アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第42回は、2022年10月から放送されたオリジナルTVアニメ「アキバ冥途戦争」を取り上げます。
ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。
今回は監督を増井壮一氏、シリーズ構成を比企能博氏、キャラクターデザイン・総作画監督を仁井学氏が担当し、CygamesとP.A.WORKSのタッグによって生まれたオリジナルTVアニメ「アキバ冥途戦争」を取り上げます。
なお、本連載は今回で最終回となります。長らくのご愛顧ありがとうございました。
こんなゲームファンにオススメ!
- 「龍が如く」シリーズに代表される、任侠を題材としたゲーム
- 「パルフェ」などのメイド喫茶を題材としたゲーム
第42回「アキバ冥途戦争」
ケミストリー。この言葉は、互いに異なる存在を組み合わせた時、思わぬ効果が発揮された状態を指してしばしば使われる。「アキバ冥途戦争」は、まさにこのケミストリーとしかいいようのない作品だった。
1999年の秋葉原では、動物をコンセプトにしたメイドカフェを経営するケダモノランド・グループを軸に激しい抗争が繰り広げられていた。メイドに憧れる主人公なごみが住み込みで働き始めたのは、ケダモノランド・グループの最下層に位置する「とんとことん」。上納金(作中では「おひねりちゃん」と呼称)も滞りがちの弱小店だ。そこでなごみは、15年前の抗争で服役し、娑婆に出てきたばかりの万年嵐子と出会う。こうしてシリーズでは、「萌え」の皮をかぶった、激しい抗争劇が昭和の叙情とブラックユーモアを交えながら繰り広げられていく。しかし、それが最終的には「萌え」対「暴力」という構図に収斂し、皮(=表層)だった「萌え」が、作品の主題へと昇華するところが、本作のバカバカしくも感動的なところだ。
最終回のネタを割るわけにもいかないので、ここでは、ブラックユーモアのきいた代表的なエピソード、第8話「鮮血に染まる白球 栄光は君に輝キュン♡」を取り上げる。
ケダモノランド・グループと対立していたメイドリアン・グループ(こちらは宇宙人コンセプトのメイド喫茶を展開)は、実質的にケダモノランドの軍門に降ることになった。なごみらとんとことんのメンバーは、グループリーダー凪の命令で、元メイドリアン(現「思い出アニマルカフェ・ウーパーズ」)のメンバーと野球の親善試合を行うことになる。
フェアプレーを訴えるなごみはキャッチャー。ソフトボール経験者である彼女は、ことあるたびに声を出していく。野球の声出しとしてはごく普通だが、抗争劇の中にこれを置くと、無駄に相手を挑発しているようにしか見えないというところからじわじわと笑いがこみ上げてくる。しかもなごみは、ソフトボール経験者であることを生かして散々理屈はいうが、結局プレーは不首尾の連続で試合にはなんにも貢献していないのもポイントだ。
途中、ウーパーズのメンバーはラフ・プレーにはしり、なごみもバットで殴られたりする。だが、それにも耐えるなごみのフェアプレイの精神は、次第にウーパーズのメンバーの一部にも伝わっていく。
そこに思わぬ闖入者が現れ、ウーパーズ監督の宇垣が刺されてしまう。さらに、その闖入者もまた始末される。そして宇垣も闖入者も「死んでないこと」にされて、2人はベンチに座らされ、試合は続くのである。ああ、ショー・マスト。ゴーオン(違う)。
そもそもアニメで死体を描くということが、ある種の「おもしろさ」を醸し出す行為だ。にしろアニメでは、しばしばキャラクターは生きているのに完全に静止した姿(絵)で画面上に描かれるのである。だから「体が動かない」ということは生死を隔てる基準にならないのである。しかも、アニメでは死んだキャラクターもしばしば生き返ったりもする。そんなアニメという媒体だからこそ、顔色の悪い宇垣がベンチに座っているだけでじわじわとした笑いが醸し出されるのである。
最後に試合が終わり、とんとことんメンバーはは甲子園球児よろしく、校歌のような「ゆえに背脂は輝く」が歌い上げられ、本編は締めくくられる。
萌えと暴力のケミストリーは、さらにスポーツまで巻き込んでカオスな笑いを生み出すのだ。第6話「姉妹盃に注ぐ血 赤バットの凶行」、そして第12話「萌えの果て」が、ドラマチックで涙を誘われるほどの内容であるにもかかわらずだ。この振幅の大きさこそ本作の魅力である。
TVアニメ「アキバ冥途戦争」公式サイト
https://akibamaidwar.com/
藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。
(C)「アキバ冥途戦争」製作委員会
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