Giant Softwareより2024年11月12日に発売された、PS5/Xbox Series X|S/PC向け農業・経営シミュレーションゲーム「Farming Simulator 25」のレビューをお届けする。
「Farming Simulator 25」はスイスに拠点を置くGiants Softwareが長年リリースを続けてきた「Fariming Simulator」シリーズの最新作だ。末尾の25は年を表しており、「Farming Simulator 2008」から数えて16年、モバイル・携帯機版やスピンオフを除けば9作目となる。リアルな農業を描きファンの心を掴んだ人気シリーズだ。
「Farming Simulator」シリーズの長い歴史は要素・機能拡充の歴史と言っても過言ではない。マルチプレイヤーの追加に新たな作物や林業・畜産業の登場。メーカーとのライセンス契約を拡充し、増えていく実在の農機。他社製アドオン・ユーザークリエイトMODのサポート。その他さまざまな要素がシリーズを重ねるごとに追加され続けてきた。
これらは最新作となる「Farming Simulator 25」にも受け継がれている。このおかげで前作でできた遊びはほぼほぼ本作でも楽しむことができるわけだ。さらに、詳しくは後述するが「Farming Simulator 25」でも新たな要素・機能が当然追加されている。10年以上のシリーズの積み重ねが「Farming Simulator 25」なのだ。
変わらないプレイフィール、リアルになった土の表現

積み重ねが「Farming Simulator」シリーズゆえに、「Farming Simulator 25」はいい意味で変わっていない。
「Farming Simulator 25」でプレイヤーは祖父の農場を継いだ新米農家となる。いくらかの農地と農機を譲り受け事業をスタートすることとなる。とはいっても、ストーリーやゲーム側の設定した目的のようなものはない。何を育てるか、どのように収益をあげていくか、全てプレイヤーの自由となる。設定を変更し受け継ぐものをなしにもできるため、フレーバー程度の設定だ。
農業を行うゲームはこのゲーム以外にも数々あるが、このシリーズが描いているのは実在する農機を多数操っての大規模農業だ。巨大なトラクターでカルティベーターをひっぱり一気に畑を耕し、それが終わったらシーダーに付け替えて高速で種を巻く。実ったら収穫機でそれを根こそぎ収穫する。そういう高度に機械化された現代農業の体験がメインとなる。
そのため、ハウス栽培やキノコ養殖なども本作では行えるが、水を入れておくだけで自動で育つというかなり簡素なものとなっている。あくまで農機を操ることが本作の主眼だ。

だがいかに機械化されているとはいっても、農業は大変だ。トラクターや収穫機で何度も何度も畑を往復し、畑の全面に作業を施さなくてはならない。しかも、作業の種類ごとに毎回だ。プレイヤーは農機を操っているだけではあるが、かなりの時間を費やさなくては収穫にはこぎつけない。
ただ、この一見単調でキツい反復作業がプレイしてみると意外にも楽しいというのがこのシリーズの面白いところだ。休ませている間に雑草が生い茂っていた畑に農機を走らせるたび、畑が美しく整えられていく。見た目の変化で仕事の出来栄えがわかるのが楽しいのだ。そして手をかければかけるほど畑はさらに整い、収穫量・収益がアップするシステムとなっている。大変で時間がかかるからこそ、たくさんの作業をこなして収穫できたときの達成感がシリーズの醍醐味だ。

これまでのシリーズの楽しさを「Farming Simulator 25」は変わらず受け継ぎつつ、さらに進化をさせている。今作ではこれまでに以上に見た目の変化が描写されるようになっており、農機を畑に走らせればリアルに土がまとわりついてくる。雨の中作業をすれば、車両に水がつき、土埃が泥に変わっていく。また、タイヤにまとわりついた土はアスファルトなどの固い地面を走ると逆に落ちていくようにもなり、作業の跡が残るようにもなった。ただ見た目の変化であるが、これが仕事をした感覚をプレイヤーにより感じさせてくれるのだ。また、ケルヒャーの高圧洗浄機(農機同様ちゃんとライセンスを取得している)も実装されており、この汚れを落とすという遊びまで用意されている。
さらに素晴らしいのは、タイヤの轍だ。これまでにも轍は描写されていたが、今作では土の物理演算シミュレーションが実装されて、地面の固さとかかる荷重が計算され地面に凹凸を生み出すように進化した。この凹凸は車両に影響を与え、ガコガコと車体を揺らしたり、タイヤの進みを阻害したりする。ここに天候による変化も加わり、雨でドロドロになってくるとタイヤが滑るのだ。
農機を運転するのが「Farming Simulator」のメインだ。だからこそ、不整地での農機の挙動がよりリアルになった今作はこれまで以上にすばらしいゲーム体験をもたらしてくれる。
そして、リアルに描写するからこそ実在の農機メーカーとのライセンス契約がさらに光るものになっているのは言うまでもない。本作にはJohn DeereやCase IH、Horsch、クボタなどの実在する農機が実装されている。あらたにイセキ農機などもここに加わっており本物のように変化する世界で本物を動かせるのは、まさにシミュレータらしい楽しさだ。
天候に関してはさらに竜巻と雪・あられが作物に悪影響を及ぼすという、災害の要素も今作から加わっている。リアルさをより高め、シミュレーターとして作り込んできたというわけだ。
多様な作物と収益化手段による幅広い自由度
もう1つの主役である作物について触れていこう。
このゲームには、基本となる麦(小麦・大麦・キャノーラ)に加えて、大豆、とうもろこし、ひまわり、じゃがいも、サトウダイコン、木材用のポプラなど25種のメイン作物が用意されている。いんげん豆とほうれん草、そして米・長粒米は今作からの新規作物だ。これに加えてハウス栽培で育てるトマトやいちご、キノコなどのサブの作物もある。
これらはそれぞれ必要な作業やその手順、作付けと収穫時期、そして必要な農機が異なってくる。そのため作物を始めるための初期投資や難易度、作業時間が変わってくる。プレイヤーはこれらを念頭に入れ、自由に自分の育てる作物を選ぶことができる。もちろん、いつでも次の作物に着手できるし、やめてしまうことも自由だ。このゲームにノルマや制約は存在しない。

数ある作物を自由に育ててもいいという時点ですでにかなりの自由度だが、ここで終わらないのが「Farming Simulator」シリーズの積み上げである。
というのも、このゲームには加工・販売の要素が多数用意されているのだ。例えば、本作で追加された米・長粒米を例に取ってみると、米はそのまま売るだけでなく、製粉施設で米粉に変えることもできるし、精油工場で米油にすることもできる。加工施設を持てば箱詰め・袋詰めして商品化も可能だ。さらに、米粉はパン工場で米粉パン、米粉ケーキに加工することだってできる。しかも箱詰め、袋詰め、そしてパンとケーキは小売店に卸すだけでなく自前で直売店を作ってそこで販売することまでもできる。
というように一次産業のみならず、二次産業、三次産業へとつながっていくのが本作の楽しいところだ。すべての作物にはこの加工・販売が用意されている。もちろん加工を行えば収穫物の商品価値は高まっていく。さまざまな手法を用いて、収益を拡大していくという経営要素が本作のもう1つのプレイの柱となる。
ちなみに、本作のオープニングムービーでも大きく取り上げられている米は加工の幅がほかの作物に比べて広くなっている。シリーズが積み上げてきたモノを全て取り入れた新規要素というわけだ。このゲームの幅の広さを感じたいのならば稲作がベストだろう。このゲームにはアメリカ、ヨーロッパ、そして東アジアマップが存在しており、東アジアマップだと最初から稲作用のさまざまな農機や設備を持った状態でスタートできる。稲作が気になる方はそちらで遊んでみるといいだろう。

話を戻して、経営が大きな柱だからこそ収益アップの手法は加工・販売だけにとどまらない。
まず、農業の質を高めることも収益アップの第一歩だ。
大型で作業幅の広い農機を導入すれば作業効率は段違いとなり、さらに新たな畑で別の作物を育てる時間的余裕ができるだろう。あるいは空いた時間にヘルパーとしてNPCの農家を手伝い、報酬で手堅く稼ぐのも1つだ。農機と資金に余裕が出てきたら、今度は逆にヘルパーを雇って作業を分担するのもいいだろう。
また、先に触れた通り、このゲームは手をかければ手をかけるほど収穫量が増えるシステムとなっている。肥料を撒く、除草剤や除草装置で雑草を除去、ローラーで土壌を整えるなどなど、さまざまな作業で収穫量はアップする。こうしたプラスアルファの作業を行うための農機・アタッチメントを購入、あるいはリースするのも収益アップにつながってくる。
そのほか、ハウス栽培や畜産、養蜂箱などの要素も用意されている。これらは餌や水を供給して放置しておけば、自動で作物を生産してくれるメインの片手間に進められるサブ農業だ。これらを合わせて所有すれば収益は増えていくだろう。

さらに、このゲームには経済システムが存在し、売買価格が月が進むごとに、あるいはプレイヤーが市場に卸すことで変動するようになっている。収穫時期と価格の高騰時期がずれる収穫物も多い。売値が安いときは一旦売らずに保管をして高騰時期を待つといった対策も有効となる。かなりの資金がいるし効率はそこまで良くないが、自分で育てず作物を買って先物取引だけで儲けることもこのゲームではできてしまう。
本当に多様な収益アップの道筋が用意されているゲームだ。なんと畑を潰してソーラーパネルを置きまくってメガソーラーにして収益を上げるなんてことすら可能で、その幅の広さには驚かされる。
幅の広いさまざまな選択肢から、自らが選び、手を動かし、ビジネスを動かしていく感じが本当に楽しい。筆者は序盤の経営プランとして米と小麦を育てつつ製粉工場をフル回転させるプランを選んだが、プレイヤーそれぞれが全く異なる農業を行っているはずだ。この高すぎる自由度こそ、シリーズを通して培われてきた「Farming Simulator 25」の強い魅力なのだ。
初心者には厳しい難度だが、他には真似できない強い魅力はある
だが、これだけ選択肢が多くそれを自由に選べるということは、逆に初心者にとっては厳しいゲームになってしまっているということでもある。あまりにもできることが多すぎて、なにをすればいいのかすらわからなくなってしまうわけだ。

だというのに本作はチュートリアルがかなり控えめだ。はじめにチュートリアルでゲームの流れを学べるものの、それはこのゲームの基本となる農機の動かし方と麦の育て方、作物の売却方法を教えてくれるだけだ。小麦を始める前には石灰をまいたほうがいいとか、生育を邪魔する小石や雑草をどうやれば除去できるかとか、作物の売却先は複数あって買取価格が異なっているだとか、そういう踏み込んだところは全く教えてくれない。その先が気になるなら自分で調べろという突き放しぶりである。
一応、先輩農家のベンさんがマップに配置されており、彼に話しかけると作物の育て方などいろいろと教えてくれるのでゲーム内で調べること自体はできる。が、これも図示してくれたり実際に操作をして教えてくれるわけではなく、会話で説明してくれるだけのものだ。
これで新規プレイヤーがこのゲームを楽しめるかと言われると、かなり厳しい。多様な選択肢による自由度とその楽しさも、それを理解し選べなければ無意味どころか逆効果である。新規プレイヤーにとってこのゲームは、ただただ作業がツラい、時間ばかりかかる単調なゲームに見えてしまうことだろう。

ただ、このゲームは知識がなくとも少しずつゲームを理解していけるような作りにはなっている。
というのも畑に石灰や肥料を撒かなくとも、雑草や小石を除去しなくとも、とりあえず耕して植えて待てば作物ができるシステムなのだ。本来の農業ならこうした作業を怠れば作物は育たない。だが本作はあくまでゲームであり、収穫量が低くなるだけにとどまるわけだ。しかも収穫時期を逃して放置しない限り枯れないので、作業が完全に無駄になるということも早々起こり得ない(今作から災害が追加されたのには目を瞑るとして)。
ゲーム内の表示を確認しつつ、気付いたことを次に活かすというトライアンドエラーでゲームのコツをつかんでいくプレイができるわけだ。もちろん、調べ物をしてそれを実践していくスタイルもある。

面倒なことを地道にコツコツ行い、達成感を得るというのがこのシリーズの楽しさと最初に説明したが、こうした調べ物・勉強もそこに加わってくるわけである。
筆者の体験談で申し訳ないが、シリーズを通してプレイしてきた筆者であるが、新規要素の稲作は初体験で、わからないことが多くあった。
前作までハウス栽培にあまり触れてこなかったのだが、稲作には苗を生産する専用のハウスが存在するのでこれを使わない手はない。だが、触れてこなかった要素だけあってハウス栽培のやり方を完全に忘れており、どうやってハウスまで水を運ぶのか、というか水はどこで手に入るのかすらわからなかった。
1から調べ直し、海外の解説記事やプレイ動画を参考にハウスの扱いを学び、さらに稲作の基礎も合わせて確認した。なるほど米と長粒米では水を張るタイミングなど作業工程に差があるのか。稲は麦と違ってトラクターの踏みつけに耐えられないので除草と肥料散布は先に行っておかないとダメなのか。
こうした下調べを経て、何時間もかけて田植えを終えたときの「やっと終わった!」というここちよい疲労感と、そこからさらに時間が経って収穫できたときの達成感は素晴らしいものだった。
地道な努力と反復作業を求められるので人を選ぶし、そういうキツいプレイに興味を持ってくれた人であってもとことん突き放しているゲームではある。だが、ハマる人はとことんハマるゲームに違いない。
難しくもやりごたえのある農業の世界に飛び込もう!

またゲーム内チュートリアルは控えめではあるものの、初心者に役立つ機能自体はある。特に今作から実装されたステアリングサポート機能は新規プレイヤーにとっても非常に有用だ。これは畑全面に作業を施すためにどこを通ればいいか表示し、さらにそのルートを通っている間自動でハンドル操作をしてくれるというお助け機能だ。慣れないうちは農機の運転はけっこう難しく、作業済みかどうか目視では判別がつかないことも多い。だが、この機能を使えば畑の上に表示されるラインを確認してそこに農機を運び、あとはステアリングサポートをオンにしてアクセルを踏んでいるだけでいい。そのルートの終端まで来たらUターンして再度同じことを繰り返すだけで畑全面にくまなく作業を施せる。
さらに、本作ではヘルパーの賃金が安めに設定されている。ヘルパー機能も非常に便利でボタン1つですぐにヘルパーに作業を交代でき、あとは勝手に農機に従った作業をこなしてくれる。農作業だけでなく、農機や車両を目的地に運んだり、サイロと卸し先を往復しての納品作業もヘルパーに任せられる。しかもヘルパーは何人でも雇うことができる。ヘルパーたちと作業を並行すれば大幅な効率アップが図れるのだ。あと、反復作業がツライなと思ったら、すぐに交代してもらって自分は休憩もできる。
ステアリングサポートとヘルパー機能を用いれば、このゲームのツラさをいくばくかは解消できるのだ。

ズルい機能だと思うかもしれないが、ステアリングサポート機能は設定上GPSを用いた最先端技術という触れ込みになっているし、実際にこうした機能を実装した農機もある。またヘルパーを複数人雇うと自分が大規模農業という事業に着手している雰囲気が出て、これがけっこう楽しい。社長たるプレイヤーは収益アップのための今後の方針や、作業についての詳しい詳細を調べるブレーンに回ればいいのだ。作業ゲーの祖とも言える「Farming Simulator」シリーズだが、先に説明した通り今作では経営要素も1つの柱と言えるほどに強い。いまさら泥に塗れる農作業だけにとらわれる必要はないのだ。
積み重ねられた数々の要素が生み出す自由度の高さは、他のお仕事系シミュレータとは一線を画すものだ。ブームの魁となっただけある、歴史の強さというものだろう。本作は多くの作業ゲーの中でもキツく、難しいものであることは否定できない。だが、だからこその楽しさがあるのもまた事実だ。ぜひ、多くの方に農業の門戸を叩いてほしい。農業の奥深さと、ツラさの先にある達成感が君を待っている。
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