2023年11月2日にマーベラスから発売されたNintendo Switch用ファッション&コミュニケーションゲーム「ファッションドリーマー」の開発者インタビューをお届け。
目次
「ファッションドリーマー」は、「牧場物語」シリーズや「ルーンファクトリー」シリーズのマーベラスが販売、「ガールズモード」シリーズや「プリティーシリーズ」のシンソフィアが開発を行う完全新規タイトルだ。

プレイヤーは仮想空間“イヴ”で自分の分身となる“ミューズ”を作成。ほかのミューズが着ているアイテムに“いいね”をするとそのアイテムが手に入り、手に入れたアイテムでほかのミューズに“ルカット(=コーディネート)”することができる。マイブランドを立ち上げてオリジナルアイテムを作ればルカットの幅は広がり、これらを用いたファッションを軸としたコミュニケーションがプレイヤー間で楽しめるゲームとなっている。
インタビューは11月21日に実施。プロデューサーを務めたマーベラスの神山敬介氏、ディレクターを務めたシンソフィアの滝田哲朗氏に、発売後の反響や、いまだから話せるディープな開発秘話、そして無料アップデートの内容を含む今後の展望について、話をうかがった。

「こういうものが好き!」が否定されない世界。既存の価値観に対するアンチテーゼを込めたゲーム
――「ファッションドリーマー」が発売されて20日ほどが経過しました。現時点での反響をどのように捉えていますか?
神山:新規かつ、既存ジャンルに当てはまらないタイトルなので、発売までどのように受け入れられるか分からない部分も多かったのですが、結論としてはシンソフィアさんの企画意図がしっかり受け入れられて、ひと安心しています。
滝田:これまで世の中になかった体験を、なるべくたくさんの方に楽しんでもらうために設計したゲームです。それこそ「ファッションには興味がない」とか「ゲームのことは分からない」という方にも気軽に遊んでもらえるようにカジュアルな作りにしたので、長時間にわたり夢中でプレイしてくれている方が少なくないのは、いい意味で計算外でした。自分たちで作っておきながら、僕自身も思った以上にかなりのヘビープレイをしているんですけどね(笑)。
ほかの社内スタッフの反応も、これまで手掛けてきたタイトルの中でも特別なものになっているようです。シンソフィアは開発会社としてけっこう長いので、20年以上ゲームを作り続けているベテランのスタッフもいます。自分より大先輩の人たちから「ユーザーさんのリアクションとして“うれしい”という言葉がここまで出ているゲームは初めてでビックリしている」という話が出ていて、感慨深いですね。「長年ゲームを作ってきたけど初めての体験だ」と。“楽しい”ではなく“うれしい”だったのが、深く印象に残っています。

神山:私は海外のプレイヤーさんが発信したもので、「ファッションにはあまり興味がないけど、こういうところがオンラインゲームとして新しいよね」といった意見を書いてくださっていたのが印象に残りました。ファッションというモチーフを使っているものの、いわゆる“ファッションゲーム”ではなく、“ファッション&コミュニケーションゲーム”だというのがしっかり伝わった実例なのかなと思いました。
滝田:プレイヤーさん自身のものだけでなく動画配信の反応なども幅広く見ているのですが、「幸せな気持ちになる」といった感想がいただけているタイトルもかなり珍しいなと思います。すごく小さな要素ひとつひとつに喜んだり、感動していただけている様子を見ると、本当に作って良かったと感じますね。もちろん、受け止めなければならない反省点や改善点もいろいろあります。
神山:オンラインが無料でプレイできることをもっと発売前から周知しておくべきだったというのは反省点のひとつで、しばらくオフラインでプレイしていた方には申し訳なかったなと感じています。
本作のオンラインモードは無料で遊べます。直接的にメッセージを送る機能はないので、ポジティブなフィードバックのみが送り合える、誰もが安心して楽しめる仕組みになっていることも改めてお伝えしていきたいです。
ユーザーIDを公開するデメリットもほとんどない仕組みなので、どんどんフォロワーを増やしていってほしいです。強いて挙げるなら「ルカットのリクエストがたくさん来て嬉しい悲鳴!」みたいなことになる可能性はゼロではありませんが。
滝田:システム面でご指摘があった中でもとくに優先度が高い部分は、12月5日に配信するアップデートVer.1.2.0で調整が入ります。新機能についてはのちほどおはなししますが、改修点についてはまずコーディネート画面でのアイテムのズーム機能。それからオンラインモードでの通知のスピードが早くなります。
もともと「通知が鳴り止まない!」というインフルエンサー体験をしてもらうために意図して設計したものではありましたが、それでもいざプレイヤーさんが遊びはじめたら想像以上の通知量になっていたので、ここは調整することになりました。ほかにも細かな部分でいろいろと調整が入る予定です。
――先程の安心して楽しめるオンラインという話と通じる部分かと思いますが、ゲームを始めたときに表示される「あなたのセンスはあなたの個性であり、ユニークなものです」のメッセージどおり、“あらゆるプレイヤーの感性が尊重される”というのは「ファッションドリーマー」がゲームデザインの面でも非常に大切にしていることですよね。
滝田:日常や社会生活の中では“嫌なこと”を伝えなきゃいけないときってやっぱりあると思うんです。僕自身は競い合ったり争うゲームも好きでよくプレイしているので、そうしたシビアなコミュニケーションを落とし込んだゲームもそれはそれでおもしろいというのも理解しています。
でも「この中ではうれしいフィードバックしかないんだよ」というゲームだってあってもいいとも思っているんです。いろいろな体験の選択肢がある中で「ファッションドリーマー」はそういうゲームですよと。それは意外とほかにないものだと思うので。
――キャラクターミューズの反応も含め、どんなコーディネートも好意的に受け取ってもらえるのは、そうした考え方が反映されていたんですね。

滝田:全年齢を対象としたゲームにするのを絶対条件として開発する中でイメージとして大事にしていたのは、オンラインによるコミュニケーションを成立させる上で「小さなお子さんがプレイしたとき、悔しくて泣いちゃうようなゲームにはしたくない」ということでした。
本作のようなオンラインを前提としたタイトルでは、“流通”や“生態系”といったものに近しいゲームデザインが必要です。そこを考えたとき、コアなゲーマーだったり、長時間やり込むプレイヤーさんじゃなくても、お子さんであったり、発売してしばらく経ってから遊んだプレイヤーさんでも「いっぱい通知が来た!」というインフルエンサー体験ができるように設計しています。
あとは「誰もがクリエイターになれるゲームにする」というのも目的のひとつとしてありました。その人自身の創造性みたいなものって、小さな子どもの頃から持っているものですよね。子どもの頃は思いついたことを自由に試していたものが、いつの間にか周囲と比較して「技術が足りないからやらないほうがいいんじゃないか」とか、いろいろなものが邪魔して外に発信できなくなっていった人は少なくないと思うんです。それはもったいないと思っていて。
「ファッションドリーマー」の世界では、コーディネートなりアイテムクリエイトなり、子どもの頃に戻って、好きに創造性を発揮してほしいですね。
神山:発売前からいただいていた反応で印象的なのが「私の中の“女児”がこのゲームを欲しがっている」みたいな(笑)。そういうふうに言ってくださっている方はけっこういたのですが、実はこちらで目指している体験といろいろな意味で合致した反応だったように思います。
滝田:社会の仕組みの中で、自分を思い切り解放できる場面というのはほとんどないんですよね。僕もこうしてインタビューを受けるにしても、言葉使いなど、いろいろなことを調節しています。でも、「ファッションドリーマー」の世界では何をやってもだいたい大丈夫です。
もちろん悪意を持って変なことをしようとするときっと伝わってしまうので、それはしてほしくないですが、「私はこういうものが好きなんだ!」ということに関しては制約のない場所になっていると思います。思い切り好きなことをしてほしいですね。けっこう、すでにあるいろいろな価値観に対するアンチテーゼを込めたゲームになったと思います。

開発初期は「いいね」のない“アイテム売買ゲーム”だった
――これまでにないゲームになっていることで、神山さんもいろいろと判断が難しい部分があったと思うのですが、そのあたりはいかがでしょう?
神山:私自身、「Switchを持っているけど、最近はあまり遊んでいない」といった方が気軽に遊べるゲームを求めていたので、「ファッションドリーマー」の企画はバチッとハマるものでしたし、開発がシンソフィアさんですから、ゲームの狙いや方向性については間違いないものを作ってくれると思っていました。
ただ、やはりいわゆる“ゲームっぽくないゲーム”をユーザーさんに届けるためには大変な部分が多々ありましたね(苦笑)。どういったメッセージを伝えるべきなのか、どういう人に向けたゲームなのか。ゲームの内外で紆余曲折はありました。
滝田:ゲームの中身でいうと、「“いいね”をするだけであらゆるアイテムが手に入る」という仕様ひとつ取っても大揉めするわけですよ。
一同:(笑)。
滝田:アイテムって一般的なゲームデザインならば、なんらかの目標を達成することでリソースを手に入れて、対価を支払って手に入れるものですよね。その部分がなくなったら「やることがなくなっちゃうんじゃないか?」というのは当然突っ込みどころとして出てきます。もしかしたら「頑張ったぶん報酬が手に入る」仕組みじゃなければ「ゲームではない」と捉えている人もいるかもしれませんよね。
でも、たとえば私も会社員なので日々労働をしなければいけないんですけど(笑)、労働で得た対価を支払わないと欲しいものが得られない仕組みに、なんでゲーム内でも囚われなきゃいけないの? というふうにも考えられると思うんです。「そこを取り払うことで開放される領域があるかもしれないよ?」と。とはいえ、それを大勢の人に納得してもらえるように説明するのは難しいんですよね。

神山:実は「いいね」するだけでアイテムが手に入るというのは、最初からあった仕組みではないんです。
――えっ、「ファッションドリーマー」のとくに革新的な部分だと思うのですが、紆余曲折の中で生まれたものだったのですか?
滝田:いちばん最初は、ほかのゲームと同様「対価を支払うことでアイテムが手に入る」仕様だった時期がありました。
神山:それがある日、シンソフィアの吉田さん(代表取締役社長の吉田秀司氏)から「神山さん聞いてよ。“いいね”するだけでアイテムが手に入っちゃうんですよ!」と(笑)。ビックリしましたけど、でもよくよく聞いてみると納得できるんです。コミュニケーションを生み出すための仕組みとしておもしろいし、流通や生態系として考えても問題なく成立している。
それまでもシンソフィアさんとコンセプトから話してきて、ずっと関わっていた私は納得しましたが、それを各所に説明しなきゃいけないので、その点でちょっと吉田さんと揉めました。
――なるほど(笑)。
滝田:新しい体験を生み出すためにコンセンサスを取りながらやってきているので、何度もいろいろな変更をしているんです。いまの話に補足すると、アイテム売買のようなシステムがいきなり「いいね」になったわけではなくて、最初は「コピー」という呼び方でした。
「コピー」のほうが機能として直接的で分かりやすくはあるんです。でも人と人がコミュニケーションで繋がる遊びを想像したとき、「コピーされた」「真似された」みたいな印象だと嫌だと感じる人もいるだろうから、それは少しでも取り払いたい。“ファッションインフルエンサー”というモチーフがハッキリと決まっていく中で、これに噛み合った表現に変えるべきだろうといった話になりました。
「いいね」と言われたら少なからず嬉しいですし、それがきちんと興味を持ってくれたから貰えるものだと分かるものにもなっている。それが正しいあり方なんじゃないかなと思ったんです。

神山:お金を支払うところから「コピー」になったのはシステム的にも大きな変化ですけど、「コピー」から「いいね」は、言うなれば名称変更されただけなんです。でも「あなたのアイテムがコピーされました」というのと「あなたのアイテムがいいねされました」では感じ方がぜんぜん違いますよね。「誰もがインフルエンサーになれる!」という世界観なら、ぜったいに後者のほうがいいだろうと。
滝田:その概念にプレイヤーさんたちがこちらの想定とは違ったキャッチーな名前を付けること自体は、それはそれでクリエイティブな遊び方だなぁと思いますけどね(笑)。
――あぁ(笑)。プレイヤーさんの反応だと、トップスの裾のイン/アウトを切り替えられるのが非常に好評な印象です。単純にCGモデルを作る労力は倍になるのではないかと思いますが、これを可能にした経緯を教えてください。
神山:これは最初にシンソフィアさんからマーベラスに持ち込んでいただいたパイロット版の頃からできるようになっていましたよね?
滝田:そうですね。ここは弊社のアートデザイナーの金谷(金谷有希子氏。本作のキャラクターデザインやアートディレクターほか、「プリパラ」のキャラクターデザインなども手掛けている)から「できるようにしたい」という話が開発初期にあった部分です。
現代のファッションではタックイン/タックアウトは重要になっているので、大変ですけど、検証した上で工数を掛ける方向に早い段階で動きました。アウターのデザインによってスカートの形状が変わるといった、そのほかの着合わせに関する部分も含め、なるべく破綻しない見た目になるように、かなりの部分を手作業でモデルを調整しています。
神山:細かいところだと感じるかもしれませんが、これができるとファーストインプレッションで「ちゃんとしてるゲームだぞ」と思ってもらえますよね。今年2月に発表したときのトレーラーの時点で、よく見るとトップスがイン/アウトを切り替えられることは分かるんですよ。それを見つけた方からすでに好意的に受け取ってもらえていました。
滝田:けっこう見られ方が変わりましたよね。もし開発期間などの制約を取り払ったら、デザインをしている人間はいくらでも工数を掛けてマニアックな仕様を入れたくなるんですけど、取捨選択の中でとりわけ重要度が高いものとして「これは入れなければ」と感じたものだったのだと思います。
プレイヤーの遊び方をヒントにしたミューズネーム「ルカット愛好家のてっちん」
――プレイヤーミューズによって何を表現して、どのように遊ぶかという点でもすごく個性が出ているように思います。
神山:タイプBを使ってくれている方も決して少なくなかったとか、タイプAでも、かわいいだけじゃなくかっこいいを目指してプレイしてくれている方もいるとか、用意した選択肢の中で幅広いプレイスタイルが生まれてきているのがうれしいですね。
滝田:おもにイメージしていたのは“自分の分身”や、“既存のキャラクター”などを模してミューズを作るような遊びなのですが、理想とするパーツを組み合わせた結果、プレイヤー自身がそのミューズに惚れ込む、みたいなプレイ体験になっている方が想定以上に多かったのが僕は印象的でした。配信を観ていても「ほとんど思考が垂れ流しになっているなぁ」みたいな方が多いのがおもしろいなぁと。

――YouTubeなどでの実況配信もとても盛況ですよね。いろいろな方の配信を見比べるのも非常におもしろいタイトルだと思います。
神山:まず「視聴し切れないくらい配信していただいてありがとうございます」と言いたいです。おもしろいなと思ったのが、配信者さんたちって「今日はファッションドリーマーをプレイするよ」みたいに告知するじゃないですか。それに対してリスナーさんで「◯◯さんのファッションドリーマーを観たかった!」みたいな反応をしている方がすごく多いんですよね。それはやっぱり個性が出やすいゲームだからだと思いますし、そういう期待に応えられるものになったのならうれしいですね。
滝田:僕はあらゆる配信者さんを観ているのですが、その人がどういうことを好むとか、何をどう感じるかといったパーソナリティが極端に出るためか、再生数やチャンネル登録者数に関わらず、どの配信者さんを観てもおもしろいですよね。発売してからは「ファッションドリーマー」の配信を観ながら自分の「ファッションドリーマー」をプレイするみたいな生活をしています(笑)。そこで刺激を受けて自分のゲームでの創作意欲に繋がるみたいな。
本当にずっと観ていられるので、特定の配信者さんを観るというのではなく「ファッションドリーマーの配信をハシゴしている」という方は僕以外にもいるんじゃないかなと思っています。
――プレイヤーの工夫によっては開発側の想定を超えた遊び方が生まれる余地のあるタイトルかと思いますが、現時点で、開発側でも想定外だったものがあればお聞きしてみたいです。
滝田:ひとつ、いいなと思ったのは、プレイヤーミューズの名前を「◯◯の△△」みたいな、キャラクターミューズの二つ名のようにしている方がいたんです。それを見てちょっと気づいたことがあって、僕もいまは二つ名っぽいものが付いた名前にしています。
僕は当初、シンプルにニックネームのような名前を使ってタイプBのミューズでプレイしていたんですけど、タイプAで遊んでいる妻と比べると、どうしても現状はリアクションの量が違うんです。ほぼ真っ黒なコーデしかしていないこともあって、近づきづらい雰囲気もあるのかもなと。「どうしたらもっとルカットしてもらえるかな?」と思っていたとき先程の二つ名風の名前のプレイヤーに出会いまして。
なぜキャラクターミューズにああいった二つ名を付けたかといえば、短い文章でその人となりを想像してもらうためなんですよね。「教師の◯◯」とかだったら「普段きっちりしたファッションをしているだろうから、あえてハズしを入れてみようかな」とか考えられるかもしれない。
それで僕はいま「もっとルカットしてほしいですよ、怖くないですよ」という印象を持ってもらえるように「ルカット愛好家のてっちん」みたいな名前でプレイしているんですけど(笑)。ほかのアイデアとして、素性が分かる名前はあまりよくないですが、僕なら「会社員(45)」にしてみるとか、どういうふうに見られたいかを名前で表現してみたり、こういった部分も一種のコミュニケーションになるよなぁというのがプレイヤーさんの遊び方から得た気づきです。
それで僕のルカットが増えたのかはよく分かりませんけど、「“ルカット愛好家”の肩書きを見て気軽にルカットしてくれたのかな」と思うと嬉しいですよね。

――自分の属性を強調することで受け手の感じ方が変わるかもしれない、というのはおもしろいですね。
滝田:仕組みを用意したのは我々ですけど、ユーザーさんの遊び方でハッとさせられることはありますね。いまはショールームに注目しています。発売から時間が経って、凝ったショールームが増えてきたので、人によってまったく異なるのが本当におもしろいですね。海外のプレイヤーさんも増えて、色使いなどの感性の違いも刺激になっています。
「色」にまつわる深~~い話。独自に体系立てた“カラーシステム”をゲーム内に実装
――ルカットしたときに「色の魔法使い」「差し色がオシャレ」といったコメントが出ると個人的にすごくうれしいのですが、こうした評価が判断される仕組みについてお聞きしてみたいです。
神山:そこを滝田さんに聞くと、すごく深い話になりますよ(笑)。
滝田:まず前提として、弊社の吉田にはゲーム開発の上でいくつかの“主義”を持っていて、代表的なものだと「バリエーションはあればあるだけ良い」という“数量主義者”である点が挙げられます。
もうひとつ、これは僕も強く同意するところで、「ゲームの中身は複雑であるべき」という主義を持っているんです。プレイヤーがシンプルかつ違和感なく楽しめるものを構築するには、中身は複雑である必要があるというものです。

――確かにコーデの配色に対する評価は、人間の感覚を違和感なくゲーム内のシステムに落とし込むことになると考えると、すごく複雑なものになりそうです。
滝田:専門用語でいう“カラーシステム”というものがあります。日本では“PCCS(日本色研配色体系)”が色彩検定などに使われていて、国によって規格が異なるのですが、色というものがどの辺りを閾値としていて、どう組み合わせるのが良いのかというのは歴史の中で体系的に定められているんです。
そうなるまでに、人間の目の仕組み、慣習、数学者・哲学者が見つけた法則といったものが組み込まれてきているのですが、この“カラーシステム”の根幹そのものを「ファッションドリーマー」のために作ってくれというミッションが吉田から僕に降りてきたんです。
光の色って“RGB(レッド・グリーン・ブルー。すべて混ぜると白になる)”の組み合わせなんですけど、カラーシステムでは普通、光を反射したときの色に適応されるCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・キープレート。すべて混ぜると黒になる)、減法混色で考えることになるんですね。
ゲーム上で表される色はRGBなので、RGBで扱いやすいように体系立てたカラーシステムを作ってほしいというのがそのお題でした。
――ゲーム開発ではほとんど踏み込まないであろう領域のような気がします。
滝田:社内ではこのゲーム内のカラーシステムを“カラーハーモニー”と呼んでいました。プレイヤーミューズをルカットしたときに出てくる「◯◯ハーモニー」といった名称や、“差し色がオシャレ”などのコメントは、これを用いて色の組み合わせを判定するシステムがあるから出てくるものです。僕は判定の仕組みもすべて知っているので、“色の魔法使い”などのコメントが出るのはちょっと凝ったカラーコーデをしている人だと思いますね。
同じ色で統一しようとする人にとって出やすいコメントもありますし、一般的なカラーコーディネーションで使われている配色のテクニックはだいたい入っていると思います。ゲームなので判定はちょっと緩めなんですけど、カマイユ、フォカマイユとか、凝ったものだとスプリットコンプリメンタリーと呼ばれるものも判定されるようにはなっています。
これら自体は独自のものではなく、ギリシャ哲学にまで遡った資料にも記述があったり、絵画技法として確率されたものだったりの集合体です。それをロジックと判定と処理に落とし込みました。学習、研究、設計あわせて1年くらいの時間を費やしたと記憶しているのですが、そのシステムを、ルカットで表示されるテキストを違和感のないものにするために組み込んだことになります。

神山:これが「シンプルなゲームだから中身もシンプルでいいでしょ」と作ってしまうと、夢中で楽しんでもらえるゲームにはならないんですよね。プレイを継続するほど、体験の質の違いが如実に出てくる部分だと思います。
滝田:違和感が出ないように作るのがいちばん難しいですね。開発者の方には、これを作ろうとしたらかなり難しいことに気づいていただけると思います。
「ファッションドリーマー」はユーザーが各アイテムの色を自由に組み合わせられて、それを全身コーデしたとき、各カラーの比率、面積、それがどのアイテムによるものなのかといった部分を内部でいろいろ処理してカラーコーデの判定をしています。アウターを着るかどうかや、トップスのイン/アウトでも判定は変わるんですけど、プレイヤーさんに伝えるのは「いいカラーだったよ!」みたいなシンプルなコメントになっているっていう。
あとはハッシュタグにも反映されていますね。判定によって「いいね」の量が変わったりはするんですけど、クリティカルな部分ではありません。でも、違和感をなくすためにやっています。
――すごくさり気ない部分ではあるので、そこまで作り込んでいたことに驚かされます。
滝田:よろこんでくださって、こうして興味を持って聞いてくださって、苦労して作った甲斐がありました(笑)。
――そこまで力を入れたものだと、ドローンカメラでの撮影時など、もっとさまざまな局面で大々的に活用したくはならなかったんでしょうか?
滝田:うーん、汎用性のあるシステムなのでやろうと思ったらできるんですけど、そういう体験をゲームの中心に据えたいわけじゃなくて、あくまでヒントのひとつなんですよね。ルカットが上手にできたときにちょっと褒められたら「ほかのプレイヤーさんにも毎回一生懸命考えたコーディネートをしてみよう」と思ってもらえたらいいな、という部分なんですよ。
もちろんゲームなので、ポイントやフォロワーを増やすために効率よくルカットしていく、ということもあると思います。それに対してプレイスタイルを強制するものにはしたくないんです。ただ、せめて頑張っているプレイヤーさんにはさり気なく伝わるものを込めよう、という意図なんですね。

神山:中で行われている判定の多くをそのまま提示すると文字情報も不必要に増えてしまいますし、現状がいいバランスかなと思いますね。
滝田:なんでも評価が可視化されるようになってしまうと、たとえばほかのプレイヤーを撮影したときにカラーコーデの判定が行われて、勝手に「◯◯の部分が素敵だね」みたいに言われるものだったら、嫌だと感じる人も多いと思うんですよね。
このゲームではドローンカメラでほかの人のコーデもどんどん撮影してもらいたいので、自動的に付くハッシュタグも「#オシャレな人発見」のように、撮られた側のことを一方的に断じるような表現にはなるべくならないように気を付けています。名称やカテゴライズって便利なんですけど、ほかの人から勝手に決めつけられるのはいい気持ちにはならないですからね。
小さいお子さんが「かわいい」と言われて「僕はカッコいいと思ってるのに!」と怒るみたいなすれ違いってやっぱりあるので、他人を勝手にカテゴライズするような表現にはならないように、繊細な部分にこそ注意しています。
「過疎っても大丈夫?」アップデートVer.1.2.0の内容、あわせてオンラインモードの持続性についても聞いてみた
――このインタビューはVer.1.2.0のアップデートにあわせて公開されることになるので、アップデート内容についても詳しくお聞きできればと思います。
滝田:細かい調整については先にお伝えしましたが、機能としては大きく3つほど追加されることになっています。まずは“ミューズ手帳”。これは各キャラクターミューズの名前や仲良しレベル、何が貰えるのか? といったことを確認できる手帳です。いわゆるNPCではありますが、「ゲームを通して友だちがこんなに増えたよ。思い出がこんなにできたよ」というのを感じてもらえるようになります。
――確かに、アップデート前の仕様ではキャラクターミューズとの関係の積み重ねがちょっと実感しづらいところはありました。

滝田:次に、“期間限定フェア”。これはオンラインモードで定期的に行われる、ちょっとしたイベントです。期間中にいいねやルカットなどのお題を達成するとスタンプが貯まって、さまざまな報酬が貰えます。いまのところほぼ毎月行うようなイメージで計画されています。
神山:イベントごとにテーマが決まっていて、貰える報酬もそれに沿った限定のヘアスタイルや型紙、それからクリエイティブキーなどになります。

滝田:3つ目が“ルックブック”です。僕が詳しくお伝えするべきはこの機能かなと思うんですけど。平たく言うとコーデ保存機能です。
――おぉ、待望の。
滝田:お待たせいたしました。ルックブックというのはファッションが好きな人なら聞いたことがあると思うのですが、「◯◯ブランドの2023オータムコレクション」のように、テーマに合わせたコーディネートのカタログのようなものです。ただ「保存機能です」というのでは味気ないので、これに見立てて複数のコーデが保存できるようになります。
ブックは複数持つことができ、それぞれに名前を付けられます。ブックの所持上限が10冊で、10コーデずつ保存できるので、あわせて100コーデまで保存できます。各コーデごとに専用の背景やポーズを選んでもらうことでブックの1ページとして登録できます。UI(画面表示)を消して、登録しておいたコーデを順番に眺めて楽しんでいただくこともできますし、対象となるページで“着る”を選択すれば、すぐそのコーデに着替えられます。

――機能性に加えて、お気に入りのコーデを使ったコレクションとして楽しむこともできるわけですね。
滝田:「春先お出かけコーデBOOK」みたいに、テーマを決めて10コーデを考えてみるとか、またいろいろと楽しみ方のアイデアが生まれるんじゃないかなと思います。
ちょっとマニアックな部分の仕様をおはなしすると、ページに保存する際はそのときの見た目も反映されるので、そのブックのためだけにミューズをカッコいい見た目にエディットするといったこだわり方もできます。それこそモデルさんが撮影する前にメイクやヘアスタイルをセットするみたいな。
あくまで機能としてのメインは自分のミューズ用のコーデの保存なのですが、ルックブックらしい楽しみ方を考えていただけたら嬉しいですね。
神山:オンラインプレイ用にこちらでサーバーを用意する仕様上、ランニングコストの面も考えてアップデートの追加要素は有料でご提供する案もありましたが、新規タイトルということもあり、世界中のひとりでも多くの方に長く遊んでいただきたいので、結果的に無料で提供することになりました。
しばらく遊んでいなくても、アップデートで「また盛り上がってるな」と感じたときに戻ってきてもらえたり、新規のユーザーさんが遊んでくれる可能性を考えると、無料でアップデートしたほうがビジネス的なジャッジとしてもハッピーになれる人は多くなるだろうと。そういう判断です。
――無料でプレイできてサーバーも独自で用意ということで、オンラインプレイの持続性の面を懸念する声もありますが、この点はいかがでしょう?
神山:オンラインプレイしていると「通信中」という表示が出ると思うのですが、通信が行われているのはこのときだけで、常にデータが行ったり来たりしているわけではないんです。これは非同期型のオンラインだから可能なことですが、完全同期型のオンラインプレイと比べたら通信量も少なくて済んでいます。
技術的な部分を詳しくおはなしすることはできませんが、こうした設計ひとつ取っても持続性を考えて企画されたゲームだということはお伝えしておきたいです。
滝田:類まれなるサーバーに対する設計思想や技術、その他諸々で成り立っています。持続可能なオンラインを実現するために、間違いなく、この世でほかに“誰も組んだ人がいないシステム”です。

神山:持続性という意味では「過疎ったらどうなるんだろう?」との疑問もあると思うのですが、リアルタイムでのマッチングが必要なゲームではないので、ピーク時よりはプレイヤーさんが減ってきたとしても、体験が損なわれない作りにもなっています。もちろん過疎らないための施策も投じていきますが(苦笑)。
滝田:類まれなる“誰も取り入れたことがない考え方”で、アクティブなプレイヤーさんの人数にほとんど左右されないプレイ体験になるような設計をしています。
――(笑)。今後も各種機能をより便利にするための改善は続いていくかと思うのですが、たとえばほかのキャラクターへのルカットの際も保存したコーデを呼び出して、判を押すようにそれを着せられるようになったら、体験が大きく変わってしまうと思います。このあたりの快適さとゲームプレイの担保についてはどのようになっていくのでしょう?
滝田:まだ固まっていない部分もありますが、「相手のことをちゃんと考える」というのは大事にしたいと考えています。これはこのゲームの“コツ”と言っていいと思います。
自分で作ったアイテムは「いいね」されるたびに二次コピー、三次コピーと拡散されていきますけど、ほかのプレイヤーさんのことをよく考えて「あなたにはきっとこれが似合う」というのを毎回一生懸命考えてあげたら、その人は着続けてくれたり、ほかの人へのルカットで使ってくれたりして、どんどん拡散されると思うんです。
ひとつのアイテムに「いいね」できるのはプレイヤーさんごとに1度だけなので、ルカットのとき同じアイテムを使いまわし続けていたら、「いいね」はあまり貰えなくなっていくはずです。キャラクターミューズに対しても同様ですね。ルカットしたコーデでほかのプレイヤーさんのゲームに登場するわけですから。相手のことをちゃんと考えたゲームプレイは、間違いなくプレイヤーさん自身にも返ってきます。

神山:ゲームなのでバーチャルな数字として可視化される部分はあるんですけど、それでも通知が来る「いいね」は、本当にどこかの誰かが押した「いいね」なんですよね。だからそれはうれしく思ってほしいですし、どこかの誰かにハッピーになってもらうために毎回一生懸命考えてルカットするっていうのは、素敵なことなんじゃないかなと思いますね。
滝田:今後もプレイヤーさんの体験がよりよいものになるためのケアについては考え続けていきます。「ファッションドリーマー」に関するプレイヤーさんによる発信は、あらゆるものを読んでいますし探して見つけていくので、これからも楽しんでいること、気になっていること、どんどん発信して応援していただけるとありがたいです。
ファッション&コミュニケーションで現実世界の見え方も変わる
――本日は「ファッションドリーマー」のプレイヤーとして興味深いのはもちろんのこと、革新的なゲームを世に出す上でのロジカルな視点や、コミュニケーションにおける普遍的に大切なことなど、多岐にわたって貴重な話をお聞きできて大変うれしく思います。
神山:このゲームでこういう話ができるっていうのがいいですよね。「かわいいゲームなんでしょ?」みたいに思われがちなタイトルだけど、実は……っていう。
滝田:まだまだ「ファッションドリーマー」は「特定の趣味のプレイヤーさんのためのゲーム」みたいに捉えられがちだと思います。けど、そもそも好きな色、デザインの服や靴を買ったりと、リアルなファッションに関心がまったくない人はほとんどいないはずなんですけど、それを好きと公言するには気構えが必要だというのがもったいないなと感じていて。
このゲームがさらに広まるだとか、今回みたいなインタビューでゲームに込めたものを知ってもらったりすることで、そうした障壁を取り払う切っ掛けになったらうれしいですね。

――現実では購入できる服には数に限りがありますし、コーデするときは世間体などをどうしても考えてしまいますけど、自分が思う理想の“かわいい”、“カッコいい”を、誰にも否定されない世界でとことん追求できるのは、この上なく幸せな体験だと思います。
滝田:でもプレイしていると、実際に服を買いたくなるんじゃないですか?
――あぁ、それも確かにそうですね。
滝田:知識が増えて「この組み合わせも行けるんだ!」みたいに、選択肢が広がっていくじゃないですか。「この組み合わせは好きじゃないな」というものも試せるので、“無駄買い”は減るかもしれないですけど。
――ゲームからのフィードバックで現実の見え方が変わるところも、「ファッションドリーマー」の大きな魅力のひとつですよね。本日はありがとうございました。
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