「POPEYE」の表紙や無印良品のイラストなどを手掛けているすごいイラストレーターの方なのですが、彼も最近、表現手段のひとつとしてゲームに関心が向いていたとのことで、その中で「Find Nice Games」をチェックしてくださったようなんです。そこからお付き合いができて、京都創造ゲームジャムでごいっしょすることになりました。

サヌキナオヤさんのInstagram
https://www.instagram.com/sanukinaoya

僕とサヌキさんはゲーム制作の経験もなければプログラミングもできなかったのですが、アイデアに共感してくださるメンバーが集まってくれて、いまは総勢6名によるプロジェクトになっています。

――itch.ioにはすでにゲームページも作られているんですね。この「TELE」のアイデアにも、「Find Nice Games」を運営している経験は活きているのでしょうか?

itch.io「TELE」ゲームページ
https://team-tele.itch.io/tele

ドワポン:確実に「TELE」のアイデアはitch.ioでさまざまなゲームを探したり、プレイしてきた経験がベースになっていると思います。ゲーム制作の経験がない自分がゲームジャムで受賞できたのは奇跡的なことだと思っていますし、チームメンバーに支えられた部分がすごく大きいです。その前提の上で、自分のアイデアの中に理由を探すなら、ゲームジャムでほかのチームから出たアイデアがいわゆる“ゲームらしいゲーム”に社会課題を落とし込んだものが多かった中で、「TELE」が異質に映ったのは大きかったように感じています。

ゲームジャムでチームメンバーにアイデアのイメージを伝えるときも、「Find Nice Games」で紹介しているいくつかのゲームを例として見せて「こういう要素を取り入れたゲームを作りたいんだ」と説明したりしていました。

“ゲームらしいゲーム”と言えるメジャータイトルには必ずしも多く触れてきたわけではない自分がゲーマーやゲームライターを名乗っていいのか? という葛藤はずっと抱えていましたが、その経験によって日本発のインディーゲームを世界に発信する切っ掛けが掴めたんだといまは思えています。

先ほどもお伝えしたように、ゲーム制作を続けながら、自分の中で準備が整ったら「Find Nice Games」の更新は再開するつもりです。「Find Nice Games」を通して紹介したゲームのクリエイターさんに、お礼のメッセージをいただくことがすごく多いんです。SNSに投稿するときその方々のアカウントを紐づけているからというのはあるのですが(笑)、「自分のゲームが果たして誰かに届くんだろうか?」と、不安を感じながらゲーム開発をしてきた方々にとって、「見てくれている人がいる」と感じられるのは心強いことなのだと思います。

いまも「新しいゲームができたからチェックしてくれ」とメッセージをくれるクリエイターさんもいらっしゃいます。それが自分にとってもまた続けていきたいモチベーションになっているので、そうした縁はこれからも繋いでいきたいと考えています。


「Find Nice Games」ではサイト運営を支援するサポーターを募っています。また、ドラゴンワサビポテトさんがディレクターとして開発に参加しているゲーム「TELE」はitch.ioとSteamにて2026年にリリース予定。開発に関する進捗を発信する公式SNSはBlueskyにて展開中です。

「Find Nice Games」SUPPORTERSページ
https://findnicegames.com/supporters/
「TELE」Blueskyアカウント
https://bsky.app/profile/telegame.bsky.social

深淵なるゲームのおもしろさを探求しながら「アイカツ!」シリーズや「プリキュア」シリーズ、「プリティーシリーズ」などの女児アニメの魅力を広める活動にも力を入れている。

X(旧Twitter):https://twitter.com/Kusare_gamer

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