推し活と宗教の共通点は「神との真面目なごっこ遊び」?その憂慮すべき点にも迫る【CEDEC2024】

CEDEC2024
0コメント 小林白菜

2024年8月21日~23日にわたって開催された「CEDEC2024」。本稿では21日に行われた講演「消費社会の宗教:ファンダム・カルチャー」のレポートをお届けする。

登壇者の柳澤田実氏は、関西学院大学神学部准教授。もともとは哲学・キリスト教思想の専門家だったが、宗教と推し活に類似点を見出し、現在は推し活を中心とした現代カルチャーの研究も行っているという。

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確かにオタクにとって“推し”は神にも等しい、「信仰対象」と言って過言ではない存在であることは、筆者も一介のオタクなので感覚的によく分かる。この「推し≒神」という感覚を宗教学の観点から紐解くことで、推し活文化が持つ問題点をも言語化していく本講演は、いままで見ていた景色を対岸のほうからのぞき見るような刺激的なものだった。

「聖なる価値」に無批判すぎると、社会の“ポスト・トゥルース化”に繋がる可能性も

推し活と宗教の類似性を考える上で重要なのが、「聖なる価値(Sacred Values)」という概念だという。

資本主義による市場経済が全面化している現代社会では、人から人へのサービスやケア、言うなれば“思いやり”までもが金銭と引き換えに手に入る。しかし、人間は「あらゆるものが市場価値として代替可能である」という状態には耐えられない。

たとえば、景品としてもらったペンと、部活で苦楽を共にした仲間に卒業記念としてもらったペンなら、同じペンでも後者のほうに特別な価値を感じる。これを「聖なる価値」と呼ぶのだという。

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生命、家族、愛などはほとんどの人類にとって「聖なる価値」を見出すものであり、一方で国家、イデオロギー、人種などにより特有の「聖なる価値」もあり、これは政治的な対立や衝突を引き起こす切っ掛けにもなり得る。一方が「聖なる価値」を感じているものに対し、別の立場の者が「金銭で代替可能なもの」であるという前提で交渉した場合、激しい怒りを買ってしまうことになるのだ。

宗教は、前述の国家、イデオロギー、人種と同様、ある属性に特有の「聖なる価値」をもたらす代表的なものと言える。過去に行われた狂信的なテロリストや、彼らと対立する戦士の脳をスキャンする実験では、「功利」に基づく価値判断と、「聖なる価値」のために判断する場合とでは、活性化する脳の部位がまったく異なるという結果が出たという。

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「社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学」を執筆した心理学者、ジョナサン・ハイトが行った道徳基盤調査では、人間の“善についての感覚”を以下の5つに分類して統計を取ったことがある。このうち5つ目の「S=サンクティティ(神聖)」が「聖なる価値」を示すものだ。

C=ケア
F=フェアネス(公正)
L=ロイヤリティ(忠誠)
A=オーソリティ(権威)
S=サンクティティ(神聖)

アメリカにおける実験では、「リベラルな人間ほどケアとフェアネスの値が上昇し、それ以外は下がる」という結果が出たという。ところが、日本で同様の実験を行うと、リベラルであるほどケアやフェアネスが高まる点は共通していたものの、「どんな属性であってもサンクティティ=聖なる価値の値は高い」という結果になったのだ。

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推し活は宗教に代わる「聖なる価値」の追求のように感じられるが、とりわけ日本での推し活の流行は、上記のような道徳基盤に関わらない「サンクティティ=聖なる価値」に重きを置く感覚に要因のひとつがあるのかもしれない。

アメリカにおいては、保守的なドナルド・トランプ支持者(すなわちサンクティティに重きを置く人たち)の多くが「社会の改善よりも信仰を深めることに価値を置く」傾向にあるキリスト教福音派。彼らの中には実体のない神をリアルに感じられると言い、いっしょにコーヒーを飲んだふりをするといった行動を取る者もいるのだそう。

こうした信仰は「真面目なごっこ遊び」と形容し得るものであり、「推しをリアルに感じるためいっしょに誕生日を祝う」といった“推し活”での行動にも通じるものがある。

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社会学者のドナルド・ホートンは目に見えない存在と社会的な関係を結ぶことを“パラソーシャル・インタラクション”と呼び、メディア消費を行う時間の増大により、このパラソーシャルな関係はいっそうリアルなものになりつつあるということだった。

そして、これらの価値観が浸透することに対しては、憂慮すべき点もいくつかある。パラソーシャルな関係が現実社会での行動にも影響を与えるというのは「感情が現実を作る」ということであり、「感情が現実よりも信頼されるようになる」のはポスト・トゥルースと呼ばれる「ひとりひとりが現実を信じたいように信じる」社会に繋がる。

一度パラソーシャルな関係を結ぶと解消することは困難であり、文化的な対立の火種になる可能性は高いと言える。推し活は「あなたが何者であるか」さえ、変えてしまうのだ。これらのテーマについては、人類学者のターニャ・ラーマンが執筆、柳澤氏が邦訳を手掛ける書籍「リアル・メイキング:いかにして「神」は現実となるのか」(2024年11月12日発売)でさらに掘り下げられているとのこと。

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また、推し活は「(金銭に還元できない聖なる価値を持つ)推しに投資ができる」という名目で、むしろ金銭的に搾取されてしまうという構造が生じやすい。これまでも多方面から指摘されてきたことではあるが、「聖なる価値」という概念を用いることで、その構造の矛盾点がいっそう浮き彫りになると言えるだろう。

推す側も、推される側も、双方がより良く生きるための“推し活”というものだってもちろんあり得ると思うが、「信仰心を試す」ような形で、より多くの金銭を搾取しようとするようなやり方は見極める必要があるだろう。

そしてこれらの問題は、コンテンツを作り出す側であるゲーム業界もまた、念頭に置くことでユーザーとのより良い関係の構築に繋がるものでもあるように感じられた。

CEDEC2024公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2024/

深淵なるゲームのおもしろさを探求しながら「アイカツ!」シリーズや「プリキュア」シリーズ、「プリティーシリーズ」などの女児アニメの魅力を広める活動にも力を入れている。 X(旧Twitter):https://twitter.com/Kusare_gamer

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